進化 evolution

最終更新日:2002年05月09日 船戸和弥のホームページ

 哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)(p226)から引用

 広義には発展の意に用いられたり、また革命に対する斬新的変化の意に用いられたりもする。生物学では、生物が不変なものではなく、世代を経るにしたがって変化することをいう。この意味の進化の過程で、生物は一般には体制が複雑化し、環境への適応が高度化していく。体制が単純化し、形が小さくなり、生活のスケールが縮小する場合を退化(degeneration)という。個体の部分である器官についても、その単純化、縮小、あるいは機能の減退を退化という。個体の進化は、特定の器官・機能の発達と関連して、他の器官・機能の退化をともなう。進化器官は高等な生物ほど多く、このことは進化の有力な証拠のひとつと考えられている。進化と退化とは相補的な関係にある。また、進化の過程で退化・消失した器官は復旧されることはなく、その機能の必要が生じた場合にはその役目をする別の器官が新しく生ずる。退化は旧状態への退行ではなく、新しい状態への変化であり、下向的進化ともいう。高等な生物と下等な生物とどちらかが生存により大きく適しているかということは簡単には断定できないとの考えから、また、高等・下等の概念は生物界とは無縁な価値判断をともなったものだとしてそれを排し、生物の進化を発展とは見なさないで、進化を<変遷>とよび、さらにまた<降下>とよぶ学者もある。しかしそれらは、進化が一般には適応の高度化による生活のスケールの拡大であることをみとめない見解に属する。なお、evolutionの語はもとは<巻物を広げること>の意で、発展を意味するものではなく。生物学の用語としてもはじめは個体の発生(発育・成長・転形)の過程に用いられたもので、その過程が巻物を広げるのと同様の過程であるとの考え(前成説、preformation theory, 個体発生において、完成さるべき個体の個体の形態、構造があらかじめなんらかの形で存在し、それがあとになって繰り広げられると見る説)によるものであった。生物の進化は相次ぐ質的変化による発展であって、前成説は進化の考えとは調和しない見解に属する。