Rauber Kopsch Band2. 29

III.腹膜Peritonaeum, Bauchfell

A. 概観

 腹膜は腹腔と骨盤腔を被っている漿膜であって,われわれの体のなかでだんぜん他のものをしのいで広がっている袋,すなわち腹膜腔Cavum peritonaei, Peritonaealhöhleを作っている.

 腹膜は他の漿膜嚢と同様にその表面から少量の薄い水様の液を分泌しでいる.これを腹膜液Liquor peritonaeiという.この液は腹膜の上皮が滑らかであることと相まって,腹腔と骨盤の諸器官の大部分が生体において数多くの,その一部はかなり目立った形と位置の変化をすることを可能ならしめている.

 腹膜とそれが被っている諸器官との固着するぐあいはさまざまである.いくつかの場所ではその下の層と固くくっついて動かない.他の多くの場所では疎な腹膜下組織によってきわめて可動性に下の層とつながっている.

 内臓は腹膜腔にずっと入りこんでいるので腹膜にはいろいろなひだを生じている.かなり大きい腹膜のひだが腸管の諸部を腹壁に固着させていて,腸管に分布する脈管がその中に包まれており,これを腸間膜Mesenteria, Gekröseという.1つの内臓から他のものに移っている腹膜の大きいひだであって,それが後に述べる大と小の腹膜嚢に属する膜によって作られているものをOmenta(Epiploa),Netzeと呼んでいる.

 男では腹膜嚢はどの側をみても閉じている.それに反してでは卵管の腹腔口abdominale Tubenmündungという開口が左右各側にあって,ここが卵管,子宮,腔を介して外界と開放性につながるのである.

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 他の漿膜と同様に腹膜にも体壁に属しているいっそう厚くて固い部分,すなわち壁側腹膜Peritonaeum parietaleと内臓の被いである臓側腹膜Peritonaeum visceraleとを分ける.

 壁側腹膜は前腹壁と側腹壁の内側の面をとぎれずに被っており,さらに横隔膜の腹腔面と後腹壁にも続いている.また小骨盤のなかにも入りこんでいて,その壁のかなり大きい部分をも被っている.

 前腹壁での腹膜の関係はもっとも簡単である.腹膜は臍のところからすでに述べたとおり前腹壁の後面を上行して横隔膜の腹腔面に達して,これを被っており,その筋肉部とは疎に,腱性部とは密に結合している.胎生期には腹膜が膀を通って伸び出しており,そのために体腔も外にでて胎児被膜のあいだに入りこんでいた.横隔膜の腹腔面を被っている腹膜は肝臓が横隔膜と付着する面の前界まで達して,ここで肝臓の横隔面に移行している.

[図348]定型的なヘルニア門 (Fr. Merkel) これと図349の正常図とを比較せよ.

 その経過のあいだに腹膜は前腹壁において膝静脈によるひだ,すなわち肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleを作っている.このひだの自由縁は下方に向かっていて,初めは矢状方向にあり,肝臓への付着部はわずかに右方にずれている.すなわちこのひだは臍からほぼ正中線を上行して横隔膜の腹腔面と肝臓の横隔面に伸びており,閉鎖した臍静脈,すなわち臍静脈索Chorda v. umbilicalisを入れていて,この索を臍から肝臓の内臓面に導いているのである(図100).

 臍の下方には3つのひだがあり,そのうちの1つは正中に,他の2つは外側にある.これらはみな臍に終わっている(図348, 349).中臍ヒダPlica umbilicalis mediaは臍尿管索Chorda urachiを含んでいる.外側臍ヒダPlicae umbilicales lateralesは膀胱の側面から内側上方にすすんでおり,左右それぞれ閉鎖した臍動脈,すなわち臍動脈索Chorda a. umbilicalisを入れている.これらのひだは翼のように突出していて,その突出する度合いは強いことも弱いこともある.外側臍ヒダのさらに外側には腹壁動脈ヒダPlica epigastrica(図349)があり,これは下腹壁動静脈を包んでいる.これらのひだのあいだにある外側・内側・膀胱上鼡径窩Foveae inguinales lateralis, medialis, supravesicalisについては第I巻,375頁から378頁までと第I巻図497499を参照されたい.

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 腹膜嚢を前方から広く開いて腹膜腔を囲む他の壁を観察してみると,前壁とはまったく異なった様子をしている(図100).

 このときには腹腔の上部に肝臓と胃がすぐに認められる.胃の大弯から大網Omentum majus, großes Netzというはなはだ目だつものが下方に伸びている.これは前掛のようになって,腸の諸部秀を前方から被っている.その左側と右側,および下方には腸の諸部分(盲腸・S状結腸・空腸の終末部の係蹄)が被われずに見えている.

 大網を上に持ちあげて上方に折りかえすと(図109),横行結腸はそれについて上り,自由ヒモと腹膜垂と結腸膨起をもった横行結腸の後下面がはっきりとみえる.また横行結腸間膜Mesocolon transversumの一部もみることができる.

 なおまた腸間膜小腸の数多くの係蹄があらわれる.これがほとんど全視野をみたし,また後腹壁にくつつていいる諸器官をほぼ完全に被いかくしており,右方には盲腸,左にはS状結腸だけが部分的にみえるにすぎない.

 しかし腸間膜小腸の付きかたからして,いかなる器官もそこなうことなしに腹膜腔の後壁め大部分を観察することが可能である.腸間膜小腸の係蹄を右方に持ちあげると(図159)小腸間膜Mesosteniumの左の面が現われてくる.小腸間膜は脂肪の沈着の程度によって厚かったり,薄かったりするが,その頚飾のようにひだのある縁には腸の係蹄が固く着いている.それゆえこの膜をドイツ語でGekröse(ひだのあるものの意)という.腸間膜根Radix mesosteniiが後腹壁に付着するところは,第2腰椎から斜めに右下方に走って右腸骨窩にいたる1線に沿っており,ここで右の仙腸関節の上端のところで終わっており,かつ下方に1つの自由縁をもっている.虫垂が小骨盤に向かって垂れている場合には(図159)この自由縁のそばに虫垂が存在する.

 腸係蹄をかたよ茸ると次のものがみえる.すなわち横行結腸間膜の下面・左結腸曲・下行結腸と短い下行結腸間膜Mesocolon descendens・S状結腸とかなり長いい状結腸間膜Mesosigmoideum,それに骨盤の諸器官としては直腸の上部(直腸間膜Mesorectumをもつ)・膀胱底,女ではそのほかになお子宮・卵管・卵巣例子宮広ヒダである.

 十二指腸の上行部は小腸間膜根の上部を貫いており,空腸は十二指腸空腸曲をもってそこにつづいている.この場所には上十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus cranialisと下十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus caudalisという腹膜のくぼみがある.これらの陥凹に其通する入口が前方は十二指腸,上方は上十二指腸結腸間膜ヒダPlica duodenomesocolica cranialis,下方は下十二指腸結腸間膜ヒダPlica dubdenomesocolica caudalisによって境されている.

 上十二指腸結腸間膜ヒダのなかをしばしば下腸間膜静脈が走っている.

 やせた人や新生児では腹膜をとおして尿管,腎臓,下腸間膜動静脈がすいてみえており,またそれらのためにひだが生じている.

 S状結腸を両手でつかんで,S状結腸間膜をできるだけ伸ばして高くもちあげて.この膜の(左の)下面を下方からみると,もう1つ別の腹膜のくぼみ,すなわちS状結腸間陥凹Recessus intersigmoideusに到達することができる.そのさいこの結腸間膜の付着部にすぐ接して小さい穴が1つ認められる.これがS状結腸間陥凹の入口である(図354).下行結腸の外側には存在の不定ないくつかの浅い腹膜のくぼみがある.これを結腸傍陥凹Recessus paracoliciという.

 後腹壁の右半分の器官をみるためには小腸の係蹄の全部を左方に押しのける.そうすると左半分の鏡面像ともいえるものがみられるが,しかし多くの点で左半分と違っている.このときはまず小腸間膜の右側の表面と横行結腸間膜の右側の部分がみえる(図160).十二指腸の下行部は横行結腸間膜を通りぬけてから,下十二指腸曲で曲がって十二指腸の下部となる.この下部は小腸間膜根の上部を貫いて左方にすすんでいる.そのほかに右結腸曲・上行結腸と上行結腸間膜Mesocolon ascendens・盲腸・虫垂とそれに付着している小さい虫垂間膜Mesenteriolum processus vermiformis・回腸の盲腸への移行部がはっきりみえる.最後に述べたところでは回腸の開口部の上方と下方に上と下の回盲腸陥凹Recessus ileocaecalis cranialis et caudalisがある.上回盲腸陥凹は回腸と盲腸,および腹膜の1つのひだである上回盲腸ヒダPlica ileocaecalis cranialisによって作られている.このひだは盲腸から小腸間膜根に走っている.下回盲陥凹は回腸と盲腸,およびこれら2つのあいだに張っている腹膜のひだ,すなわち下回盲腸ヒダPlica ileocaecalis caudalisによって作られている(図160,162).

 盲腸の下端を高く持ちあげると外側に盲腸ヒダPlica caecalisという1つのひだがあらわれる.そのそばで盲腸後陥凹Recessus retrocaecalisが盲腸と結腸の後がわを上方に入りこんでいる.

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[図349]前腹壁の下部にあるひだとぐぼみ(3/4)

 腹膜は左側で外側膀嫉襞より側方の部分を取り除いてある.

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[図350]女の腹膜の経過の模型図

 正中線の左で矢状断したもの.

 さて大網をふたたび下方にもどして,横行結腸と胃を下方に引き,そして肝臓と肋骨弓を上方かつ外方にもちあげると,小網Omentum minusが肝臓の内臓面から胃の小弯と十二指腸に達しているのがわかる(図99).小網は3つの部分,すなわち横隔胃部Pars phrenicogastrica,肝胃部Pars hepatogastrica,肝十二指腸部Pars hepatoduodenalisからなっている.

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 肝十二指腸部は右方にむかつた自由縁をもっている.示指をもってこの縁の下を左方にたどると,網嚢孔Foramen epiploicumという1つの穴(図99,164)をへて胃と小網の後方にある空所,すなわち網嚢Bursa omentalis(図351)に達する.網嚢孔から網嚢に空気を吹きこむと,子供では普通に,またまれには成人においても大網がふくれる.このことは網嚢が大網にも属していることを示すのである.

 網嚢孔にさしこんだ示指の先端は網嚢前庭Vestibulum bursae omentalis〈図164, 351, 7)にある.

その前方には小網の肝十二指腸部があって,これは門脈・固有肝動脈・総胆管・リンパ管・神経を含んでいる.指の後方には下大静脈があり,上方には肝臓の尾状突起・下方には膵臓の小網隆起がある(図99,164).

 さて目を転じて,横行結腸と胃を右下方に引つばつて左側部をみると,そこには脾臓(図99, 351, 9)がある.そして横隔結腸ヒダPlica phrenicocolicaが第9ないし第11肋骨のあたりで横隔膜の肋骨部の表てを被う腹膜から出て(図99,164),左結腸曲に付着している.これは脾臓の前端を支えている.いま左手で脾臓を前下方に引き,右手の示指を脾臓の横隔面に沿って脾門へとのばすと,指の先端が横隔脾ヒダPlicae phrenicolienalesに突きあたる.これは横隔膜の腹腔面から(図164)脾門に走っている.

 最後に網嚢の壁について概観をうるためには,胃の大弯から横行結腸にいたる胃結腸間膜部Pars gastromesocolicaを切断して,胃を上方に引き,横行結腸を下方に引っ張るのがよい.このようにして広く切り開かれた網嚢は(図351)下方は横行結腸間膜の上面により,前方は胃の後壁と小網によって境されている.胃底と脾門のあいだには後胃間膜Mesogastrium dorsaleの胃脾部Pars gastrolienalisが張っており,胃底と横隔膜のあいだには同じく横隔胃部Pars phrenicogastricaが張っている.

 網嚢の後壁には特別なことがいくつかあるので,もっとよく観察してみよう.まず網嚢前庭からはじめると,この前庭の諸壁はすでに網嚢孔からさしこんだ示指をもって触れることができたのである.前庭からは上陥凹Recessus cranialis(図164)が下大静脈と食道,および肝臓のあいだを上方にのびている.下陥凹Recessus caudalisは胃と膵体のあいだを下行している.前庭と網嚢の境をなして胃膵ヒダPlica gastropancreaticaという鎌形のひだがあり,これは小網隆起から胃の噴門へ走っている.このひだは左胃動脈を含んでおり,この動脈の走りかたに影響を受けている.総肝動脈は総肝動脈ヒダPlica a. hepaticae communisを生ぜしめている.

 肝臓が横隔膜に付いているところをみるためには,一方の手で肝臓を左下方に引き,他方の手で右の肋骨弓を上に持ちあげるのである.こうすると肝鎌状間膜Mesohepaticum ventraleの形と走行をよく観察できる.これは鎌形をしていて,前方から後方に伸びており,横隔膜の右肋骨部を被う腹膜から(図99,164)肝臓の横隔面にすすんでおり,しかも前方は肝切痕に終り,後方は肝臓と横隔膜の付着面の前縁に終わっている.肝臓を除去すると図164に示した付着範囲がわかる.

 また肝臓縁に向かって次第に幅が広くなっている右三角間膜・左三角間膜Mesohepaticum laterale dextrum, Mesohepaticum laterale sinistrumがはっきりみえる(図352, 7, 7).

 これまでに観察した各部分をまとめてみると,全体として腹膜は上・後・下壁においていろいろな腹腔内臓を入れる5つの大きな嚢を作っていることがわかるのである.第1の嚢は肝臓を,第2のものは胃と脾臓を・第3のもゆは結腸を,第4のものは空回腸を,第5のものは膀胱と内部生殖器の一部をそれぞれ包んでいる.すなわち肝臓・胃・大腸・小腸・生殖器の嚢が存在する.

 したがって腹膜は(図350)前腹壁と横隔膜から肝臓の横隔面にすすみ,これをその前縁まで被い,ついで肝臓の内臓面にいたり,その中央部で肝門まで達している.肝門からは小網となって胃の小弯にいたり,胃の前面を被って大弯に達し,その下方で大網の前葉を作り,その下端の自由縁で折れかえって,逆行して脊柱まで達する.脊柱からは下方にすすんで横行結腸を被い,ふたたび脊柱に戻っている.それによって2枚の膜からなる横行結腸間膜が作られている.

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 ついで脊柱のところからやはり2枚の膜からなる空腸の小腸間膜が出ている.小腸間膜の後(左)葉は出発点に戻って後に,脊柱に沿って下行して小骨盤にいたり,大腸を包む腹膜嚢の左側の終末部として直腸の一部を被っている.直腸および骨盤の後壁から女の場合には腔円蓋と子宮に移り,男の場合には膀胱の後壁に移っている.子宮の前壁からは同じ経過をへて膀胱にいたる.膀胱からは前腹壁にすすむのである.

 これは正中面における大きな腹膜嚢の経過である.しかしこれだけが腹膜のすべてではない.このほかにまだ小さい方の腹膜嚢がある.これは網嚢Bursa omentalis, Netzbeutelであって,肝臓と胃のあいだで大きな腹膜嚢の臓側葉から後方に向かっていて,正中面より右側のところから出ている大きい広がりをもつ空所である.網嚢への入口は図351における矢印に相当しており,正中線の右側にあり,網嚢孔Foramen epiploicumとよばれる.網嚢には前葉と後葉の存在することが明かにわかる.前葉は肝臓の尾状葉を肝門のところまで被い,つひで胃の小弯にすすみながら小網の後葉をなしている(矢印の部分).そして胃の後面を被い,大網の第2の膜となって下方に伸び,その下端の自由縁において網嚢の後葉に移行している.後葉は大網の第3の膜として脊柱に向かって逆行し,膵臓の前面を被い,さらに上方では横隔膜の腰椎部を被って,肝臓と横隔膜の付着面の後縁に達するのである.

[図351]網嚢の概観

 胃の大弯のところで大網を切断して,胃と肝臓を上方に折りかえしてある.矢印は網嚢孔(見えない)と網嚢前庭(7)をへて網嚢の広い空所に達している.1 胃の後壁;2十二指腸;3肝臓;4胆 嚢;5 膵臓;6 小網の後葉;7 網嚢前庭から固有の網嚢への移行;8 脾;[8'網嚢の碑陥凹Recessus lienalis bursae omentalis];9 横隔結腸搬嚢;10大網で被われた横行結腸;11大網;12から左と右へ14までが網嚢を切り開いた切断縁;13膵臓の前端;14 胃結腸間膜部を胃の大弯の近くで切った切断縁;15 十二指腸の下行部;16 右結腸曲.

 網嚢はすでに述べたとおり正常の入口として網嚢孔をもっている.人工的には小網か胃結腸間膜部を切断することによって網嚢腔の広い範囲に到達することができる(図351).

以上でわれわれは腹膜の全体としての配置を知ったのであるが,これからは内臓を包む5つの腹膜嚢のおのおのについて特徴を調べてみよう.

B. 5つの腹膜嚢の観察
1. 肝臓を包む腹膜嚢Leberkapsel

 腹膜が右と左の2枚からなる矢状方向の肝鎌状間膜を作っていることは前に述べた.この膜の下方に向かった自由縁のところに閉鎖した膀静脈が脾静脈索として含まれている.この矢状方向に走る腹膜のひだが肝臓の横隔面上に付着する2つの線は図352では4をもって示されている.これらの線は後方にすすんで肝臓のいわゆる付着部にいたり,ここで両側に向かってたがいに離れてゆき,この付着部の前界をなしている (図352, 5と6).付着部の後界は図352において7から8と+をへて7に走っている.前界と後界は右と左の端で合しており,そこにはそれぞれ三角形のひだがある.その左側のものが大きい広がりをもっていることがある.これら2つの翼状のひだは右三角間膜,左三角間膜Mesohepaticum laterale dextrum, Mesohepaticum laterale sinistrumという(図352, 77).

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 肝臓の左縁の近くで肝臓と横隔膜のあいだにはしばしば小さな腹膜のくぼみがある.これは横隔肝陥凹Recessus phrenicohepaticus(v. Brunn) といい,横隔膜の腹腔面において肝臓と横隔膜との付着面の後界に沿って右から左に伸びている.それゆえその入口は右方にあり,盲端は左方にある.この陥凹は肝臓の左葉が生後その一部が退行して,この部分の前縁,まれにはその上縁が横隔膜と癒着するために生ずるのである.

[図352]肝臓の横隔面(破線)と内臓面の腹膜線(点線)

 1 右葉;3 左葉;3胆嚢切痕;4 肝切痕と肝鎌状間膜の両葉;5, 6肝臓の付着部の前界;7, 7 右と左の三角間膜;8(7から10まで)付着部の左の後界;9と10 (左)矢状裂の静脈管索部を下行し,さらに肝門をとりまく2つの腹膜線;9 小網の前葉の起始線;10 小網の後葉(すなわち網嚢の前壁)の起始線;11尾状葉の後端;11と12網嚢の後葉の起始線と付着部の後界;13(7から*まで)付着部の右の後界;14 尾状葉の領域;* 尾状突起.

[図353]肝臓の内臓面の腹膜線

 肝臓はその前縁を上方に向けている.図352図353を合せて観ること. 1 右葉;2 左葉;3 方形葉;4 尾状葉;4'乳頭突起;4" 尾状突起;5胆嚢;6'膀静脈索とその後方の続きが門脈の左枝に合するところ;7 下大静脈;8,8,8 静脈管索;9 門脈の左枝;10固有肝動脈;11 総胆管;12 門脈の右枝;13肝鎌状間膜の2線が付着部に達して終るところ;14と15 付着部の前界;16~19と17~18付着部の後界;18と19 左右の三角間膜の付着する場所;20 腎上体圧痕;21~22と21~16小網の前葉の起始線;22と17から出て4のまわりをとりまく線網は嚢孔の天井と尾状葉を囲んでいる.これらは網嚢に属するのである.

2. 胃の腹膜嚢Magenkapsel

 胃の表面を被う腹膜は小弯において前胃間膜Mesogastrium ventraleに続き,後者の内部に肝臓がある.前胃間膜は前・右外側・左外側の肝間膜と小網とからなりたっており,肝間膜はすべて横隔膜と前腹壁にいたることはすでに述べた.胃の大弯からは後胃間膜Mesogastrium dorsaleが出ている.このなかには脾臓が包まれている.それゆえ横隔脾雛襞は後胃間膜の一部でもある.特別な樽造物としては大網と脾網がある.

1. 小網Omentum minusは横隔胃部と肝胃部と肝十二指腸部からなっている.

a)横隔胃部Pars phrenicogastricaは食道の右側で横隔膜から胃の小弯に達している.

b)肝胃部Pars hepatogastricaは肝門と肝臓の静脈管索部から小弯にいたるもので,2枚の膜からできていて,その後方の膜ば網嚢の前葉である:肝胃部はこれらの部分めあいだに透明なベールのように張られており,それを通して尾状葉がすき通ってみえる(図99).

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c)肝十二指腸部Pars hepatoduodenaliもは肝門と胆嚢から十二指腸の上部に達している.右方に向かったその自由縁には網嚢孔という網嚢への入口がある.肝十二指腸部は総胆管Ductus choledochus(右),肝動脈(左),門脈(前2者の後方で中央部にある)を包んでいるので,かなり厚くなっている.この部分の両葉のあいだにはなおリンパ管と神経もある(図113,164).

2. 横隔脾ヒダPlicae phrenicolienalesは横隔膜から脾門に達している(図164).

3. 後胃間膜Mesogastrium dorsaleは横隔胃部・胃脾部・胃結腸間膜部からなりなっている.

a)横隔胃部Pars phrenicogastricaは三角形の短いひだで,横隔膜から胃の噴門の左側面に達している.

b)胃脾部Pars gastrolienalisは大弯の胃底部から出て脾門に達している.これは網嚢の前壁の左の部分である.

c)胃結腸間膜部Pars gastromesocolicaは胃の大弯と横行結腸とをつないでいる.

 大網Omentum majusは大弯と横行結腸から出ている.これは4枚の膜からなっており,そのうち外側の2枚は大きな腹膜嚢に属し,内側すなわち中間の2枚は網嚢に属している.大網はときには脾までしか達していないことがあり,また小骨盤のなかまで達していることがある.これは多量の漿膜下脂肪組織をもっていることがある.大網は左方で胃脾部に移行している.大網の上部が胃の大弯と横行結腸のあいだにあって,横行結腸と癒着しているのが胃結腸間膜部である.

 脾網Omentum lienale, MilznetzはBöker(Verh. anat. Ges.,1932)によると必ず存在している網構造Netzbildungであって,大網と同様に胃の大弯から出ており,胃脾部の前方にあるもので,左方,に向かっていて,3本から4本の指状をした葉状部をもって脾をかこむ形をしている.脾網は図体の大きいネコ科(Felidae)の動物できわめてよく発達しており,ときには大網よりも大きいことがある.(Schreiber)

3. 大腸の腹膜嚢Dickdarmkapsel

 横行結腸は初めは独立した腹膜のひだである横行結腸間腸Mesocolon transversumによって腹腔の後壁に固着している.その根,すなわち横行結腸間膜根Radix mesocoli transversiの付着線は十二指腸の下行部と膵臓の頭を越えて横走し,ついで膵体の下縁に沿っている.横行結腸間膜の上葉と横行結腸とが大網の脊柱に向かって戻ってきた後葉と2次的に癒着するために,横行結腸間膜はつまり4枚の膜からなりたつのである.

 すでにのべたように胃の大弯から横行結腸に伸びている大網の部分は胃結腸間膜部Pars gastromesocolicaといい,これによって大腸の腹膜嚢は胃の腹膜嚢とつながっている.

 その上に大腸の腹膜嚢は横行結腸だけを包むのでなくて,大腸の全体を包んでいる.それゆえこれには上行部横行部下行部が区別される.上行部は盲腸と上行結腸に相当し,横行部は横行結腸に,下行部は下行結腸とS状結腸,および直腸に相当している.各々の部分について腹膜の特徴を次に述べることにしよう.

 盲腸は前方と側方と下方を腹膜で被われており,後方はいろいろな範囲において結合組織によって腸骨筋膜に付着している.腹膜がかなり.完全に盲腸を被っていて,そのために盲腸は多少とも後腹壁から一はなれていることがある.盲腸の後面には上に向う1つの腹膜のくぼみがあり,これを盲腸後陥凹Recessus retrocaecalisといい,これには個体差がある.これは結腸の初部にまで達していることがある.

 この変化に富む陥凹のやや上方に下回盲陥凹Recessus ileocaecalis caudalisというもう1つのくぼみがある.これは多くの場合かなり大きい腹膜のひだ,すなわち下回盲腸ヒダPlica ileocaecalis caudalisによって外側を境されている.

[図354]S状結腸間陥凹 S状結腸を上方にあげて,S状結腸間膜の左側板がみえるようにしてある.1 S状結腸;2 S状結腸間膜;3 S状結腸間陥凹の入口.

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このひだは回腸の後面から出て,回腸の終りの部と盲腸および虫垂のあいだの隙間をうずめている.反対側,すなわち前がわでは回腸の盲腸への開口は上回盲腸ヒダPlica ileocaecalis cranialisという小さいひだによって被われており,これは回結腸動脈の1枝を包んでいる.このひだは小腸間膜の右側面と回腸の前面から高まって出て,盲腸に向かってすすみ,ここに終わっている.これは腸壁とともに上回盲腸陥凹Recessus ileocaecalis cranialisという小さいくぼみを境している(図162).

 回腸の下縁において,小腸間膜の下端からきやしやなひだが出ていて,虫垂に向かってすすみ,これを包んでいる.このひだは虫垂にゆく脈管も含んでいて,虫垂間膜Mesenteridlum processus vermiformisという.

 上行結腸は前方と側方を腹膜で被われている.後面のせまい帯状のところがたいてい腹膜をもっていない(図164).しかしときには上行結腸間膜Mesocolon ascendensのあることがある.これは幅の広いことも,せまいこともある.

 左結腸曲のところには横隔結腸ヒダPlica phrenicocolicaという腹膜のひだが強く突出している.これは側腹壁から横走して左結腸曲に張っているのである.このひだの上には深いところに脾臓の前端がのっているが,これは決して固着しているわけではない(図99,164).

 下行結腸と腹膜の関係は上行結腸のばあいと似ている.後方の帯状の部分(多くの場合せまい)は腹膜がない(図164).しかし前面と側面は腹膜で被われている.外側面にはときにいくつかの小さなくぼみ,すなわち結腸傍陥凹Recessus paracoliciがある.ここにもまた幅の広さがさまざまな下行結腸間膜Mesocolon descendensのみられることが時としてある.

 それに反してS状結腸は大きい広がりをもつことのある腹膜のひだに包まれている.このひだをS状結腸間膜Mesosigmoideumという.これが後腹壁に付着する線は,いろいろ異なる高さで始まっている.

 S状結腸を上方に折りかえして,結腸間膜を緊張させると,その左面のところにロート状のS状結腸間陥凹Recessus intersigmoideusがあらわれる(図354, 3).これはときにぼはなはだ深いことがあり,しかし変化に富んでいる.陥凹の左側で腹膜のうしろには精巣動静脈があり,また右側には上直腸動静脈の枝がある.

 S状結腸間膜の下端は直腸間膜Mesorectumに続いている.これは直腸の上部をしっかり支えている丈の低い腹膜のひだである(図350).腹膜はそれより下方で直腸から離れて(男では)膀胱に,あるいは腟円蓋と子宮に移行している.このようにして直腸膀胱窩と直腸子宮窩がつくられる.

 女の場合にはこの折りかえしの部分で直腸の側面から半月形のひだが子宮に向かっている.これは平滑筋を含んでいて,直腸子宮ヒダPlica rectouterinaという.両側にあるこのひだが直腹子宮窩Excavatio rectouterina(ダグラス腔Cavum Douglasi)の上界をしている(図275, 285).

4. 小腸の腹膜嚢Dünndarmkmpsel

 腸間膜小腸を入れている第4の腹膜嚢を観察するまえに,十二指腸と腹膜との関係をもう一度調べておこう.

 十二指腸の上部はほぼ完全に腹膜に被われており,下行部と下部は前面だけしか腹膜で被われていない(図99,164).一方,その後面は結合組織によって後腹壁に付着している.

 十二指腸の上部は前方が大きな腹膜嚢の一部により,後方は網嚢の前葉によって被われており,内側のせまい帯状のところは腹膜で被われていない.下行部は横行結腸間膜の初まりの部が横め方向に越えている(図99,164).それゆえ下行部の上部は結腸間膜の上葉が上方にのびた部分によって被われており,それに対して,下部と上行部は結腹間膜の下葉が下方へのびた部分によって被われている(図160).小腸間膜について観察すると,十二指腸の下部の右半分は小腸間膜の右葉の上方への続きによって被われており,一方その左半分は小腸間膜の左葉の続きによって被われている(図159,164).

 小腸の腹膜嚢は十二指腸空腸曲のところから始まっており,空回腸を入れている.すなわち小腸間膜Mesosteniumである.つまり小腸間膜は空腸と回腸を体腔の後壁に固着させている大きな腹膜のひだである.このひだの両葉,すなわち右葉と左葉はその末棺端において互いのあいだに空回腸を入れており,血管・リンパ管・リンパ節・神経・結合組織・脂肪組織をも包んでいる.小腸間膜の付着線,すなわち小腸間膜根Radix mesosteniiは第2腰椎体から斜め下方へ右腸骨窩に伸びており,ここで小腸は大腸に移行している(図99,164).

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 3~5メートルの長さがある空回腸はまがりくねって,せまい腹腔のなかに収まっており,その収まり方にはもちろん広い範囲の変化があるが,やはり一定の様式がみられるのである.腸腹Daumbauchの上部では横行結腸と横行結腸間膜に密接している腸係蹄が水平方向にあって横走している.小骨盤のなかでもやはり水平の方向に走っている.脊柱の右と左にある腸管は,上下の方向に並んでいる.最も前方たある係蹄には一定した走行の方向が認められない.

 係蹄の上方群(水平方向に走るもの)と左方の係蹄(上下方向に走るもの),および中間部の係蹄群の一部(不規則の方向に走るもの)は空腸に属している.中間部の残りの部分と右方の係蹄と(下方の)骨盤内の群は回腸の範囲である.また回腸の末端部の位置は畠定であって斜めに右上方にすすんで,右腸骨窩のなかで大腸にはいっている.

 なおまた,表面にある小腸係蹄と深層にある係蹄との関係がいっそう重要である,この点については空回腸の全長の1/3だけが表層の腸係蹄に属しており,2/3は深層の腸係蹄に属していることが分かった.D. Sernoff, Internat. Monatsschr.,11. Bd.,1894.

 小腸間膜根の走行にはきわめて個体差がある,Stopnitzki(1898).

 小腸間膜の幅はさまざまである.個体的な差異を別にしても,小腸間膜根と腸間膜の腸壁付着部との隔たりは十二指腸空腸曲のところと盲腸への移行部の近くとがもっとも小さい.小腸間膜がもっとも幅の広いところは1ヵ所ではなくて2ヵ所ある.1つは腸係蹄の上1/3と中1/3の境にあたるところであり,いま1つは小腸の末端部の近くである.

 小腸間膜の初まりの部と終りの部には重要な特徴があり,これは腹膜のひだとくぼみの形としてあらわれている.回腸の末端部と盲腸のあいだにある特別なことがらについては大腸の腹膜嚢のところですでに記した.しかし十二指腸の終りの部と回腸(原文に回腸とあるが,空腸の誤りであろう.(小川鼎三))の初まりの部とのあいだにあるひだとくぼみについてはまだのべていない.これらは常に存在するものではなくて,その様子が変化に富んでいる.

 これらのひだとくぼみの実地上の意義はくぼみのなかにしばしば腸の長い部分が入りこんでそこに捕えられて,くびれることがあるのである.このような現象を内へルニアHerniae internae,および腹膜後ヘルニアHerniae retroperiltonaealesという.

 上・下十二指腸結腸間膜陥凹Recessus duodenomesocolicus cranialis, caudalis(図159)は常にみられるものであって,その入口はそれぞれ上・下十二指腸結腸間膜ヒダPlica duodenomesocolica cranialis, caudalisによって境されている.

 前者のなかには下腸間膜静脈,後者のなかには左結腸動脈の1枝の走っていることが多い.

5. 生殖器の腹膜嚢Genitalkapsel

 生殖器の腹膜嚢は泌尿器と生殖器の一部を入れている.そして男女によって異なったぐあいにできている.同じであるのは膀胱の後壁を被う腹膜である.内部生殖器の形と位置が異なるのに応じてその腹膜嚢の部分もきわめて相違した様子をしている.男では精嚢腺と精管だけが部分的に腹膜に被われている(図270, 349).精巣は腹膜鞘状突起のところにあるのであるが,腹腔から分れて陰嚢のなかにあるので腹膜嚢のなかには存在しない.卵巣は位置の変化がそれより軽度である.卵巣は子宮,腔円蓋,卵管,子宮鼡径索,卵巣提靱帯,卵巣上体,卵巣傍体とともに前額面上にのびた大きな腹膜のひだの範囲にある.このひだは膀胱と直腸とのあいだにあるもので,子宮広ヒダの項ですでに記載してある(211頁, 212頁).これについては図275, 284, 285, 290を参照されたい.

 子宮広ヒダの前葉は子宮体の膀胱面を被い,子宮頚のところに達し,ついで膀胱底に移行している.子宮鼡径索はこの前葉に被われて,さらに腹膜下鼡径輪にすすんでいる.子宮広ヒダの後葉はそれよりもずっと下方まで達して,子宮体と子宮頚から腟円蓋の後面に達し,ついで直腸に移行している.後葉は卵巣と子宮卵巣索を被っている.前後の両葉のあいだには卵巣上体と卵巣傍体および脈管と神経が存左する.子宮広ヒダの上縁には卵管がある.卵管の腹腔口によって女の腹膜腔は生殖器の内腔とつづいている.卵管の腹腔端の外側で子宮広ヒダは約2cmの長さの自由縁をもっている.

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この自由縁の下(外側)端が骨盤壁に固着するところには卵巣動静脈をふくむ丈のひくいひだ,すなわち卵巣提靱帯Plica suspensoria ovariiが終わっている.子宮広ヒダには下部の子宮間膜Mesometriumと上部の卵管間膜Mesosalpinxとを区別する.そのほかに短い卵巣間膜Mesovariumがある.

 子宮広ヒダの側方への付着部と,その2枚の膜(前葉と後葉)が分れるところは内腸骨動脈に沿っている.すなわちこれは仙腸関節の部分にある.しかし鋭い自由縁の下(外側)端は大骨盤のなかで総腸骨動脈に接しており,この動脈が内外の腸骨動脈に分枝する場所の上方にある.

 子宮の前壁と膀胱の後壁のあいだには子宮膀胱窩Excavatio vesicouterinaがある.これは普通はせまい隙間状であって,腸管係蹄を入れていない.一方は子宮と腟円蓋,他方は直腸とのあいだにある矢状方向の強く突出した大きなひだが左右にある.これは平滑筋を含んでおり,直腸子宮ヒダPlicae rectouterinaeという(図275, 285).

 この2つのひだと直腸および子宮のあいだにあるくぼみを直腸子宮窩Excavatio rectouterina(ダグラス腔Douglasscher Raum)という.これは普通は後腔円蓋の高さまでしか達していないが,しかし(いずれにせよまれなことであるが)もっと下方に達していることもある(図275, 276, 285).

 前・後・上方で子宮と結合している腹膜の被いが子宮周膜Perimetriumと呼ばれることはすでに述べた(215頁).側方では子宮と漿膜との結合ははるかに疎である.ここには結合組織が集り,子宮に分布する脈管,神経の幹がある.この外側部の結合組織は子宮頚の前面にも達しており,また静脈叢をもっていて,子宮傍[結合]組織Parametriumとよばれる.これは前方と後方を子宮広ヒダの両葉で被われている.

 男では直腸膀胱窩Excavatio rectovesicalisだけしかない.その下方の境は図266, 270に示されてある.膀胱の後面には左右の精管膨大部のあいだに腹膜のない部分がある.男でもまれに直腸膀胱窩がいっそう下方まで達していることがある.

C. 腹膜の微細構造

 腹膜の微細構造は本質的には他の漿膜とちがわない.臓側葉は平均45~67µ,壁側葉は90~130µの厚さをもっており,結合組織性の基礎からなっている.その線維束はいろいろな走向をとって相交わり,また弾性線維の豊富な網をもっている.弾性線維の網は壁側葉でいっそうよく発達している.薄い基礎膜の上を1層の扁平上皮が被って(第I巻図53),これが漿膜Tunica serosaに滑かさと光沢をあたえている.横隔膜のところではこの上皮に特別な隙間状の小口があって,これが奨膜嚢の腔所を深層のリンパ管につないでいる.その他のところでは腹膜上皮は密着していて隙間がない.

 漿膜下組織Tela subserosaは疎であったり,あるいは比較的かたい組織であったりするが,腹膜と諸器官とのあいだをつないだり,あるいは腹膜の各葉のあいだをたがいに結合している,若干の部分(結腸,大網,網膜垂)を除いては臓側葉の下には漿膜下組織がわずかしかないか,あるいは全くみられない.この例外的な若干の部分では脂肪層が著しく発達していることがある.

 平滑筋は重要な構成要素であって,多くの腹膜のひだのなかに存在しており,とりわけ子宮広ヒダではよく発達している.それゆえに子宮の表面の筋層は全くこの子宮広ヒダの筋束のつづきであるとまで考えた人がある.

 血管は全体として乏しい.また漿膜に属しているリンパ管も存在する.神経はあまり豊富でない.その源は交感神経,腰神経叢および仙骨神経叢の交通枝,横隔神経にたどることができた.Ramströmによると前腹壁は第7~12肋間神経と第1腰神経および腸骨下腹神経と腸骨鼡径神経からの諸枝を受けている.これらは血管神経として終るものと,漿膜下にある細い無髄神経網に終わっているもの,および棍状小体と層板小体をもって終るものとがある.横隔神経は前腹壁の腹膜の神経支配とは少しも関係がない.

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 壁側腹膜の神経はDogielによると漿膜と漿膜下組織に来ているという.その大多数のものは無髄線維であり,少数のものが有髄線維である.無髄線維は血管に分布しており,交感性神経細胞の小さい集りをもっている.有髄線維は知覚性のもので,漿膜下組織と漿膜において特別な終末装置をもって終わっている.この終末装置には2つの基本型が区別される.すなわち小体性の終末と小体をもたない終末分枝である.

 漿膜では神経終末小体はきわめて表層にあり,上皮のほとんど直下にあることが珍しくない.その構造にはいろいろと異なったものがみとめられる(Ramström, Anat. Hefte 1908).根状小体の簡単な形のものから,完全に発達した層板小体まで,そのあいだの多数の中間形がみられる.これらの終末小体には1本,あるいは大きな形のものでは2本の有髄神経線維が来ているばかりでなく,また常に色のうすい交感性神経線維も来ている.この交感性の線維は内棍の全体にわたって枝分れしその終末小体で終わっている.小体をもたない神経終末装置は小体をもつものと同様に漿膜と漿膜下組織のなかに多数に存在しており,やはり上皮のすぐ下に達しうるのである.腹膜では上皮間に終る神経は存在しないようである.

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最終更新日 13/02/03

 

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