Rauber Kopsch Band2. 284   

 3~5メートルの長さがある空回腸はまがりくねって,せまい腹腔のなかに収まっており,その収まり方にはもちろん広い範囲の変化があるが,やはり一定の様式がみられるのである.腸腹Daumbauchの上部では横行結腸と横行結腸間膜に密接している腸係蹄が水平方向にあって横走している.小骨盤のなかでもやはり水平の方向に走っている.脊柱の右と左にある腸管は,上下の方向に並んでいる.最も前方たある係蹄には一定した走行の方向が認められない.

 係蹄の上方群(水平方向に走るもの)と左方の係蹄(上下方向に走るもの),および中間部の係蹄群の一部(不規則の方向に走るもの)は空腸に属している.中間部の残りの部分と右方の係蹄と(下方の)骨盤内の群は回腸の範囲である.また回腸の末端部の位置は畠定であって斜めに右上方にすすんで,右腸骨窩のなかで大腸にはいっている.

 なおまた,表面にある小腸係蹄と深層にある係蹄との関係がいっそう重要である,この点については空回腸の全長の1/3だけが表層の腸係蹄に属しており,2/3は深層の腸係蹄に属していることが分かった.D. Sernoff, Internat. Monatsschr.,11. Bd.,1894.

 小腸間膜根の走行にはきわめて個体差がある,Stopnitzki(1898).

 小腸間膜の幅はさまざまである.個体的な差異を別にしても,小腸間膜根と腸間膜の腸壁付着部との隔たりは十二指腸空腸曲のところと盲腸への移行部の近くとがもっとも小さい.小腸間膜がもっとも幅の広いところは1ヵ所ではなくて2ヵ所ある.1つは腸係蹄の上1/3と中1/3の境にあたるところであり,いま1つは小腸の末端部の近くである.

 小腸間膜の初まりの部と終りの部には重要な特徴があり,これは腹膜のひだとくぼみの形としてあらわれている.回腸の末端部と盲腸のあいだにある特別なことがらについては大腸の腹膜嚢のところですでに記した.しかし十二指腸の終りの部と回腸(原文に回腸とあるが,空腸の誤りであろう.(小川鼎三))の初まりの部とのあいだにあるひだとくぼみについてはまだのべていない.これらは常に存在するものではなくて,その様子が変化に富んでいる.

 これらのひだとくぼみの実地上の意義はくぼみのなかにしばしば腸の長い部分が入りこんでそこに捕えられて,くびれることがあるのである.このような現象を内へルニアHerniae internae,および腹膜後ヘルニアHerniae retroperiltonaealesという.

 上・下十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus cranialis, caudalis(図159)は常にみられるものであって,その入口はそれぞれ上・下十二指腸結腸間膜ヒダPlica duodenomesocolica cranialis, caudalisによって境されている.

 前者のなかには下腸間膜静脈,後者のなかには左結腸動脈の1枝の走っていることが多い.

5. 生殖器の腹膜嚢Genitalkapsel

 生殖器の腹膜嚢は泌尿器と生殖器の一部を入れている.そして男女によって異なったぐあいにできている.同じであるのは膀胱の後壁を被う腹膜である.内部生殖器の形と位置が異なるのに応じてその腹膜嚢の部分もきわめて相違した様子をしている.男では精嚢腺と精管だけが部分的に腹膜に被われている(図270, 349).精巣は腹膜鞘状突起のところにあるのであるが,腹腔から分れて陰嚢のなかにあるので腹膜嚢のなかには存在しない.卵巣は位置の変化がそれより軽度である.卵巣は子宮,腔円蓋,卵管,子宮鼡径索,卵巣提靱帯,卵巣上体,卵巣傍体とともに前額面上にのびた大きな腹膜のひだの範囲にある.このひだは膀胱と直腸とのあいだにあるもので,子宮広ヒダの項ですでに記載してある(211頁,  212頁).これについては図275, 284, 285, 290を参照されたい.

 子宮広ヒダの前葉は子宮体の膀胱面を被い,子宮頚のところに達し,ついで膀胱底に移行している.子宮鼡径索はこの前葉に被われて,さらに腹膜下鼡径輪にすすんでいる.子宮広ヒダの後葉はそれよりもずっと下方まで達して,子宮体と子宮頚から腟円蓋の後面に達し,ついで直腸に移行している.後葉は卵巣と子宮卵巣索を被っている.前後の両葉のあいだには卵巣上体と卵巣傍体および脈管と神経が存左する.子宮広ヒダの上縁には卵管がある.卵管の腹腔口によって女の腹膜腔は生殖器の内腔とつづいている.卵管の腹腔端の外側で子宮広ヒダは約2cmの長さの自由縁をもっている.

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最終更新日13/02/03

 

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