Band1.268   

 ところで脊柱は単一の弯曲を示すものではなく,何度もまがったバネなのである.pcの部分につづいてcbの部分があり,さらにこれに baの部分が続く.頚部と胸部の弯曲は,それぞれ頭と上肢の重さを支えるバネとして役だっている.前方に凹の弯曲を示す胸部脊柱はまず胸部内臓を容れなければならず,この使命に最も適した形をしているのであって,この点は上述のバネとしての構造とよく両立している.上肢の重みが直接に胸部脊柱にかかるのは,胸骨と第1対の肋骨によってである.

 上に述べたことからわかるように,脊柱の両端間の距離はからだを水平に横たえると,直立姿勢でいっそう体重がかかっている場合より小さい.しかしからだから取り出された脊柱も,やはり圧力と張力の影響下にある.すなわち椎弓列を椎体柱から遊離させると,椎弓列は弾性線維性の弓間靱帯の取縮によって著しく短縮する(32~45mm).それをもとの長さにもどすのには約2kgの負荷を要する.つまり椎弓列はこれだけの弾力で椎体柱を圧しているわけである.じっさい椎体柱の頚部および腰部の弯曲は,椎弓列を分離すると薯しく弱くなる.このさいさらに前および後縦靱帯を除くと,椎体列はほとんどまっすぐになってしまう.

 新生児では脊柱のすべての弯曲がすでに存在してはいるが,完成しておらず,とくに岬角の突出がまだひくくて,腰部脊柱の弯曲の程度が相対的に弱い.

β)前額面内での弯曲:側弯Skoliose(図391)

 しばしば胸部脊柱(たいてい第3~第5胸椎のあたり)が右へ曲がっていることは,すでに古くから知られていた.この弯曲は,正中面内の諸弯曲と組みあって全体の弯曲像をつくるところの,前額面内の全弯曲系のほんの一端にすぎない.

 胸部の弯曲は右よりも左にまがっているものの方がいっそう稀である.左への弯曲があるときには(これは発育のとくに良い人に現われることがある),その上方および下方に続く弯曲も反対の側へ向いている.

γ)胎児の脊柱弯曲

 成人の体幹骨格における上述の弯曲を解釈するに当っては,また常にもっと早い時期の胎児における状態をかえりみる必要がある.新生児の脊柱については,正中面内のすべての弯曲がすでにわずかながら認められることをすでに記したが,これに反して側方への弯曲は,正常な新生児および生後2, 3年までの子供では,まだ存在しない(Gaupp).ところで胎生早期へとさかのぼって,胎児に存在する身体の弯曲をしらべると,次のような一般的結論を得ることは難くない.すなわちのちの脊柱に現われるすべての弯曲は,一部,はすでに胎児期に存在する身体の弯曲を,保存したり造りたしたりして,また一部はそれを造りなおしたり模様がえしたりして出来あがったものだということである.

δ)四足獣の脊柱

 一定の胎令の人胎児の脊柱弯曲は,四足獣の脊柱のかたちと非常によく似ている.

 この類似は結局, 両者とも腹方へ弯曲する腰部脊柱と,突出する岬角とをもたないことによるのである.こうして胸部・腹部および骨盤の内臓を包含する.腹方に凹の一大円蓋弓が存在するのである.直立したり立って歩いたりする成人示もつ前方に凸の腰部脊柱は,体幹の重心を仙腸関節と股関節軸より後方へ置こうという努力によって得られたものである.

[図391] 脊柱の右方への側弯(r)と左方への側弯(l)の模型図.m正中線,1,2,3,4はそれぞれ脊柱の頚部・胸部・腰部・仙骨部の側弯を誇張して示す.(Hasseによる)

S.268   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る