Band1.137   

肋硬骨は左右対称な,上から下に向かって走るラセンの形をなし,その各1対がそれぞれ独自の性格をもっているが,肋軟骨についても,その各1対がそれぞれ固有の形と走り方とを示しているのである(134頁).肋骨の後部は主に外後方に向かって伸び,またほんのわずか下方へ傾いている.そして肋骨角のところから,やっと強く前方へ向かうようになる.その際,同時に肋硬骨が前方へ扇状にひろがる.それで最下の肋骨はほとんど恥骨結合の上縁めがけて伸びている.

 肋間隙Spatia intercostalia, Zwischenrippenräumeを胸郭の全長にわたって観察すると,胸郭の上部と下部で,その長さが短く幅が広くなっている.また前方では後部よりも幅が広くて,最も広いのは肋硬骨と肋軟骨との境のところである.

 胸郭上口Apertura thoracis cranialisは狭くて,横に長い卵円形(ハート形)で,第1胸椎の体がここに弯入している.左右の第1肋骨と胸骨柄とで境され,前方へ傾いて胸骨平面に続く1つの急斜面上にある.頚切痕を通る水平面は第3胸椎の高さを通る.

 胸郭下口Apertura thoracis caudalisは胸郭上口よりもはるかに広く,矢状径も横径もいっそう大きい.胸郭下口は前方では剣状突起と,下方へ凸の1線をえがく各側の肋骨弓Arcus costarum, Rippenbogenとで境されている.肋骨弓は第10・第11肋骨の間と,第11・第12肋骨の間で開かれている.最期に肋骨弓のつづきは第12肋骨の下縁に沿って脊柱にまで達するのである.また両側の肋骨弓は前方で,下方へ向かって開く大きい角をはさんで交わる.胸郭のこの角は肋骨弓角Angulus arcuum costarumとよばれ,その角度は一定しないが,いずれにしてもほぼ直角に近い.この角の中へ,剣状突起が前正中線上を或る長さだけ伸び出している.肋骨下角は第9胸椎の高さにある.

 胸郭の内腔すなわち胸腔Cavum thoracisをみると,胸椎の体が並んでつくる正中部のつよい突出がまず目だつ.その左右で肋骨が肋骨角のところまで強く後方へひっこんで,肺溝Lungenfurcheをつくっているために,この突出はいっそう著しい高まりとなって見える.このように脊椎が胸腔の中へ強く張り出していることは,諸器官の重さが少しでも均等に脊椎のまわりに集められるという効果をもつのである.

 胸郭の大きさ:胸郭の長さは,前壁がおよそ16~19cm,後壁が27~30cm側壁が32cmである.横径は胸郭上口で9~11cm,左右の第6肋骨間で20~23cm,左右の第12肋骨間で18~20cmである.矢状径は胸郭上口では5~6cm,下口では剣状突起の高さで15~19cmである.

 個体差は病的な形を別としても,非常に著しい.性差もまた存在する.女の胸郭は絶対的にも,相対的すなわち胴の長さとの割合からいっても,男の胸郭よりも細い.胸郭の高さについても同じことが言える(Frey 1929).年令差は大きさのことは論外としても,形の上で非常に著しい.すなわち新生児の胸郭の形にはまだ胎児性形態がみとめあれる.つまり新生児では形状径が相対的に非常に優勢で,横径が小さい.また肋骨の下方への傾きがごくわずかで,それゆえほとんど水平に走っていた.胎児の胸郭が左右から圧された形をしていることは,哺乳類の動物の胸郭の形を思いだされる.

 これと反対の性状が胸郭の老人性形態で見られる.その特徴とするところは,若い人にくらべて胸部脊椎の弯曲が強いこと,すべての肋骨がいっそうつよく下方へ向かっていること,それによって胸郭の前面がひらたくなり,側方へ幅を増していること,胸骨弓角が狭くなって非常に鋭い角をんすこと,胸郭下口の周径が小さくなっていることなどである.

S.137   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る