Rauber Kopsch Band2.720   

 生毛(うぶげ)Lanugo, Wollhaareは長さ14 mmまでの細い毛で,顔・胴・体肢のほか小陰唇や涙丘にもある.

 毛は孤立して存在することもあるが,2ないし5本が寄り集まって群生していることもあり,とくにこの傾向は頭毛に著しい.

 毛のはえている頭皮は平均80000本の毛をもち,その他の体部には約20000本の長毛および剛毛がある.--婦人の頭毛の全重量は約300grである.金髪140000本,褐髪109000本,黒髪102000本,赤毛88000本が300grに当る.金髪はほかの色の毛より細いのである.--1cm2の範囲に生えている毛の数は,Krauseによると:頭頂部171,後頭部132,前頭部123,オトガイ23,恥丘20.また前腕の掌側面の生毛は約50本--Withofによると,同じくl cm2の頭皮に黒髪86,褐髪95,金髪107本.(五島匡一(東京医事新誌2710,1931)は日本人の頭毛の数を,発毛状態の良好な青壮年男子20例(生体および死体)についてしらべ,次のような結果を得た.頭髪の総数は平均100659本,頭の有毛部の面績は592 cm2,1 cm2あたりの頭髪数は頭頂部199本,後頭部172本,前頭部183本,側頭部130本.)--毛は熱の不良導体で,湿度の変化によって鋭敏に長さを変える.しなやかで弾性があり,しかも固い.1本の長毛は約60grの重さに耐えるのである.また引っ張ると長さの1/3だけ伸び,20%引きのばすと弾性の余効(伸びの残留)は6%である.

 毛の構成と構造

 それぞれの毛には固有の毛Pilus, Haarと毛包Folliculus pili, Haarbalgが区別される.前者には露出している部分,すなわち毛幹Scapus pili, Schaftと,毛包内に埋まっている部分すなわち毛根Radix pili, Wurzelがある.毛包の下端は毛球Bulbus pili, Haarzwiebetという柔かい膨らみに終わっている.毛球は毛幹の1倍半から3倍ぐらいの太さがあって,その内部が空いていて,そこに毛乳頭Papilla pili, Haarpapilleという毛包の結合組織性突起を容れている.また毛幹はとがった自由端に終り,ここを毛尖Apex piliという(図769, 770).

 微細構造では(図769 B)次の部分が区別される:毛髄質Substantia medullaris, Marksubstanz,毛皮質Substantia corticalis, Rindensubstanz,毛小皮Cuticula pili, Haaroberhäutchen.

 毛髄質は毛球から毛尖のところまで,毛の中軸を走っている索で,たいてい2列にならんだ円い上皮細胞からできている(図769, 772).この細胞は髄質細胞Markzellenとよばれ,その内容は微細粒子性で,やはり空気の小泡を封じ入れていることがあり,その場合にには一種の含気上皮Aëro-Epithelになっているわけである.そのさい核はひからびている.空気を含む髄質は落下光線でみると銀白色に,透過光線では黒くみえる.髄質細胞は毛球のところでは空気をふくまず,ケラトヒアリンの粒子をふくんでいる.

 生毛には髄質がないのが普通である.短い太い毛では長い毛より髄質が太い.動物によっては髄質が毛の最も大きい部分をなしていることが少なくない.たとえばシカがそうであるが,このような場合には毛が折れやすいのである.

 毛皮質は縦にすじがあって,毛幹では角化した紡錘形の長い上皮細胞からできている これらの細胞は細長い1つの核をもち,また色素粒子がさまざまな頻度でふくまれている(図772).また小さい気泡もふくまれており,白髪では気泡が非常にたくさん存在する.粒子状の色素は明るい黄色から赤・褐色・黒にいたるあらゆる変化を示す.そのほかさまざまな色調の色素が溶けた状態で豊富に存在することがある.紡錘形の細胞はたがいに固く結合しているが,小さい棘や細胞間隙をはっきりと示し,細胞間隙には空気がふくまれることもある.毛球では皮質細胞は短くなり円くなって,ここでは決して空気をふくまない.しかしここでは皮質細胞のあいだに色素を有する星形の構造がみえる.これはおそらく毛の内部へ色素を運びこむことを任務とする結合組織性色素細胞であろう.

 毛小皮は屋根がわらのように重なりあう透明な鱗片,すなわち角化した無核の上皮細胞の単一の層からなっている(図769B).

 毛包Folliculus pili, Haarbalgは結合組織性部分と上皮性部分とで構成されている(図770, 772).結合組織性部分が狭義の毛包であって,重なりあう2層の結合組織性線維膜からなり,その下端からは毛幹と毛根を通じて唯一の結合組織性部分である毛乳頭が伸びだしている.

S.720   

最終更新日10/08/31

 

ページのトップへ戻る