Rauber Kopsch Band2.655   

 アブミ骨ヒダPlica stapedisはアブミ骨とその閉鎖膜とを包み,さらにアブミ骨筋の腱と小橋とのあいだにも張っている.

 鼓室の粘膜は乳突洞口を通じて乳様突起内の聖洞につづき,そこですべての骨板を被うばかりでなく,粘膜だけでできた細かいしきりや壁をつくつたり,骨壁のあいだに特有な形の索を張つたりしている.

 鼓室粘膜の上皮は線毛円柱上皮で,補充細胞をまじえている(図678).しかし鼓膜の内面は単層扁平上皮で被われている(図677).また上述の多くのひだや鼓室小骨の表面の上皮は2~3層の扁平上皮であって,線毛がない.粘膜の結合組織性の部分すなわち粘膜下組織は骨膜とはなはだ密に結合しているので,両者の境ははっきりしていない.

 鼓室の前方ではその粘膜に長さ0.1mmほどの短い腺管が時おり見られ,これがいわゆる陰窩Kryptenである.あるいはまた斜めにのびて側突起をもつ比較的長いものが見られることもある.鼓室の後方部と乳突蜂巣の粘膜には腺がない.

 乳突蜂巣の粘膜は鼓室粘膜に比べると薄くて血管にとぼしいから色調が白つぼくて,扁平上皮で被われている.上に述べたように粘膜が橋わたしや糸状をなして伸びているが,その途中の所々に同心性に縞のある結合組織性の肥厚部がみられる.これは結合組織索の軸をもっていて,ケッセル・ポリツァー小体Kessel-Politzersche Körperchenとよばれる.

f)鼓室の陥凹(図676)

α)鼓室上陥凹Recessus epitympanicusまたはAtticus(屋根裏部屋の意)というのは中耳の上部であって,中耳の天井から鼓膜張筋の腱め高さまでの範囲を指す.鼓室上陥凹のなかにツチ骨の小頭とキヌタ骨の体とがある.この陥凹の側壁は側頭鱗に属して,その鼓膜切痕のある部分によってつくられている.また後方は乳突洞口に移行する.そして乳突洞口じしんも,多くの学者はこれを鼓室上陥凹に属するものとしている.

β)上鼓膜陥凹Recessus membranae tympani superiorまたはプルサク腔Prussakscher Raumとよばれるのは1つのロート状の空所で,その内側のさかいはツチ骨の頭と頚ならびにキヌタ骨の体によってつくられ,外側壁は鼓膜の弛緩部と,鼓膜切痕を有する側頭鱗の部分とからできている.

γ)前鼓膜陥凹Recessus membranae tympani anteriorは鼓膜と前ツチ骨ヒダのあいだにある.

δ)後鼓膜陥凹Recessus membranae tympani posteriorは後ツチ骨ヒダと鼓膜とのあいだにある.

 鼓室の動脈は茎乳突孔動脈からの後鼓室枝R. tympanicus posterior,中硬膜動脈の浅錐体枝R. pyralnidis superficialisからの上鼓室枝R. tympanicus superior,内頚動脈からのRamulus caroticotympanicus(頚鼓小管小枝)ともいうべき1枝,ならびに前および下鼓室動脈Aa. tympanicae anterior et inferiorである.比較的太い血管は結合組織の深層を通り,表層は毛細管に富んでいる.鼓室小骨にもここから細い血管が進入している.

 静脈は中硬膜静脈と咽頭静脈叢に注ぐ.

 リンパ管は骨膜のそばの深いところで叢をなし,その中にかなり拡張した嚢状の部分がある.鼓膜の上縁と鼓室蓋のところの粘膜には細網性結合組織があって,リンパ球を蔵している.またこの細網性結合組織が所々でほとんどリンパ小節とみられるものになっていることがある.

 神経は鼓室神経叢Plexus tympanicusから来ている.この神経叢には神経細胞が散在性に,あるいはいくつかの群をなしてふくまれている.しかし鼓室神経叢をなしている神経のごく小部分が鼓室に分布するにすぎないのであって,大部分の神経束は鼓室の内側壁を通りすぎるだけである.その経過についてはすでに 475頁で述べた.

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最終更新日13/02/03

 

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