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長掌筋,円回内筋,浅指屈筋,上腕二頭筋,上腕筋との結合が知られており,また橈骨および尺骨の烏口突起からの副起始が見られている.

3. 長掌筋M. palmaris longus. (図535)

 この筋は上腕骨の尺側上顆および前腕筋膜から起り,長い平たい1つの腱となって手掌に達する.横手根靱帯の上を越えるところでその腱が扇形に広がって手掌腱膜Aponeurosis palmarisとなる(図535, 545).

 神経支配:正中神経による.

 脊髄節との関係:C. (VII), VIII, (Th.1).

 作用:この筋は手掌腱膜を緊張させ, 手を曲げる.

 変異(日本人における長掌筋の欠如は,男211体側のうち8体側(3.8%),女94体側のうち4体側(4.3%) (小金井),また154体側のうち5体側(3.2%) (松島)という(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌,17巻,127~131,1903;松島伯一:実地医家と臨床,4巻,67~69,1927),またアイヌ人ではその形が日本人のものに似ていて,ヨーロッパ入とははなはだ異なる(佐野好:福岡医科大学雑誌,24巻, 54~57,1931).):この筋はしばしば欠けている.しかし手掌腱膜が欠けていることは決してない.この筋が腱性の1つの条によって代られていることがあり,あるいは完全に筋性となっていることもある.筋と腱との分布について考えられる可能性がみな現われている.すなわち腱が上方にあって,筋腹が下方にあるもの,また上方と下方とが筋性であって,腱が中央にある場合がある.この筋は普通には両端が腱性で,中央部が筋性である,2頭性のもり,あるいは重複しているものが時としてある.その起始は次のようになっていることがある.すなわち上顆より上方では尺側筋間中隔,上腕二頭筋,上腕筋から,また上顆より下方では尺骨の烏口突起,橈骨あるいは前腕の筋に始まっていることがある.その停止は前腕の筋膜,前腕骨間膜,舟状骨,豆状骨,母指外転筋にみられる.

4. 浅指屈筋M. flexor digitorum superficialis, oberflächlicher Fingerbeuger. (図535, 538, 539)

 この筋は幅が広く,厚くしかも筋肉質に富み,他の筋といっしょに尺側上顆から起る,すなわち上腕頭Caput humeraleのほかになお尺骨からの起始があり,さらに程度の差はあるが或る広がりをもつ橈側頭Caput radialeがあって(図539),これは橈骨の上部かち起るのである.この筋は前腕の上部ではすでに述べた3つの筋に被われていて,下部では橈側手根屈筋と尺側手根屈筋とのあいだに現われ,ただ長掌筋によって被われるだけとなる(図535, 538).その4つの腱は手根管を通って手にいたり,第2~第5指の中節骨の底に停止している.浅指屈筋の各腱はその停止に達する前に,基節骨の高さでそれぞれ平たい2脚に分れて,その間に1つの裂け目ができていて,この裂け目を深指屈筋の腱が通り抜けて,それからあとは後者が表層に出る.浅指屈筋腱の分れた2脚はそのあとでは,腱束の一部が交叉したりして(腱交叉Chiasma tendinum)深い所でふたたびいっしょになり,中節骨の底の掌側面に固着するのである(図546, 547, 550).浅指屈筋の上腕頭と続側頭とのあいだに正中神経がある.

 神経支配:正中神経による,さらに時として尺骨神経も来ていることがある.

 脊髄節との関係:C. VII, VIII, Th. I.

 作用:この筋は第2~第5指の中節骨を曲げ,上腕骨の尺側上顆から起るすべての筋のように,前腕を曲げることに加勢する.

 浅指屈筋の腱はこれが手根管に入るときに2層となってならぶ,すなわち第3および第4指(それゆえ中央の2指)にゆく腱が浅層にあり,第2および第5指てそれゆえ両側にある2指)の腱は深層にある.

 変異:橈側頭の強さはすこぶるまちまちである.これは全く欠如していることがある.示指にゆく筋腹はしばしば完全に独立している.Graeper(Anat. Anz., 50. Bd.,1917)は示指にいたる独立の筋腹を手掌でみている.ずっと下方に変位したこの筋腹の上方につづく腱はその上腕頭の内部で尺側上顆まで追跡された.下方の腱は通常の浅指屈筋の腱と同じ関係であった.4つの筋腹が全部独立していることはいっそうまれである.小指にゆく腱はしばしば欠けている.隣接する筋との結合は比較的しばしばみられる.この筋はまれに1つの腱を手掌腱膜に送っている.

5. 尺側手根屈筋M. flexor carpi ulnaris. (図535, 538)

 この筋は2頭よりなり,上腕頭Caput humeraleは尺側上顆および前腕筋膜から起り,尺側頭Caput ulnareは幅の広い1つの腱板によって肘頭の後面,および尺骨の後縁からはじまる.

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最終更新日13/02/03

 

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