Rauber Kopsch Band2. 07

十二指腸に付属する大きい腺

肝臓Hepar, Leber(図99,100,113,135155)

 肝臓の基本形は3面をもつプリズムで,その縁や角が

前縁ventrale Kanteのほかはみな円みをおびているといってよかろう.暗い赤褐色を呈していて,重さは約1500gもある.(日本人の肝臓の重さは男(914例)の平均1262g,女(457例)の平均1147gである.保田収蔵:九大病理学教室臓器統計.福岡医大誌11巻360~423,1918. また山田致知(日本人の臓器重量.医学総覧2巻14~15・1946)によれば男(1186例)の平均1264g,女(762例)の平均1181gである.)

 これは体重のおよそ1/36にあたる.胎児や新生児では肝臓が比較的にはもっと大きい.また肝臓の比重は1050~1060である.赤褐色を呈するその実質は充実したものであるが,はなはだ固いといえるものではない.たやすく切れるし,またひき裂くことができる.そして生体において圧や震動によって壊れることがまれでない.他の諸器官が同じ外力で何らの傷をうけないばあいにもそれがおこる.裂けた肝臓の面は滑らかでなくて,小さい高まりをもってでこぼこした観を呈するが,それはこの器官の構造からたやすく理解できることである.

 肝臓の横隔面Facles diaphragmaticaは凸をなしていて,これに2部がある.横隔膜に密着している後方の比較的小さい部分すなわち付着部Pars affixaと,腹膜で被われているいっそう大きい部分すなわち自由部Pars iiberaである.内臓面Facles visceralisは平らでなくて,全体として凹をなしている.前縁Margo ventralisは鋭いへりである.肝臓の実質は軟いので,この器官をとり出して平面上におくと,その自然の形ははなはだしく失われる.

 横隔面(図136,138)は横隔膜頂の凹面に密接している(図99).腹膜のつくるひだである肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleが,表面的に大きい方の右葉と小さい方の左葉とを分けている.このひだのあたりで心臓のための浅いへこみがある(心圧痕Impressio cardiaca).このへこみは横隔膜じしんにもみられるのである.

 後部(図138)には食道による深いくぼみ,すなわち食道圧痕Impressio oesophagicaがあり,なお肝静脈の開口所である3つあるいは2つの大きい孔がみられる.

 前縁には膀静脈の閉鎖し退縮したもののために生じた肝切痕Incisura hepatisがある. 内臓面もまた大部分が腹膜で被われていて,ここに幾つかの溝があって,若干の部分がそれによって境されている.

S. 91

その溝の1つは横走して,その両端のところに左右1つずつ矢状方向の溝がつづている.それゆえ内臓面の溝の像はだいたいにH字形をなすのである.

 横の溝がいわゆる肝門Porta hepatisであって,太い血管や胆汁をみちびく総肝管や神経が肝臓に出入するところであり,ひを通らないのは肝静脈だけである.血管や総肝管などが右枝と左枝に分れて肝臓に出入するが,その両枝は肝門のほとんど両端のところでみえなくなる.

 左側の縦溝は[]矢状裂Fissura sagittalis(sinistra)といい,肝臓の右葉と左葉の境をなすもので,前後の2部からなる.前部は臍静脈索部Pars chordae venae umbilicalisといい,胎児および新生児のときには臍静脈をもっていたが,後にはこの静脈が閉鎖してできた臍静脈索Chorda venae umbilicalisをもっている.この索が左葉と方形葉の境をなす.その両葉の縁のところを肝臓の実質が橋のようにつないでいることがあって,そのときは溝の一部が管に変わっているわけである.左の縦溝の後部は静脈管索部Pars chordae ductus venosiといって,左葉と尾状葉の境をしており,胎児のときには膀静脈と下大静脈を連ねる静脈管Ductus venosusをもっていたが,後にそれが閉鎖した残りものである静脈管索Chorda ductus venosiがここにふくまれ,その残りものも次第になくなる傾向がある(Böttcher;R,1923).

 右側の縦溝はやはり前後の2部からなり,この両部をへだてて尾状突起Processus caudatusという肝臓の実質からなる1つの突出部がある.縦溝の前部は胆嚢窩Fossa vesicae felleaeであって,胆嚢をうけ入れるためにへこんでいる部分で,鋭い前縁のところから一と続きに肝門のところまで伸びている.後部は下大静脈窩Fossa venae cavae caudalisといい,下大静脈を完全あるいは不完全に(その程度はいろいろだが)とりかこんでいる.これが尾状葉と右葉の境であり,他方では胆嚢窩が方形葉と右葉の境をしている.

[図135]肝臓,横隔面(2/3)

S. 92

 肝臓の主要な区分としては右葉Lobus dexterと左葉Lobus sinisterの別であって,左右両葉の境は肝臓の凸面では肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleの付着するところであり,凹面では[左]矢状裂Fissura Sagittalis(sinistra)である.

 右葉は左葉よりはるかに大であって,後者のおよそ5倍ある.そして中央部にある2つの葉すなわち方形葉Lobus quadratusと尾状葉Lobus caudatusは右葉に属するのである.この2つの部分より右側にある大きい部分は狭義の右葉ともよばれる.もっともv. Eggeling(Morph. Jahrb., 66. Bd.,1931)は方形葉が左葉に属するといい,Hjortsjö(1948)は方形葉のみでなく尾状葉の一部も左葉に属するという.

[図136]肝臓 内臓面の中部とへこみのなかにふくまれる諸器官を示す.(3/4)

S. 93

 方形葉Lobus quadratusは長めの四角形をして,胆嚢と膀静脈索と肝門のあいだにある.尾状葉Lobus caudatusは方形葉よりいっそうつよく突出しているが,それよりも小さくて,形が不規則である.尾状葉は下大静脈と静脈管索と肝門のあいだにある.肝門に向かって乳頭突起Processus papillarisという円みをおびた高まりをなしており,肝門と下大静脈窩のあいだをとおる橋状の尾状突起Processus caudatusによって右葉とつづいている.尾状突起については前にも述べた.乳頭突起に向いあって左葉に低い高まりがあって小網隆起Tuber omentaleとよばれ,これと乳頭突起とのあいだに小網Omentum minusがある(図138).左葉の尖った外側端はしばしばひじょうに萎縮していて肝線維付属Appendix fibrosa hepatisをなす.

 変異:切れこみが普通より少ないために肝臓の葉の数が減じていることがあり,過剰の切れこみがあるために葉の数が増していることがある.Sömmeringは12の葉からできている肝臓について記している.肝臓の一部が完全に離れているもの(副肝Nebenleber)は左葉に付属した形で時としてみいだされる.右葉の内臓面に異常な1つの溝のみられることがまれでない.この溝は内臓面に限局することもあり,前縁に達していることも,さらに横隔面に及んでいることもある.(Rathke:Über anormale Furchen an der menschlichen Leber. Diss. Berlin ,1896. )-G. Ruge(Morph. Jahrb., 45. Bd.,1913)はいろいろの異常について記載し,とくに左葉が1つの幹葉Stammlappenと1つの側葉Seitenlappenとに分れていることや,左葉が過大に発達していたり高度に縮小していたりすることや,右葉がふつうより大きくできている例をあげ,また右葉の一部が分れて側葉をなしている1例(Morph. Jahrb., 46, Bd.,1913)をあげている.これらの変異を説明するのに,系統発生上は肝臓の右葉も左葉もそれぞれ1つの幹葉と1つの側葉からできていたということが重要である.それらが融合して右葉と左葉が生じたので,つまり人間でこれらが幹葉と側葉に分れているときは祖先返りとみなされるのである.

[図137]肝臓の内臓面における他の器官との接触部

 局所解剖:I. 全身に対する位置関係としては肝臓は上腹部にあり,その右外側部と内側部にあって,左葉が左外側部にはいりこんでいる.

 II. 骨格に対する位置関係は肝臓の上限が前方の右側では,乳頭線と胸骨傍線のあいだで第5肋軟骨が胸骨に付着する高さにあり,正中では劔状突起の底にあたっており,左側では胸骨傍線で第6肋軟骨が胸骨に付着する高さにある.それゆえ横隔膜の右半が上方にいっそう突出しているのに応じて,肝臓の右葉は左葉よりも上方に達しているわけである.左葉は多くのばあ込7cmだけ正中線を左にこえている.後方へ投射してみると肝臓の上限は第9胸椎体の下部にあたり,椎骨傍線Linea paravertebralisでは第10肋間隙に,腋窩線では第7肋間隙に当たっている.肝臓の下限は後方では第11胸椎体の中央に当たっている.肝臓の前縁は脊柱のところから右の第12肋骨の縁に相当してすすみ,肋骨弓に伴って,第9肋骨が第8肋骨に合するところで右の肋骨弓から離れて,左上方に向かって斜めに上腹部の内側部を通り,第8肋骨が第7肋骨に合するところで左の肋骨弓に達するのである.

 III. 近くの諸器官との位置関係として肝臓は上方は横隔膜に接触しているが,そのさらに上には右と左に肺,中央に心臓と心膜がある.肝臓のへこんだ内臓面は胃の前面の一部と小弯を被い,十二指腸上部と下行部の一部,右結腸曲を被っている.なお右の腎臓の上部と右の腎上体をも被う.これらすべての近接する器官によって肝臓にくぼみすなわち圧痕Impressionesができている.これは接触面Facles, Berührungsfelderともよばれる(図137,139).それには食道圧痕・胃圧痕・十二指腸圧痕・結腸圧痕・腎圧痕・腎・上体圧痕Impressiones oesophagica, gastrica, duodenalis, colica, renalis, suprarenalisがある.

S. 94

 年令による下降:老人では肝臓が1つの肋骨の高さだけ下方にあるが,これは横隔膜の高さが変ることに一致している.肝臓の下降の数値はVogt(Verh. anat. Ges.,1921)によると4~6 cmである.女では肝臓が概していっそう低いところにある.

 肝臓の位置は呼吸運動や体の姿勢につて,正常の範囲内で少し変化する.体をまっすぐにして立つたり坐つたりしているとき,かつ横隔膜を吸気の状態にするときには,体を水手な位にしたり,かつ横隔膜を呼気の状態にするときよりも,肝臓の前縁が肋骨弓のところで下方にいっそう突出する.なお肝臓は横隔膜の円天井にぴったり適応しているので,横隔膜の収縮にさいしてその形をある程度変える.

[図138]肝臓 横隔面の付着部 (2/3) *右三角間膜

肝臓の導管(総胆管)Ductus choledochusと胆嚢Vesica fellea

 総胆管Ductus choledochusは総肝管と胆嚢管とが合一することによって生じ,およそ6~8cmの長さがあって,胆汁を肝臓および胆嚢から十二指腸にみちびくのである(図114).

 局所解剖:総胆管は小網の肝十二指腸部のなかに包まれて走り,そのさい肝臓にすすむ固有肝動脈および門脈にともなわれている(図113).ついで十二指腸下行部の後面の内側縁にそってすすむが,そこである短い距離だけ膵臓によって包まれる.そのとき膵管の右側に接している.膵管といしよに十二指腸の筋層を貫くが,十二指腸の諸層を1~2cmのあいだ斜め下方に通るので,十二指腸縦ヒダがそのために生じ,その下端の[大]十二指腸乳頭Papilla duodeni(major)において開口する.その開口するすぐ前に総胆管は膵管と合している(十二指腸の項および図114を参照のこと).

 総肝管Ductus hepaticusは,肝臓の左右両葉からの胆汁をみちびき出す管が,左右1本ずつの幹をなして肝門にでてきて,ここで鈍角をなしてたがいに合することによって生ずる.かくしてできた総肝管は4~6cmの長さと4mmの太さをもち,小網の肝十二指腸部のなかを右方かつ下方にすすんで,胆嚢からでてきた胆嚢管と鋭角をなして合して,総胆管となる.

 肝臓の内部における総肝管の枝intrahepatische Gallengangeは門脈の分枝に伴っている.総肝管をつくる左の幹は左葉と方形葉から胆汁をみちびき,尾状葉の一部からもみちびく.右の幹は右葉のほか尾状葉の一部から胆汁をみちびきだすのである.

S. 95

 肝臓内の胆管は横断面が円くなくて楕円である.その角のところがら細い枝が2列をなして側方にでている.(Hjortsjö, Acta anat.,11. Bd.,1951. )

 胆嚢管Ductus cysticusは3~4cmの長さで,左下方に走って,胆嚢の方向とはある角度をなしており,総肝管と合して総胆管となる.

 総胆管・総肝管・胆嚢管および肝臓内の比較的太い胆管の粘膜の表面には胆管粘液腺Gallengangdützenの開口として小さいへこみ(胆管小窩Gallenganggrübchen)がみられる.

 胆嚢Vesica fellea, Gallenblaseは西洋梨の形をした膜性の袋であって,その長さは8~12cm,最大の幅は4~5cmで(山口寛(邦人胆系の局所解剖知見.解剖学雑誌3巻,191~229,1930)によれば,日本人で,は胆嚢の長さ 8.6cm,同じく幅3.8cm;胆嚢管の長92.8cm;総肝管の長さ3.2cm;総胆管の長さ6.7cmである.),容積はおよそ30~50ccmである.胆嚢体Corpus vesicae felleaeは肝臓の胆嚢窩のなかにある.胆嚢底Fundus vesicae felleaeは下前方かつ右に向かっていて,肝臓の前縁を越えており,一方胆嚢頚Collum vesicae felleaeはその反対の位置を占めている.胆嚢は結合組織によって胆嚢窩に付着している.その自由面は腹膜の一部である胆嚢漿膜Tunica serosa vesicae felleaeによって被われ,この膜は肝臓から胆嚢の表てにうつってきている.この漿膜が普通のばあいより深く入りこんでいるときには,短い腸間膜の形になっていることがある.胆嚢の頚は次第に細くなって胆嚢管に移行するが,そのところで若干二数の(多くは2つの)ラセン状のまがりをなしている.

 胆嚢は上述のように不完全な漿膜を被むるが,そのほかに2層をなす比較的よわい(Schreiber, H.,1939による)筋層Tunica muscularis veslcae felleaeと粘膜Tunica mucosa vesicae felleaeをもっている.粘膜には多数の小さいひだがあって,細い格子状を呈している(Plicae reticulares tunicae mucosae,粘膜の網状ヒダ).胆嚢の頚ではこの格子状のひだがなくなって,その代りに横走するひだがあり,これが一と続きになってラセン状のひだ,すなわちラセン弁Valvula spiralisとなっていることがある.またこのラセン弁が胆嚢管のなかまでかなり遠く伸びていることがある.

 胆嚢の局所解剖. I. 全身に対する位置関係としては胆嚢は上腹部の内側部で,右の肋骨弓の縁にすぐ接している.II. 骨格に対する位置関係としては胆嚢底は右の腹直筋の外側縁が第8ないし第9の肋軟骨とつくる角のところに当たっている.III. 近くの器官との位置関係としては胆嚢体は肝臓と癒着しており,胆嚢の底部は右結腸曲に,またその頚は十二指腸上部に接している.

 胆嚢と総胆管は1つの係蹄をなしていて,この係蹄の頂きはヒ方に向い,ここが胆嚢管に当たっている.係蹄の前脚は胆嚢であり,後脚は総胆管である.内容の充ちているとき胆嚢の底は(H. Schreiber, Klin. Wochenschr.,1943)若年および中年の男では多くのばあい十二指腸乳頭より1~2cm上方にあるが,またこの乳頭より下方にあることもまれでない.

 変異:時として胆嚢が欠けている.そのときは総肝管の一部が途中で広くなっていたり,肝臓のなかに向かって広がっていたりする.また胆嚢の形が異常なこともある.横の方向に,いっそうまれには縦の方向にくびれていることがある.肝臓と胆嚢とのあいだに細い胆管による直接のつながりがあること(肝胆嚢管Ductus hepatocystici)は多くの動物では正常にみられるが,人間においても時おりみられるのである.肝臓の左右両葉からでる総肝管がしばしば長いあいだ離れたままで十二指腸に向かっている.時として総胆管が膵管とは別々の口をもって十二指腸に開いている.

肝臓を被っている腹膜(漿膜Tunica serosa)

 肝臓の表面は2,3の個所を除いて腹膜によって被われているが,この腹膜は丈夫な結合組織である漿膜下組織Subserosaによって固く肝臓の実質と結びついている.この結合組織は肝臓の全表面を包んでいて,ことに漿膜が欠けているところ,すなわち横隔面の付着部と内臓面の肝門とでいっそう強くまた明瞭に発達している.その内面が肝臓の物質と固く着いていることは,この結合組織が肝小葉を包みその中まで入る細かい結合組織性の網と直接につづていることから分る.肝門ではそれが肝被膜Capsula hepatisと結合している.

 肝臓の表面で腹膜に被われていないところは付着部・肝門・胆嚢窩・下大静脈窩であり,左の縦溝の幅のせまい個所もそうである.

S. 96

肝臓の位置を固定するもの(図99,100,135,138,164)

 付着部は結合組織によって横隔膜の下面に固くついている.そのほかに肝臓を横隔膜および前腹壁に固着させるものとして,腹膜のつくるひだ,すなわち肝鎌状間膜,右外側および左三角間膜Mesohepaticum ventrale laterale dextrum, laterale sinistrumと下大静脈V. cava caudalisとがある.胃および十二指腸と肝臓との間は小網Omentum minusによって結合されている.なおまた肝臓の凸面は横隔膜のつくるへこみにはまりこんだ大きな関節頭のようになっているので,気圧がその位置の固定に一と役を演じている.間接には肺の弾性引力elastischer Zugが肝臓およびその他の近在の腹部内臓を支えることにあずかっている.Pfuhl. (Z. Anat. Entw.,89. Bd.,1929)は呼気の状態における肺の弾性引力を2.1kgと計算している.

[図139]肝臓の内臓面 (2/3)

肝臓の血管とリンパ管(図113,136,138,139)

 肝臓に血液をみちびく2つの血管があって,それは固有肝動脈A. hepatica propriaと門脈V. portaeである.固有肝動脈は径およそ5~6mmであり,この器官の大きさに比べるとひじょうに細い.この動脈はいくつかの枝を出した後に肝門に入り,ここで左枝Ramus sinisterと右枝Ramus dexterに分れて,それぞれ左葉と右葉に分布する.右枝から胆嚢動脈A. vesicae felleaeが分れてでて胆嚢にゆく.肝臓じしんに分布する肝動脈の枝はこの器官の内部で小葉間動脈枝Rami arteriosi interlobularesという多数の小枝に分れる.これが肝臓内部の結合組織,この結合組織に包まれている脈管の枝,肝臓の実質じしんおよび漿膜に動脈血をあたえる.肝臓に血管をみちびく第2の血管である門脈ははなはだ太いもので(その径は16mm),肝臓に入る血液の大部分はこれを通る.静脈が血液を運びこむことは肝臓が他のすべての器官と大いに異なる点である.

S. 97

[図140]上下の肝臓の肝小葉 概観像 この図の中部を占めて1つの肝小葉があり,それに隣接する6つの肝小葉が部分的にみえている.赤く染まっているのは膠原性結合組織

[図141]1個の肝小葉内の血管分布 血管に注入した家兎の肝臓(C. Virchow作),中心静脈(肝静脈)は赤,門脈は青.肝小葉の中心部が赤で,辺縁部が青である.

S. 98

 門脈は腹腔のなかにふくまれる消化器からのほとんどすべての静脈が合一することによってできる.すなわち胃・腸・脾臓・膵臓からの静脈によってつくられる.直腸の終りの部の血液だけは下大静脈に達する.門脈もまた肝臓の内臓面の横溝に入る.そこで肝動脈と同じように右枝Ramus dexterと左枝Ramus sinisterという2つの主枝に分れる.

 胆嚢の静脈は全例の10%にだけ門脈に開口し,78%では直接に肝臓の実質に入りそこで毛細管に移行している.(Petrén, Stockholm 1933)門脈の左枝と隣静脈あるいはその閉鎖した残りものである臍静脈索Chorda venae umbilicalisとがつながっている(図100,136).この結合と反対がわへ門脈の左枝から静脈管索Chorda ductus venosiがでて,これは肝静脈の左方の1つか,あるいは直接に下大静脈とつづいている(図136).(胎児の循環の項を参照せよ)

 肝動脈と門脈は総胆管とともに小網の肝十二指腸部の右側縁のなかに包まれている.多数のリンパ管や神経にともなわれて,これらの血管は肝門にいたり,肝臓のなかに入る.そのさい肝被膜Capsula hepatisという結合組織の1層がこれらの脈管などをとりまき,この被膜は肝門のそとでも,すでに珍れらのまおりをかこんでいる.

 肝静脈Vv. hepaticae, Lebervenenは肝臓から血液を他に導くもので,上に述べた血管とは全くちがった道を通る.これは付着部において肝臓からでてくる.それは下大静脈窩の底において2つまたは3つの幹をもって終り,下大静脈が横隔膜の人静脈孔を通り抜ける直前のところで,この静脈に合する(図166).

 肝臓のリンパ管には浅層のものと深層のものとがある.しかし両者が肝臓の全体でたがいにつながっている.深層のリンパ管は肝小葉の内部で毛細血管のまわりのリンパ腔としてはじまり,血管とともに走って肝門からでる.そこで内臓面の浅層のリンパ管および横隔面の一部からのリンパ管と合して,腹腔リンパ節にすすむ.

 横隔面のリンパ管はいくつかの群をなしている.肝臓の中部からは5本あるいは6本の小幹が肝鎌状間膜にいたり,合して1本の幹となって,これは横隔膜の胸骨部と肋骨部の筋束のあいだをへて前縦隔リンパ節に達する.第2群は右の方へ右三角間膜にすすみ,1本あるいは2本の小幹に合して横隔膜を貫いて,その上面を内側にすすんで胸管に入る.第3群は肝臓の左葉からぎて左三角間膜において少数の小幹にまとまり,横隔膜を貫いて前縦隔リンパ節に達する.肝臓の前縁の近くにあるリンパ管は内臓面のリンパ管といっしょになって肝門にすすむ.

肝臓の神経

 肝臓に多数の神経が分布するが,これは迷走神経と交感神経からくるもので,大部分が無髄である.肝動脈に伴って肝臓の内部に入る.ここでは胆管と血管といっしょにすすんでおり,なお胆嚢にも分布する.胆嚢でも,また肝臓の内部でもその経過の途中およびそれがつくる神経叢のなかに,神経細胞が個々にあるいは群をなして存在し,これは小葉間の領域にまでみられるのである.小葉間組織のなかにある小葉間神経叢interlobulares Geflechtからでる神経線維が肝小葉のなかに入り,肝細胞索と毛細血管壁とのあいだにあって,網の目のひろい終末網をなしている.神経の欺末としては肝細胞の表面に接する小板状のものが神経の経過の途中にみられ,いっそうまれであるが肝細胞の内部に,小さい輪あるいは小さい塊りの形をした終末がみられる.この塊りもよくみると原線維の骨ぐみでできている(Riegele, L, Z. mikr.-anat. Forsch.,14. Bd.,1928).

肝臓および胆嚢の微細構造(図140154)

 肝臓はたがいに密接したひじょうに多数の肝小葉Lobuli hepatis, Leberläppchenからなっていて,この小葉の形と大&さははなはだまちまちである.肝小葉は径1~2.5mmの小さいもので,角と面をたくさんにもっており,規則正しい形のときは小さいプリズム状であり,その幅よりも長さがいくらか大である.各小葉に中心部zentraler Teilと辺縁部peripherischer Teilとが区別されるが,その境はわれわれが頭のなかで考えるだけで,実在はしない.中心部は肝静脈の毛細血管網をもち,辺縁部は門脈のそれをもっている(図141).

 ヒトでは肝小葉は血管の列び方や実質のぐあいで,たやすくその境を指摘することはできるが,しかし隣りの肝小葉とのあいだがはっきりと分れていない.

S. 99

それは結合組織性の隔壁がうすくて,小葉どうしのあいだでその毛細血管網も肝細胞網もたがいにつながっているためである.この隔壁は肝被膜のつづきをなし,後者が小網の肝十二指腸部のなかで包んでいるすべての器官のづきが,やはりこの隔壁のなかにみられる.すなわち門脈の枝である小葉間静脈Venae interlobulares,肝動脈の枝である小葉間動脈枝Rami arteriosi interlobulares,胆汁をみちびく小葉間胆管Ductus biliferi interlobulares,それと神経とリンパ管である.

 門脈のごく細い枝である小葉間静脈がおのおのの小葉のまわりでごく短い側枝(図141)をだし,この側枝が多数の毛細血管をだしている.この毛細血管が小葉の辺縁部のなかで豊富に発達して網をなす.そして肝小葉の中心部の毛細血管網が各小葉の中軸を走る中心静脈Vena centralisに集合する.中心静脈には毛細血管が直接に開いていて,そこに小さい幹は形成されていない.

 比較的小さい肝小葉では中心静脈は簡単な形の1本であるが,やや大きい小葉では中心静脈が枝分れしている.--中心静脈はいわゆる集合静脈Sammelvene (その径は250µ以上)に直く.に接している肝小葉では,その接している面すなわち小葉の底Basisにおいて外に出る.しかしこれは小部分の小葉についてだけみられる関係であって,集合静脈に直ぐに接していない小葉(これがすべての小葉の半分以上を占める)では小葉の表面のどこか1個所で中心静脈がそとにでて,小葉の外でたがいに合して小さい幹となり,これが小葉間をとおつたり,あるいは他の小葉のなかを貫いてとおり,集合静脈に達するのである(Pfuhl).

 数多くの集合静脈がだんだんと相合して次第に太い肝静脈の小幹となり,これはその後の経過ではもはや集合静脈をうけとることなく,付着部の方向にむかつてすすむ.そしてここで現われでる2, 3本の太い肝静脈Venae hepaticaeが下大静脈に注ぐのである.

[図142]肝小葉の配列 (Kiernanによる)×10

 肝動脈は門脈と同じぐあいに枝分れする.その枝である小葉間動脈枝は門脈の枝である小葉間静脈に伴っているが,これよりはるかに細い.肝動脈がみちびく血液は漿膜と特にまた肝被膜,およびこの被膜のなかにある諸器官にあたえられるが,なおまた肝動脈の毛細管は門脈の毛細管系ともつづくのである.

 肝小葉の内部の毛細血管は内腔が著しく広い(9~12µ).その壁をなす内皮細胞管では内皮細胞が合胞体Synaytiumである(細胞間の境がみえない).原形質が核のまわりに比較的多く集まって,とげの出た形をしている.これをクッペル星細胞Sternzellen, Kupfferという.

 星細胞はいろいろの形であるが,たいてい長くのびて,2~3あるいはそれ以上の尖端をもっており,肝細胞よりは小さくて,小葉内のどこにも平等にみられるが,その数は多くない.これはいつも壁にすぐ接していて(Pfuhl,1927),アメーバ様の性質を示し,著明な食作用をあらわすのである.Pfuhlによればこれは内皮細胞の一部が特別に分化したものであって,赤血球・色素・脂肪そのほか血液にまじって肝臓に達した有形のものや,染色のための色素などをとりこむ.

 Zimmermann(1928)によるとクッペル星細胞(この学者はEndoayten--内皮球の意--とよんだが)は完成の域に達した肝臓では内皮細胞とは何らの関わりをもたぬものである.小葉内の毛細血管では銀染色によって細胞の境界が証明されないけれども,その内皮細胞管はやはりはっきりと境のある細胞からできているらしい.この管の内部に星細胞が独立した細胞として存在し,それは壁にぴったり付いていることもあり(図145),また毛細管の腔所に遊離して(図144),その突起をもって壁に連なっているのもある.それゆえ血液によってその細胞体の全部が洗われるのである.

Hirt(Z. Anat. Entw.,109. Bd.,1938)も生きているカエルの肝臓で星細胞が遊離していることを確かめたWolf-Heidegger(1941,1942)によると星細胞は毛細血管の内皮から由来するものであって,壁から離れてZimmermannのいう内皮球Endoaytenの状態となる.この細胞はビタミンやホルモンの出納に重大な役目をしている.

S. 100

 内皮細胞管の外面に接して格子線維Gitterfasernがあって,これが毛細血管のまわりの鞘をなし,同時に肝小葉の内部を支える骨ぐみとなっている.

 肝細胞Leberzellenはたがいに接して列び,長くのびて網状につながる肝細胞索Leberzellenbälkchen, Leberzellensträngeをなしていて,この索は主として小葉の中軸に対して放射状におかれている(図140).すぐ分るように,肝細胞のつくる網は小葉内の血管網のすきまにあり,いいかえると血管の網が肝細胞索の網の目に存在するのである.

 肝細胞Leberzellen(図146,147)は肝臓の最も本質的な成分であって,不規則な多角形の細胞で,その平均の径は18~25µである.原形質は網様の配置を示し,その主な列び方は放射状であることがわかる.細胞体は微細顆粒性で,多数の顆粒のほかに色素粒子と脂肪小滴をいろいろの量にもち,細胞活動のあいだはグリコゲンと胆汁小滴を分泌液胞Sekretvakuolenとよばれる腔所のなかにもっている(図151).胆汁をもって充たされた液胞がある大きさに達すると,液胞の内容が細い管を通って細胞間毛細胆管zwischenzellige Gallenkapillarenにでてゆく(図150).核は円い小胞の形で,明るく輝いており,核小体は1個または2個あり,また1群のクロマチン材がふくまれる.しばしば2核,いっそうまれに3核が1つの肝細胞にある.細胞膜は緻密な原形質の1層という形でだけ存在する.

 肝臓の分泌物がとおる管すなわち胆管Ductus biliferi, Gallengängeは毛細胆管Gallenkapillarenがその初まりである.毛細胆管は小葉の内部にあるので,また小葉内胆管intralobuläre Gallengängeという.

[図143]肝静脈の根,模型図 (Pfuhlの記載による)

[図144]ヒトの肝臓の星細胞 毛細血管のなかで遊離し懸垂している.aは顕微鏡の焦点を上方で合わせたもの,bは中等の高さ, cは下方で合わせたもの.(K. W. Zimmermann, Z. mikr.-anat. Forsch.,14. Bd.,1928より).

[図145]壁に付いている扁平な2個の星細胞 ヒトの肝臓.せまい隙間により毛細管の内面から離れていて,両端のところだけ壁に密接している.(これもK, W. Zimmermannによる)

S.101

 毛細胆管と肝細胞との関係は普通の腺細胞の配列とはややちがったものである.すなわち多数の肝細胞が1つの毛細胆管を境するのでなく,少数のものだけ,それも多くは2個の肝細胞が1つの毛細胆管をなしている(図151).また肝細胞の表面の1個所だけに毛細胆管があるのでなくて,1個の細胞の表面で多くの個所にこの細管がある.そのさい毛細麗管は肝細胞の面に沿って走り,その角と交叉して,ここで盛んにたがいに結合する.他の腺のばあいと同じく,肝細胞索においても血管と腺腔とはたがいに隔たっている.すなわち肝小葉の毛細血管は肝細胞の角に沿って走り,毛細胆管は肝細胞の面にその位置を占める(図150).それゆえ毛細胆管の網は毛細血管の網から空間的に離れているのである.

[図146,147]ヒトの肝細胞をばらばらにしてとり出したもの ×500(Hoffmannによる)図146は健康な人の肝臓より得たもの.図147はチフス患者の再生しつつある肝臓より得た肥大した肝細胞.1はなはだ大きい単核の細胞;2 2核をもつ細胞;3 5核をもつ細胞.

[図148]網状に連なった肝細胞.肝小葉の辺縁部から得たもの×200.

[図149]毛細胆管 注入してある.×500 肝細胞のあいだに毛細胆管が分布し,かつ小葉胆管とつづくことがわかる.

[図150]2個の肝細胞(1と2)の範囲における毛細胆管と毛細血管の位置を示す模型図 2つの肝細胞の接触する線上に毛細胆管の横断がみえ,それに向かって分泌液胞の内容が細い分泌細管をへて達している.

 毛細胆管すなわち小葉内胆管は小葉のへりの所で小葉間胆管Ductus b111feri mterlobularesに移行する(図149).小葉間胆管はそれ自身の壁をもっていて,その壁は薄い無構造の基礎膜と低い上皮細胞とからなっている.それゆえ胆管のこの部分は唾液腺の峡部Schaltstückを思わせるのである.細い小葉間胆管が絶えず合することによって次第に太い口径の胆管ができてくる.その壁が小皮縁をもつ高い円柱状の上皮細胞と,基礎膜および線維性結合組織と弾性線維の網によってつくられている.ここにすでに杯細胞がみられる.いっそう太い胆管すなわち総肝管・胆嚢管・総胆管となると,そのほかに多数のかなり大きな腺である胆管粘液腺Glandulae mucosae biliosae, Gallengangdrüsenをもっている.これは多くは単一性のもので短い腺体をもつが,複合性のものもあり,粘液細胞からなっている.

S.102

これらの大きい胆管ではそれをとりまく結合組織がいっそう豊富に発達している.それが固有層Lamina propriaとかなり厚い外方の線維層とに分れている.太い胆管の上皮はやはり単層円柱上皮であり,その固有層には縦走および輪走の平滑筋線維がある.

 肝の迷行管Vasa aberrantia hepatlsというのは肝実質のそとにある胆管の集まった網であり,つまりそれをかこむ肝実質をもたない胆管である.これは胎児の時に一定の場所に広がって発達していだ肝実質が後にその発達が止つて退縮した,その最後の残りものなのである.迷行管のみられる所はとくに肝の前縁の左側部,下大静脈のまわり,肝門のなかである.迷行管は円柱上皮と結合組織性の被いとからなり,しぼしば黄色い顆粒性の塊りをもっている.

 胆嚢(図153,154)の壁は腹膜で被われている所では4層もっている.すなわち1. 粘膜,これは蛍層の丈けの高い円柱上皮と,多量の弾性線維をまじえた固有層より成る.2. 筋層,これは輪走・縦走および斜走する平滑筋線維の束からできている.筋束の配列はSchreiber(Z. Anat. Entw,111 Bd.,1941)によると鋏状格子Scherengztterの形で,外層は横走し内層はずっと弱くて(外層の1/21/3)縦走しており,両層の筋束がたがいにつながり合って,1つの単位をなしている.3. 漿膜下組織.4. 漿膜

胆嚢の上皮細胞は丈けの高い円柱状で,小皮縁をもっている(Ferner 1949).そして粘液性の分泌物をだす(Sommer).図153,154

胆汁Fel(Bilis), Galle

 肝臓の分泌物である胆汁は始終つくられている.これはひどく苫い味をもつ中性の液で,比重は1010~1040であり,緑黄色あるいは緑褐色である.これは胆嚢のなかに集められていた胆汁とともに消化のときに十二指腸にだされる.消化のとき以外では肝臓からでてくる胆汁が胆嚢に入り,ここに貯えられて利用されるまで待つのである.肝臓からの胆汁Lebergalleはは水分に富んで明るく,胆嚢のなかの胆汁Blasengalleはいっそう暗くて,濃くて粘液に富んでいる.

 Pfuhl, W., Z. Anat. Entw, , 66, Bd.,1922;Z. Zellforsch., 4Bd.,1926;Z. Anat. Entw.,81. Bd.,1926およびZ. mikr. anat, Forsch.,10. Bd.,1927;Zimmermann, K. W., Z. mikr. . anat. Forsch.14. Bd.,1928.

2-07

最終更新日 13/02/03

 

ページのトップへ戻る