歴史的な偉大な解剖学書
6. 第1背側中手動脈A. metacarpica dorsalis
母指にいたる2本の背側指動脈Aa. digitales dorsalesは母指背面の両側縁を遠位にすすむ.また示指の背側指動脈は示指の背面の橈側縁にある.これら3つの指動脈が共通の1幹から出ないで,別々に分れて出ていることがある.あるいはそのうちの2本が共通の幹を作っていることもある.
7. 母指主動脈A. princeps pollicis.これは橈骨動脈の終枝の1つであって,橈骨動脈が第1背側骨間筋の両頭のあいだを通る間で,あるいはそこを通り抜けた後で始まる(図658).
母指球の諸筋の下でこの動脈は3本の固有掌側指動脈Aa. digitales volares propriaeに分れているが,これらは母指掌面の両側縁と示指掌面の橈側縁を養っている.母指にいたる2本の掌側指動脈はしばしば1本の共通の小幹をもって始まる.示指の橈側縁に分布する掌側指動脈は橈骨動脈から別に分れていることがあって,これを特に橈側示指掌側動脈A. volaris indicis radialisと名づける.
8. 深掌枝R. volaris profundus.この枝は橈骨動脈の第2の終枝であって,これは深掌動脈弓Arcus volaris profundusに移行しその主要成分となる(図658).
変異:橈骨動脈が高い所で起ることについてはすでに577頁で述べた.この橈骨動脈はときどき特に高位で始まる場合にすぐ皮下を通る.ときおりこの血管の位置が腕橈骨筋の尺側縁から掌側面に変わっている,また橈骨動脈が母指の諸伸筋の腱の下を通らないで,これらの腱の上をへて手関節を廻っていることがある.--橈側反回動脈A. recurrens radiaiisがしばしば非常に太くなっていることがあり,文はかなり多数の枝に分れていたりする.橈骨動脈が上腕で始まっているときには橈側反回動脈は上腕動脈の幹から出たり,尺骨動脈から出たりするが,また非常にまれには総骨間動脈から出ている.--浅掌枝はしばしばはなはだ細くて掌動脈弓とつながらずに母指球の短い筋のなかで消えてしまう.ほかの例では浅掌枝が非常によく発達している.そのときにこの枝が掌側動脈弓を作らないで,1本ないし数本の指動脈を出していることがある.ときとして浅掌枝が前腕のかなり高いところで出ている.Adachiによると浅掌枝が尺骨動脈と同じくらい太いか,あるいはそれよりもっと太くなっていることがヨーロッパ人で36.2%,日本人で8%に見られるという.なお586~591頁の掌側の動脈弓の項を参照されたい.
この動脈は短い幹をもち,まもなく掌側枝と背側枝に分れるが,これらの枝がしばしば独立して上腕動脈から出ていることがある.掌側枝の方がいっそう細く内側近位の方向にすすみ,上腕筋と円回内筋のあいだにあって,遠位尺側副動脈とつながる. 背側枝はそれよりも太くて浅指屈筋の下をへて尺側上顆の後面に達し,尺側手根屈筋の両頭のあいだで尺骨神経の走行に沿って近位に向い,筋や神経や関節に枝をあたえ,近くの動脈の枝(特に近位尺側副動脈)とともに肘関節動脈網Rete articulare cubitiにつながっている.
この動脈はたいてい橈骨動脈より弱くて,前腕の内側を遠位に向かって走っている.その起始からまず弓状にまがって尺側遠位の方向に向い,前腕の浅深の両屈筋群のあいだに入り,尺側手根屈筋に被われて,その腱の外側縁で豆状骨の外側に達するが,手関節ではなおこの腱によって少しく被われている.豆状骨の外側より遠位で尺骨動脈はその終枝に分れる.
Adachiによると--前腕の遠位部で測定すると--日本人では100例中70例において橈骨動脈の方が太く,尺骨動脈の方が太いのは14例であり,同じ太さのものは16例であった.しかしJaschtschinskiによるとこの場所では尺骨動脈のほうが平均していっそう太いものであるという.
局所解剖:起始では尺骨動脈は尺骨の烏口突起に密接しており,ついで深指屈筋の上にいたり,手根では横手根靱帯の上にある.
最終更新日13/02/03