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 その起始部はたいてい胸鎖乳突筋の前縁に被われているがすぐそこから内側に出て,頚動脈三角にいたり,そこで中頚筋膜と広頚筋によって被われる.さらに上方では茎突舌骨筋と顎二腹筋の後腹がその外方に重なり,つづいてこの動脈は耳下腺の下顎後突起にはいる.耳下腺の実質の一部が外頚動脈を下顎枝からわけへだてている.外頚動脈と内頚動脈のあいだには茎状突起と茎突咽頭筋および茎突舌筋がある.

 顎二腹筋のすくそばで,舌骨の上を弓状をなして走る舌下神経が外頚動脈の外側を通り,これと交叉する(図639).同じようにして外頚動脈の上端の近くでは,顔面神経が耳下腺の中でこれと交叉している.茎突咽頭筋に伴って走る舌咽神経は外頚動脈と内頚動脈のあいだにある.上喉頭神経は内外の頚動脈の後方にある.

 頭部表層に分布する動脈の神経は交感神経,三叉神経,顔面神経,大後頭神経,大耳介神経に由来する.

 変異:起始の変異についてはすでに総頚動脈の項で述べた.多数の枝がときどき起始の近く,あるいはもっと上方の1個所でいっしょに出ていることがあり,または幹の全長にわたって等しい間隔に分れていることがある.枝の起始がほかの動脈に移っていたり,若干の枝が集まって短い共通の幹をもっていたりすることによって枝の数が普通より少ないことがある.また枝の数が増していることもある.たとえば普通だと枝からさらに分れでいぐものがすでに幹から直接に出ていたり,ほかの幹から出るはずの血管が外頚動脈から出ている場合である.ごくまれに外頚動脈の位置が顎二腹筋と茎突舌骨筋の外側になっている(E. Pisk, Anat. Anz., 45. Bd.,1914).

外頚動脈の枝を次のように分類する.

1. 前方のもの:上甲状腺動脈,舌動脈,顔面動脈;2. 後方のもの:胸鎖乳突筋動脈,後頭動脈,後耳介動脈;3. 内側のもの:上行咽頭動脈;4. 終枝:浅側頭動脈,顎動脈.

1. 上甲状腺動脈A. thyreoidea cranialis (図639, 640)

 上甲状腺動脈は舌骨の大角に密接したところでその下方にあたって,総頚動脈から分れたばかりの外頚動脈より出ている.

 外頚動脈を出てから前下方に曲り,舌骨下筋群に沿ってこれらの筋に枝をあたえつ~上り,甲状腺にいたる.この腺のなかで分枝して下甲状腺動脈とつながっている.

 その途中で次の枝を出す.

a)舌骨枝R. hyoideusは内側にすすむ小さい枝で舌骨付近の軟部に枝をあたえるが,反対側の同名動脈とつながることがある.

b)胸鎖乳突筋枝R. sternocleidomastoideus同名の筋にいたる.

c)上喉頭動脈A. laryngica cranialis.この動脈は上喉頭神経とともに下方にすすみ,多くは舌骨甲状膜を貫くが喉頭に入る前に甲状舌骨筋で被われている.喉頭の内部では筋と粘膜に枝をあたえる.上喉頭動脈は多数の筋枝を出す(その数は個体的に違う).それらの枝は舌骨下筋群, 喉頭筋および咽頭喉頭筋に分布している.

d)輪状甲状筋枝R. cricothyreoideus.小さいが,その位置からして重要な枝であって,同名筋にいたる.これは輪状甲状靱帯の上でしばしば反対側の動脈や舌骨枝の下行枝と弓状の吻合をいとなんでおり,喉頭の内壁に枝を出すものである.

e)甲状腺への枝(これは終動脈である).

 変異:上甲状腺動脈がときどき非常に強大になっていて,そのため反対測の同名動脈,あるいは下甲状腺動脈を代行していることがある.また非常に細くて筋枝と上喉頭動脈だけになっていることもある,その起始が総頚動脈に移っていたり,舌動脈と共同に出たり,または舌動脈と顔面動脈と共通の幹をもっていたりする.2本の上甲状腺動脈が1側の外頚動脈から出ていることも多い,上喉頭動脈がときどき外頚動脈から直接に出ていることがあり,これはヨーロッパ人では13.4%にみられるが日本人ではわずかに4.2%にみられるのみである,(Adachi).あるいは総頚動脈から出ていることさえもある.また甲状軟骨の甲状孔Foramen thyreoideumをへて喉頭にはいることがしばしばある.上甲状腺動脈の幹がしばしば前枝Ramus ventralisと後枝Ramus dorsalisに分れ,それぞれ甲状腺の前部と後部に分布している.

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最終更新日13/02/03

 

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