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 脂肪細胞は円くて大きい脂肪であり,トリプシンで消化されない丈夫な膜で囲まれている.健康な人だとこの脂肪は脂肪でいっぱいに充たされているので,脂肪球の表面と細胞膜の間に原形質のごく薄い層があるのみである.しかし細胞核のまわりでは原形質がいくらか厚い層をしている.核は楕円に近い形をしており,膜と脂肪球とのあいだに押されて存在するためにやや扁平である(図82,83).2核をもつ脂肪細胞がみられることがあり,時には3核のものある.2つ以上の核があるときは,それらの核がたがいにすぐそばに接近していることと,いろいろ異なる距離で離れていることがある.

 新鮮標本を染めないままでみると脂肪細胞の核と原形質はこれらが光学的断層optischer Durchschnittにあるときに限って,はっきりと観察される.その他の一では脂肪滴の輝きがつよくて核の像は全く消されてしまう.脂肪がまだ細胞を完全に充たしていないとき,あるいは消費されて脂肪が減ったときは,その細胞像がいっそうよく理解できる.そういう細胞では核と原形質がはなはだたやすく認められるのである.脂肪の含有が少ないときは脂肪球が1個でなくて,それが2個以上に分かれていることがある(図84,85).

 核の内部に1個の脂肪小滴があるときLochkern(有孔核)の像が生ずる.

 個々の脂肪細胞のあいだは少量の結合線維があって連ねられている.この結合裾域の誓詞は最初に述べた疎性結合組織と同じものである.

 Plenk (Verh. anat. Ges.,1927)によると脂肪細胞は真の細胞膜をもっていないので,細胞膜とみえるものは実はその細胞から分泌された基質とみなすべきものである.但しこの基質は近くにある細胞のまわりの膜とつづいていない.この基質性の被膜のなかに銀好性線維がある.しかし機能的にはこの膜が細胞膜の意味をもっているという.以上の説に反してWassermann (Z. Zellforsch., 26. Bd.,1937)は脂肪細胞の膜は真の細胞膜であると唱えた.その膜のうえに外形質Exoplasmaに由来する細胞の分泌があり,その分泌の中に原線維が含まれているという.

 脂肪細胞のでき方は:1. 普通の結合組織細胞が脂肪を摂取し,あるいは製造することによって,結合組織の内部でかなり散在した状態であらわれる.2. 脂肪器官Fettorganeともいうべき特別な器官をなしてできてくる.これはKöllikerがPrimitivorgane der Fettkeimleger(脂肪のもとをなす倉庫)とよんだものである.これは脂肪をもっていることも,もっていないこともあるが,何しろ特殊な脂肪組織である.これらの脂肪器官の出発点はやはり若い結合組織細胞であるが,その集まりが灰赤色の小葉をなしてあらわれる.それをなす細胞は丸みをおびた多角形で,細胞膜を欠き,顆粒をもたないで,きれいな核をもっている.形質細胞と似ているのである.これらの事実はWassermannの研究(Z. Zellforsch., 3. Bd.,1926)によっても確かめられたが,Wassermannはこうゆう脂肪器官を結合組織とは別の新しい形成物と考えたのである(z. Kreislaufforsch., 23. Jahrg.,1931).

 身体における脂肪組織の意味ははなはだ大きい.栄養の目的の他に外力に対して体を保護する蒲団であり,熱を保つための被いもものであり,鋭い高まりやへこみをなくしたり,隙間をみたす詰めものとして大きい役目をなしている.詰めものの例としては黄色骨髄がある.栄養のより人体では脂肪組織の目方は15キログラムか,それ以上にまで達する.

[図84]脂肪組織の退行Rückbildung (Freyによる).やせた衰えたヒトの死体の皮下結合組織より得たもの.aは大きい脂肪滴をもつもの,bは小さい脂肪滴をもつもの,cとdは核がみえるものも,eはばらばらになった脂肪滴をもつ脂肪,fは小さい脂肪滴を1つだけもつもの,gはほとんど脂肪を有しないもの,hは脂肪がなくて,蛋白質様の物質の1滴を細胞体の部分に有するものである.

[図85]脂肪組織の発生Entwicklung (Freyにる.)10インチの長さのヒツジ胎児の腎臓のまわりにある脂肪組織の細胞.aとbはまだ始部を有たない細胞,cは脂肪を有たない細胞の集まり,d~hは細胞体の一部を占めて細胞がいろいろの量にたまってゆく各段階を示してある.

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最終更新日 13/02/03

 

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