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大脳の表面の静脈(浅大脳静脈)の走行

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    クモ膜の中に透けて見える脳の表在静脈を観察する。静脈血が残っている場合には、暗赤色にみえるが、固定液で排出されている場合には動脈と区別しにくい。
浅大脳静脈には、上大脳静脈、下大脳静脈および浅中大脳静脈がある。上大脳静脈は、大脳半球の外側面と内側面の血液を集め上矢状静脈洞と下矢状静脈洞に入っている。下大脳静脈は、大脳半球の腹側部からの血液を集めて横静脈洞に注いでいる。浅中大脳静脈と、上大脳静脈および下大静脈との間には、多くの吻合枝によりつながっている。これらの吻合枝をそれぞれ上吻合静脈および下吻合静脈と呼んでいる。

静脈系

 

1: Superficial middle cerebral vein 浅中大脳静脈 (V. media superficiales cerebri)

 浅中大脳静脈は外側溝に沿って走る静脈で、大脳半球の外側面からの小さい静脈がこの静脈に注ぎ込む。この太い浅中大脳静脈は、海綿静脈洞にそそぐ。また浅中大脳静脈には吻合枝が存在する。この吻合枝のなかで殆ど常在する顕著な吻合静脈は、上吻合静脈と下吻合静脈である。大脳半球の下面と内側面の皮質の大部分の血液は、多数の小さい静脈によって、内大脳静脈または大大脳静脈にはいる。浅大脳静脈系と深大脳静脈系を結合する吻合静脈として脳底静脈、後頭静脈、後脳梁静脈がある。これらの静脈は深大脳静脈に関連させて考察するのが一番よい。

2: Superior cerebral veins 上大脳静脈 (Vv. superiores cerebri)

 上大脳静脈は大脳半球の外側の凸面および内側面からの血液を集めて、上矢状静脈洞に入る。この静脈は10~15本あって(流出する領域によって前頭前野静脈、前頭静脈、頭頂静脈、側頭静脈、後頭静脈の5群に分けられる)、斜め前方に走り上矢状静脈洞に入る。したがって上大脳静脈が静脈洞に入る血流方向は、静脈洞内の血流とは反対の方向に注ぐことになる。大脳半球の内側面から来る静脈の一部は下矢状静脈洞にも入る。
上大脳動脈は上行して、正中部でクモ膜を貫き上矢状静脈洞に流入する。クモ膜を貫き静脈洞に流入するまでの間で外力によって破綻することがある。すなわち、外力でクモ膜が脳とともに移動するときに硬膜は動かないので、硬膜下腔で静脈はひっぱられ損傷を受けるのである。こうして硬膜下出血が起こる。

  2a: Prefrontal veins 前頭前野静脈 (Vv. prefrontales)

 前頭前野静脈は前頭葉尖端とその下面からくる。

  2b: Frontal veins 前頭静脈;前頭葉静脈 (Vv. frontales)

 前頭静脈は前頭葉に発し、上矢状静脈洞に注ぐ前頭葉上の静脈。

  2c: Parietal veins 頭頂静脈;頭頂葉静脈 (Vv. parietales)

 頭頂静脈は頭頂葉の表在静脈で、上矢状静脈洞に注ぐ。
  2d: Occipital veins 後頭静脈;後頭葉静脈 (Vv. occipitales)

 後頭静脈は後頭下静脈叢(後頚三角上部の床よりも深層の部位に存在)を介して椎骨静脈に注ぐ。ときに後頭静脈は前方に走り、内頚静脈に注ぐこともある。

3: Superior anastomotic vein 上吻合静脈 (V. anastomotica superior)

 トロラー静脈とも呼ばれる。脳の表在静脈の一つで、通常、上矢状静脈洞と浅中大脳静脈とを結ぶ上吻合静脈をさす。 フランスの解剖学者Paulin Trolard (1842-1910)の名を冠する。
上吻合静脈が非常に発達し、前頭葉外側の静脈がほとんど上吻合静脈を介して上矢状静脈洞に流入している場合がある。このような例では、同側の内頚動脈撮影では上吻合静脈が流入する部位より前半の上矢状静脈洞が欠損しているように見えることもある。また、同じサイズの吻合静脈が複数存在する例もあり個人差が多い。

4: Inferior cerebral veins 下大脳静脈 (Vv. inferiores cerebri)

 下大脳静脈は、大脳半球の基底面および外側面の腹側部からの血液を集める。大脳半球基底面にある下大脳静脈は、基底静脈洞(海綿静脈洞、錐体静脈洞など)にそそぐ。吻側では下大静脈が、海綿静脈洞と蝶形骨頭頂静脈洞に注ぎ、尾側では錐体静脈洞と横静脈洞に注ぐ。

5: Inferior anastomotic vein 下吻合静脈 (V. anastomotica inferior)

 ラベ静脈ともよばれる。脳の表在静脈の1つ。側頭葉外側面を還流する浅中大脳静脈と、横静脈洞に流入する主幹静脈である。フランスの外科医Leon Labbe (1832-1916)による。
表在性皮質静脈とその吻合静脈のパターンには個人差が多く、左右差があるのが一般的である。たとえば下吻合静脈が太く発達していると上吻合静脈は未発達または欠落していることもある。このため、手術時に下吻合静脈を切断しても全く無症状の症例もある一方で、静脈血栓症により生じた側頭葉付近の出血性梗塞や局所脳浮腫も報告されている。左右差については、優位半球では下吻合静脈が発達している場合が多く、上吻合静脈は非優位半球で発達しているとされる。血管撮影で下吻合静脈が認められる頻度は、左77%、右66%という報告がある(Hacker H: Superficial supratentorial veins and sinuses. 「radiology of the Skull and Brain, Vol 2, Book 3 Veins」 ed by Newton tTH, Potts DG, 1974, p1851-1877, CV Mosby, Saint Louis.)。

6: Superior sagittal sinus 上矢状静脈洞 (Sinus sagittalis superior)

 上矢状静脈洞は大脳鎌の上縁に沿って、盲孔から静脈洞交会まで縦走する。この上矢状静脈洞は尾側にいくに従い大きさを増す。またこの縦走する静脈洞の中央部には、数や大きさがさまざまな裂孔すなわち静脈裂孔がある。

7: Transverse sinus 横静脈洞 (Sinus transversus)

 二つの横静脈洞は静脈洞交会から起こり後頭骨の横洞溝の中を、外側に向かってから前方に走る。そして左右のそれぞれの横静脈洞は、後頭骨と側頭骨の岩様部との縫合部でS状静脈洞となって下方に曲がり後方に向かう。横静脈洞には上錐体静脈洞、下大脳静脈、下小脳静脈、板間静脈などが注ぐ。

8: Sigmoid sinus S状静脈洞 (Sinus sigmoideus)

 S状静脈洞は横静脈洞に引き続いて側頭骨乳突部内面を下内側に屈曲して走り、頚静脈孔で内頚静脈につづく。

9: Cavernous sinus 海綿静脈洞 (Sinus cavernosus)

 海綿静脈洞は静脈間が網目に吻合して大きい不規則な網状構造をしている。この海綿静脈洞は蝶形骨洞、トルコ鞍、下垂体などの両側にある静脈洞、上眼窩裂から錐体乳突部の岩様部まで広がっている。海綿静脈洞は、内頚動脈と外転神経をとり囲む。静脈洞の外側壁には動眼神経、滑車神経、三叉神経の枝である眼神経と上顎神経が存在する。左右の海綿静脈洞は脳底静脈叢および下垂体前面にある前海綿間静脈叢と後面にある後海綿間静脈叢により対側の静脈洞と連絡する。眼静脈と蝶形骨頭頂静脈洞は、海綿静脈洞に注ぎ込む。海綿静脈洞は、後方に向かい上錐体静脈洞と下錐体静脈洞に入り、上錐体動脈洞は横静脈洞に、下垂体静脈洞は、短い静脈網によって翼突筋静脈叢や喉頭静脈叢とも連絡する。

10: Internal jugular vein 内頚静脈 (Vena jugularis interna)

 内頚静脈は脳、顔と頚の浅層からの血液を集める。この大きな静脈は、後頭蓋窩の後静脈孔で、S状静脈洞から直接つながって始まり、内頚動脈についで総頚動脈に沿って下行し、鎖骨下静脈と合して腕頭静脈に終わる。上端と下端では肥大しており、それぞれ頚静脈上球ならびに頚静脈下丘とよばれる。内頚静脈に注ぐ根として蝸牛小管静脈、咽頭静脈、舌静脈、上甲状腺静脈、顔面静脈、下顎後静脈がある。内頚静脈と鎖骨下静脈とが合流するところを静脈角angulus venosusといい、左側の静脈角には右胸管が開口し、右側の静脈角の近くには右リンパ幹が注いでいる。
右心室の収縮による内頚静脈の拍動は、頚根部の鎖骨の内側端の上方で触れることができる。腕頭静脈および上大静脈に弁がないので、収縮派がこれらの静脈を通って内頚静脈が達する。内頚静脈の拍動は、僧帽弁の疾患などの時に著しく増加する。これにより肺循環、右心、そして大静脈の圧が増加するためである。

最終更新日: 19/02/06