Rauber Kopsch Band2. 15

胸腺Thymus, innere Brustdrüse (図223, 227, 228, 232)

 胸腺は生後最初の何年かの間だけ完全な発達を示し,ことに第2年ないし第3年のうちにもっともよく発達している.その後はかなり長い間ほとんど成長が止まり,性的に成熟する時になると退行がはじまるが,高年にいたるまで存在はしている(Waldeyer, Hammar).子供の時には胸腺はリンパ球が作られる主な場所の1つをなしているが,成人してからはだんだんとその影が薄くなる.

 胸腺は成人においては左右各側に1つずつの細長い右葉左葉Lobus dexter, sinisterからなっていて,頚の下端から胸腔の上部にのびている.胸腔では前縦隔において太い血管と心膜嚢の前方にあり,左右の胸膜の縦隔部のあいだに位置をしめている.そして気管の前方を頚部に向かって上方にのびている.左右の両葉は正中線でたがいに接していて,ほぼ対称的な形をしているが,左葉のほうが大きいこともあり,あるいは右葉が大きいこともある.両葉をつなぐ部分がしばしば存在する.ときおり両葉が広い範囲にわたってつづいていることがある(図121).

 局所解剖:胸腺は上方に向かって甲状腺の下縁まで達しているのが普通である.結合組織が胸腺の底を心膜嚢に固着させている.前面はかるい凸を画いて胸骨の上部に密接してザる.新生児では第4肋軟骨のところにまで達している.結合組織が胸腺を上記の諸器官にくつつけているが,それより上方では同じように大動脈弓と老の枝,ならびに左腕頭静脈,気管た結合している.外側縁は内胸動静脈の近くで胸膜の縦隔部に接しており,また頚蔀では太い諸血管を包む鞘に接している.内側縁は結合組織によって左右の両葉がたがいにつながっている.

 大きさ:出産時においては長さ5~6 cm,底における幅3~4cm,厚さ1cmであり,重さは15~20 grの範囲である.第2年では重さは25~28 gr,青春期では37grである.比重は初め1.05であるが,脂肪の含有が増すとともに減少する.実質は約85%の水分を含んでいる.Hammarは20年間にわたる研究を総合して胸腺実質の平均重量として次のような結果をだしている.すなわち5才まで19.82gr,6才~10才21.88gr,11才~15才20.97gr,16才~20才13.85gr,21才~25才10.05gr,36才~45才3.79 grである.47才以後は量がなお減少してゆく.(日本人の胸腺の平均重量は新生児9.52gr,1才6.08 gr,5才12.22 gr,10才14.41 gr,15才16.28gr,20才11.95gr,25才11.52 gr,30才9.52 gr,31~35才10.46 gr,36~40才8.50 gr,41~45才8.48 gr,46~50才8.51gr,51~55才9.51 gr,56~60才6.49 gr,60~70才7.02gr,70以上6.50grである(石橋松蔵, 日病理会誌6, 大正5年).あるいは(佐藤文一,東京医大誌8巻3号)1~30目の男18.28 gr,女16.35 gr,3~5年の男32.19gr,女30.50gr,6~9年の男33.75gr,女26.14gr,10~14年の男30.35gr,女22.45gr,16~19年の男31.26 gr,女27・85gr,20~29年の男26.37gr,女24.89gr,30~39年の男24.85gr,女21.91gr,40~49年の男23.23gr,女23.75gr,50~59年の男20.00gr,女20.84gr,60年以上の男19.68gr,女18.21 grである.)

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 構造:薄い結合組織の被膜が左右両葉のおのおのを包んでいる.被膜を取り去ると多数の平たい小葉が現われる.その直径は0.5-1.0cmで,柔かな結合組織と脂肪によってまとめられており,全体としてたがいにつながっていて,中心索Tractus centralisという索状の共通の組織にく.つづいている.この索のなかを太い血管がこれに沿って走っている.この2次小葉を胸腺小葉Lobuli thymiといい,これがいっそう小さくて西洋ナシの形をして円みをおびて且つ扁平な1次小葉が相集まってできている.この1次小葉が密に相寄り,しかもたいていは瓦のように重なり合っているか,あるいはたがいにごく疎につながっている.1次小葉そのものがもっと小さな基礎小葉Grundläppchenという実質の塊りからできている(図227).

[図231]上皮小体 小胞形成25才の男 ×250

 *静脈(A. Kohnによる)

[図232]新生児の甲状腺と胸腺 ×1

 1 咽頭;2 気管;3 錐体葉;4, 4 甲状腺の右葉と左葉;5, 7 胸腺の左葉;6, 7胸腺の右葉.

 基礎小葉については次の2つを区分する.1. わずかな血管とリンパ球に似た小さい細胞を持つ明るい中心層,すなわち髄質Markzone 2. 暗くて,細胞と血管に富む皮質Rindenzone.基礎小葉の組織は細網性の土台と多数の小さい細胞からできているという点でリンパ性結合組織に極めて類似している.

 しかし胸腺は(Stöhr, Hammar)リンパ節に近縁な器官では決してなくて,ここで細網をなしている細胞は内胚葉性の上皮細胞からできたものである.しかし細網の網の目のなかにある小さい細胞は本当のリンパ球である(Hammarその他の学者).

 特に髄質には普通のリンパ球のほかに,大きな核をもって,また原形質に富む大きな細胞がある.その核のなかに簡頃な,あるいは複雑な形の核小体がみられる.さらに特有な同心性小体(胸腺のウイルヒヨー.ハッサル小体Virchow-Hassalsche Körperchen)がある(図228).この小体の中心部は少数の細胞からなっていて,その周りにはほかの細胞がタマネギのように集まっている.この細胞が年令とともにその数を増す.その多くは簡単な同心性小体であるが,このような小体の2つ以上が共通の細胞層で包まれると複合の同心性小体となっている.

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同心性小体のそばには上皮性の細胞群からなる不規則な索や島Inselnがある. Hammar, Stöhrおよびその他の学者によるとこれらの構造は内胚葉性の細網細胞が肥大することによって生じたものだという.

 Hammarはハッサル小体の数をしらべて,新生児では100万,少年期の終りには150万であるとした.16~20才では704135に減じ,21才から25重ではなお492591, 36才~45才では262482しかないという.

 胸腺の動脈は鎖骨下動脈のいろいろな枝から来ている.静脈はほとんど全部が左腕頭静脈にはいる.リンパ管は多数存在していて大い.神経は迷走神経と交感神経から来ており,無髄である.そして第1には心臓神経と心臓神経叢から胸腺に来ており,また第2には少数の血管神経を介して,ときには横隔神経を介して胸腺に来ている.舌下神経係蹄からの線維をSjölanderとStrandbergが発見した.細小の線維が実質のなかに入り,そこで自由終末をなしている.

 Hammar, J. Aug., Die Menschenthymus. Teil I. Ergänzungsband zu Bd. 6 der Z. mikr. anat. Forsch.1926. Teil II. Ergänzungsband zu Bd.16,1929.-Sjölander und Standberg, Upsala Läkaref. 's Förh. Ny följd., 20. Bd.,1915-Braeucker, W., Z. Anat. u. Entw., 69. Bd.,1923.

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最終更新日 13/02/03

 

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