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 変異:後頭動脈はときとして内頚動脈から出ることがあり,また鎖骨下動脈の甲状頚動脈から出ることもある.またいっそう浅いところを通り,頭最長筋の外側,あるいは胸鎖乳突筋の外側をさえ走ることが少くない.後の場合には小さい枝が正常の位置にあることが多い.多くの例で環椎の肋横突起の下を走る.後耳介動脈,上行咽頭動脈,茎乳突孔動脈が後頭動脈の枝をなすことが多く,しかも上行咽頭動脈が出ている場合はヨーロッパ人で13.9%,日本人で23.6%であるという(Adachi).

6. 後耳介動脈 (図639642)

 これは小さい動脈で,後頭動脈のやや上方で外頚動脈から出る.耳下腺に被われて茎状突起の上に接して上行し,ついで乳様突起の前で耳介の後において頭頂に向かっている.乳様突起のやや上方で前と後の終枝に分れる.後耳介動脈の枝としては顎二腹筋の後腹,茎突舌骨筋,茎突舌筋,胸鎖乳突筋,咬筋,内側翼突筋にいたる数多くの筋枝,および耳下腺にいたる枝のほかになお次のものがある.

a)茎乳突孔動脈A. stylomastoidea.これは細い動脈であって,茎乳突孔を通って顔面神経管に入り,その中をずっと走って,1本の枝すなわち,アブミ骨筋枝R. stapediusをアブミ骨筋にあたえた後,顔面神経管裂孔で硬膜に達する.また1本の側枝,後鼓室枝R. tympanicus posteriorは鼓索神経と共に鼓索神経小管を通って鼓室に入り,鼓室に分枝するが,また乳突枝Rami mastoideiを乳突蜂巣にあたえている.そのさい顎動脈からの枝で錐体鼓室裂を通って鼓室にくる前鼓室動脈とつながっている.

b)耳介枝R. auricularis.これは耳介の後面およびその縁に枝を送り,また穿通枝を耳介の前面に出している.また小枝が外耳の小さい諸筋に達している.

c)後頭枝Roccipitalis.これは側頭骨の乳突部を越えて後方にすすみ,後頭動脈の枝と吻合する.

 変異:しばしばこの動脈が弱く発達していることがあり,また茎乳突孔動脈をもって終わってしまうこども少くない.時としてこれが後頭動脈でおき代えられている.後頭動脈が後耳介動脈の少数の枝を出していることがしばしばである.後頭動脈と後耳介動脈が短い1本の共通な幹をもって出ていることもある.

7. 浅側頭動脈Arteria temporalis superficialis(図639642)

 この動脈は外頚動脈の浅層における終枝であって,下顎枝の頚のところで外頚動脈から発し外頚動脈と同じ方向をとって上方にすすむ.耳下腺の実質に囲まれてまず外耳道と下顎小頭の間を通り,ついで頬骨弓の根を越えて上行し,ついで側頭筋膜の表面にいたる.頬骨弓より数cm上方でほとんど直角をなしてたがいに離れてゆく2本の終枝,前頭枝Ramus frontalisと頭頂枝Ramus parietalisとなる.浅側頭動脈の枝には次のものがある.

a)耳下腺枝Rr. parotidici.耳下腺にいたる.

b)顔面横動脈A. trapsversa faciei(図639, 640, 642).この動脈は初め耳下腺で被われ頬骨弓と耳下腺管の間で咬筋の上を越えて,ほとんど水平に走り,そのさい顔面神経の2本の枝に伴われている.顔面横動脈は耳下腺と顔面筋に枝をあたえ,その先きは3本ないし4本の枝に分れるのである.

c)耳介前枝Rr. praeauriculares.これは耳介の前面と耳介筋および外耳道に分布している.

d)頬骨眼窩動脈A. zygomaticoorbitalis.この動脈は側頭筋膜の上を越えて外眼角にいたり眼輪筋に分枝する.

e)中側頭動脈A. temporalis media.これは頬骨弓のすぐ上方で側頭筋膜を貫いて,側頭鱗の表面にある中側頭動脈溝にいたり,側頭筋を養うことにあずかっている.

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最終更新日13/02/03

 

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