信号系 signal systems

最終更新日:2002年05月10日 船戸和弥のホームページ

哲学事典(森 宏一編集、青木書店 1981増補版)(p230)から引用

  パーブロフ学説によれば、人間をふくむ高等動物の行動は条件反射で構成されており、一つの条件反射の条件刺激は、その反射の無条件刺激を信号しているものであると考えることができる。行動のメカニズムとしての条件反射の系は、信号の体系である。条件刺激となるものは動物ではすべて具体的な自然の事象であるが、人間では言語が条件刺激となって信号系に加わる。パーブロフは言語を第二信号系と名付け、動物と人間に共通な基礎的な信号系を第一信号系とよんで区別した。言語が条件刺激となって働くとき、それは具体的な条件の事象を表示し、信号の信号として働くのであって、第一信号系とは性質を異にしている。また高次神経活動としては同じ条件反射の諸法則にしたがうが、その度合に差があり、第一信号系とは質的な違いがある。条件反射は動物の心理現象の基礎であり、感覚・印象・表象など外界の感性的な反映は、信号が具体的な事象である第一信号系の無数の信号の抽象と一般化がおこなわれ、高度な思考過程が生じる。無条件反射は外界の作因に対して受動的な反応である性格が強いが、条件反射では反応に能動性が生じる。そして第二信号系では能動性が自覚性が生じ、意識現象の基礎となる。人間の信号系では、第二信号系が主導的な役割を演じているが、第二信号系は第一信号系を土台として形成され、それと結びついて機能し、反映の感覚的な性格から絶縁されないし、第一信号系の感覚的な反映は、第二信号系によって自覚性を賦与される。第二信号系は<言語条件反射>とよばれることもあるが、パーブロフ学説にしたがえば、条件反射の一種にすぎないのでなく、第一信号系とは質的に異なる高次の信号系なのである。また、動物の本能行動を触発する刺激を<信号刺激(sign stimulus>とよぶことがある。しかし、これは条件刺激ではなくて、無条件刺激に属する。人間をふくむ高等動物では、無条件反射の中枢は大脳皮質下から脊髄にあり第一信号系の中枢は前頭葉を除く大脳皮質に形成される。第二信号系は前頭葉にその中枢の座があるとされている。人間の脳が動物の脳と比較して異なるもっとも大きい特徴は、前頭葉、とくにその先端部が、著しく発達していることである。