Rauber Kopsch Band2.719   

前者はふつうの表皮の胚芽層に相当し,円柱細胞からなる基底層のほかに有棘細胞や上皮細胞間迷路をもっており,黒人ではここに暗い色がついている.爪角質層は爪の固有の物質である.この層の下面は後部のみ全く平滑であるが,前の方には爪床の小溝に対応する角質の隆線がある.しばしば爪の外面にも明瞭な縦のすじがみられ,かるい凹凸を示している.爪の角質板は何層もの葉からできていて,その深層のものは屋根瓦状にたがいにかさなり合っている.爪の物質は半月のところだけで形成される.細胞の角化はケラトヒアリンやエレィディンの形成を伴なわずに起る.

 個々の葉は角質小鱗Hornschtippchenという平たい多角形の角化細胞からなり,この細胞にはまだはっきりと核の名残や棘や細胞間迷路の痕跡をみることができる.細胞間迷路のすきまにはところどころに外の空気がたまっている.そのため含気上皮Aero-Epithelの1型をなすのである(第I巻33頁).爪のこのような場所は白く見え,爪が全体としてある程度白く見えるのはこのためである.爪は生体ではたえず成長し,保護してやれば非常な長さ(5cmまで)に達する.

 爪の厚さについて,また長さ・重さ・季節・体側などによる毎日の成長のぐあいについては,H. Vierordt, Anatomische Tabellen,1893を参照されたい.(日本人の爪の成長につては,最近次の論文が国際的協力の下に発表された.J. B. Hamilton, H. Terada, and G. E. Mestler: Studies of growth throughout the lifespan in Japanese; growth and size of nails ad their relationship to age, sex, heredity, and other factors. Journ. of Geront.10: 4, 401~415,1955)

 爪床の血管は根部の方が比較的少くて,爪体の部分に豊富である.深部から爪床に向かって上つてくる動脈は小稜の基部で主として縦の方向に走り,隆線や乳頭へ小枝を送っている.

 爪床にはリンパ管もみとめられる(Teichmann).

 神経は爪床の皮下組織に小幹をなして存在する.Vitali(Internat. Monatsschr. Anat. u. Phys., 23. Bd.,1906)は無髄線維が糸球や係蹄の形をして自由終末をなすこと,および神経終末小体すなわちマイスネル小体・層板小体・ゴルジーマッツォニ小体・ルフィニ小体が存在することを証明した.皮膚の胚芽層で知られているような上皮細胞間の神経終末もおそらく存在すると思われる.

[図768]爪をとりさつて爪床の表面をみる(Hebraによる模型図)

1 前方の乳頭の1帯,2 粗大な隆線の1帯,3 微細な隆線の1帯,4 乳頭をもつ隆線の1帯,5 後方の独立乳頭の1帯,3~5は爪根の領域,3の前方部が半月の領域に当る.

b)毛Pili, Haare(図769782)

 毛はほとんど全身にひろがっている糸状の皮膚付属器で,保護と装身の役目をしているが,神経系とのつながりにより1種の感覚装置をもなしている.毛は毛包という皮膚の特別の陥入部の中にその根をもち,平滑筋や脂肪を分泌するをそなえ,脈管によって養われている.

 毛がないのは体表面のごく小部分にすぎない.すなわち手掌・足底・手足の指の末節の背面・赤唇縁・陰茎亀頭および陰核亀頭・包皮の内面である.

 毛の生えている場所でみると,毛に次の3つの主要型がある:生毛(うぶげ),短毛すなわち剛毛長毛

 毛の長さは短いのが0.5mmから長いものは1.5 mもあり・太さは0.007 mmから0.17mmまでの範囲である.比較的長い毛の毛包は長さが2.7~3.8mmある.

 長毛Langhaareに属するのは次のものである:頭毛(かみのけ)Capilli, Kopfhaare,須毛(ひげ)Barba, Barthaare,腋毛(わきげ)Hirci, Achselhaare,陰毛Pubes, Schamhaare,胸毛(むなげ).

 剛毛Borstenhaare(長さ0.5~1.3 cm)には次のものがある:眉毛(まゆげ)Supercilia, Haare der Aagenbrauen,眼瞼縁の睫毛(まつげ)Cilia, Wimpern,鼻腔の入口の鼻毛(はなげ)Vibrissae,外耳道の耳毛(みみげ)Tragi.

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最終更新日10/08/31

 

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