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ε)吻合Anastomosen

 二つの脈管が開放性に結合,すなわち連続すること,つまり交通枝Rami communicantesまたは交通脈管Vasa communicantiaによる吻合Anastomosisは,その脈管が小さいほど,つまり心臓からいっそう遠くにあるほどしばしば見られる.これは動脈,静脈 リンパ管の何れにもみられることである.もっとも胎生期には動脈の主な本幹の吻合さえ見られる(動脈管による大動脈と肺動脈との結合).

 単純吻合の型にはいろいろな種類がある.多数の比較的小さい脈管が1つの面の上で多数の吻合によってたがいにつながるときは脈管網Rete vasculosum, Gefäßnetzという.1つの膜が比較的大きな数多くの動脈,静脈などの脈管をもっていて,しかもこれらの脈管がこの膜じしんの栄養というよりは,むしろこの膜で包まれた器官の栄養を司どるのであるか,あるいは漿液をだす役割をはたしているばあい,脈管膜Gefäßhäute, Aderhäuteとよばれる(柔膜,眼球の中膜,蝸牛の血管条).

 脈管が1つの面上がけでなく深さにおいてもたがいに結合しているばあい,静脈では珍しくないこの結合様式を脈管叢Plexus vasculosus, Gefäßgeflechtという.

ζ)迷網Rete mirabile, Wundernetz

 迷網とは1本の動脈が細い枝の束を作って急に分れ,その枝がたがいに結びついてふたたび1本の動脈に集まるのをいう.つまり腎臓の糸球体におけるごときものである.

η)脈管系の短絡Apparatus derivatorius, Kurzschlüsse im Gefäßsrvstem(図602)

 脈管系の短絡または近道,いわゆる動静脈吻合arteriovenöse Anastomosenとは特別な壁の構造をもつ小動脈が多くのばあい非常に薄い壁をもつ静脈に直接に移行することである.ここでは血液の循環が毛細管の仲介なしにおこる(図602).

[図602] 動静脈吻合(短絡循環)derivatorischer Kreislauf小腸 (ネコ)  (Spanner, Morph. Jhrb., 69. Bd.,1932)

 かつてはこの短絡は珍奇なものとみなされる傾向があったが,鳥類,哺乳類および人類においても,きまった所に常にそしてはなはだ数多く存在することから,体の特別な装置と考えなくてはならないのである.これは生後に初めてできあがる.

 人では爪床,手足の指頭(Hoyer 1877, Grosser,1902).手の母指球と小指球の皮膚,陰茎海綿体(陰核海綿体は異なる)の螺行動脈(Clara 1927,1938),尾骨動脈糸球(後述の尾骨動脈糸球の項参照).小腸(Spanner 1932).腎臓,唾液腺(Spanner 1942),口蓋扁桃(V. Hayek 1942).肺と胸膜(V. Hayek1942).甲状腺(M. B. Schiimidt 1940).柔膜(Testut 1888)に認められた.鼻と耳の皮膚で記載された短絡(Suquet 1862)は人類についてはその後ふたたび見いだされていない.

 このようなつながり方をする動脈の壁は特殊な構造をしている.筋層がはなはだ強大で内腔が狭い.筋層は,内皮の下に密接して縦走する筋線維のいくつかの束を

なしていて内方に突出し,内腔を星状にしている.弾性成分は全くないか,あってもほとんど痕跡的である(Clara).つまり閉塞動脈Sperrarterienである.ほかの所ではしばしば平滑筋細胞が上皮様細胞となり(Schumacher 1908, Clara 1927, Becher 1936).膨張できる細胞まくらZellkissenをなしている.これは動脈の横断面でその全周を占めていることもあるが,単に一部のみに存在することがあり,その一部も広狭いろいろである.

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最終更新日13/02/03

 

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