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 左右の両頭頂骨と後頭骨とのあいだにある泉門は小泉門Fonticulus minor(s. triangularis), kleine Fontanelle, Hinterhauptfontanelle(後頭泉門)とよばれる.大泉門よりはるかに小さく,左右の方向にいっそう広がっており,前方の角は鈍く,側方の角は鋭く尖り,後縁は後頭骨の上端によって軽く弯入している.

 側頭泉門でも前側頭泉門Fonticulus sphenoideus,Keilbeinfontanelleの方がやはり大きいことがふつうである.前側頭泉門は前方で前頭骨・頭頂骨・蝶形骨大翼によって直角に近い2つの角で限られ,うしろでは側頭鱗と頭頂骨のあいだに鋭く伸びだしている.

 後側頭泉門Fonticulus mastoideus, Warzenfontanelleは不正三角形で,最も強い尖端を下に向けている.この泉門は側頭骨の乳突部・頭頂骨・後頭鱗によって囲まれている.

 誕生ののち,これらの泉門は骨化によって次第に閉鎖されてゆく.大泉門は最も永く,2才から3才にいたるまで残っている.

 これらのすぎまの存在と,なおその附近の頭蓋骨間の縫合が可動性を保っていることによって,出産のときに各頭蓋骨がとくに矢状方向に著しくずれることができるのである.このさい頭頂骨の前後縁は前頭骨および後頭骨の上にかさなる.

 Adachi, Über die Seitenfontanellen. Z. Morph. Anthrop., 2. Bd.,1900. 各泉門は次の順序に閉鎖する:小泉門,前側頭泉門,後側頭泉門,大泉門.その閉鎖の時期は上の順序に従って生後3, 6,18, 36月目であるが,もちろんそれより早いことも遅いこともある.両側頭泉門のうち後側頭泉門の方が広い.前側頭泉門を囲む骨は3つのこともあり,また4つのことも5つのこともある.

頭蓋と胴の骨格との関係

 頭は胴に対して全く別格の観を呈し,その外観があまりに異なっているので,頭と胴を比較しようなどという気には,すぐにはなれないのが常である.しかし骨格については,すなわち頭蓋と胴の骨格とを比較することは,もっと気やすくやれる.

 この問題を深く考察すると,成人の骨格において,すでにいくつかの基本的な事がらのあることがわかる.先ず知られることは,脊髄の骨性の容器すなわち脊柱管が,脳を容れるべぎ頭蓋に移行するところで急に著しく広くなり,かつ前端において閉じていることである.また頭蓋についてその次に気がつくのは,1群の重要な感覚器すなわち視覚・嗅覚・聴覚器が,対をなして堂々と配置されていることである.第3に,骨壁で囲まれた呼吸管と消化管の入口が目立っている.

 脊柱は脊椎という多数の骨が順々に列ぶことによってできているが,成人の頭蓋はそれをつくる骨の数は多くても,むしろ単一の構造物という印象をあたえる.従ってPeter Frank(1791)が頭蓋全体として脊柱との類似性を見いだしたことも,Dumérilが頭蓋を1つの巨大脊椎Riesenzvirbelとみなしてよいと信じたことも,容易に理解できるのである.ここに初めて1つの新たな重要な課題--「頭蓋の問題」が登場する.しかもその解決のための最初の研究については,問題の提起と同時に述べてしまったことになる.

 若いヒトの頭蓋を材料にして脊柱との関係を総合的に判断しようという試みは,この問題の研究ではおそかれ早かれ為されねばならないことであった.

 若いヒトや動物の頭蓋で,骨がまだ多少とも融合せずに開いて各部分にわかれている時期のものを観察すると,それは成人の頭蓋より確かに多くのことを教えてくれた.事実,若い頭蓋についての驚くべき知見を基にして,若い個体の頭蓋骨の配列に脊椎分節構造Wirbelgliederungといえるものが認められるという考えが,まもなく正当とされた.後頭骨体・蝶形骨(または前および後蝶形骨の体)・篩骨体はいずれも椎体を代表するものと見られ,さらにそれらに属すべき椎弓の部分を見いだすことが困難ではなかった.しかし頭蓋が何個の脊椎骨からなるかについては意見の一致をみなかった.学者により3個から6個というまちまちな数の頭蓋椎が想定されたのである.これが頭蓋の問題における第2段の発展であった.Goetie, Oken, Splx, Cuvier, Bojanus, Burdach, Meckel, Carus, Arnoldなどがその学説の主だつた代表者である.この新しい考え方が世人にいかに強い印象をあたえたかは推測に難くない.頭蓋の,頭の,否ひいては人間というもののなぞの解決に,およその目鼻がついたと思われたのであった.

 骨化がまだ終ってない時期に研究したとしても,骨がでぎるというのは頭蓋としてはごく遅い段階である.だからもっと早い段階である軟骨頭蓋Chondrocraniumや結合組織頭蓋Desmocraniumがこの問題の解決に用いられたのも,けだし当然のことであった.

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最終更新日13/02/03

 

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