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 肩関節窩Schulterpfanne(図410)は外側に向いた卵円形の浅いくぼみである.長径は3.5~4cmで上下に向い.短径は2.5cmで水平方向にある・関節窩の弯曲のぐあいは大体のところ上腕骨頭のぞれと一致してはいるが,その表面は上腕骨頭の関節面の1/41/3にしか当らない.関節窩には全周をとりまく線維軟骨性の関節唇Labium articulare, pfannenlippeがあるために,その分だけ大きくなっている.関節唇の厚さは4~6mmである.また幅は約3mmであるが,場所によって不定である.関節唇の実質のなかに,上方から上腕二頭筋の長頭の腱が侵入している.また関節唇の実質は下方では上腕三頭筋の長頭の腱と結合している.

 関節窩の軟骨は中央部が薄く(1.3mm),周辺部にゆくほど次第に厚くなっている(3.5mmまで).

 上腕骨頭は上腕骨体の上方に,外側に寄って付いている.頭と頚の軸は体の軸と140°の鈍角をなしている.上腕骨頭は半径約2.5cmの球の表面の1/32/5に当っている(Fick).左右間のちがいはごくわずかしかみられていない.関節軟骨の被いは中央部で最も厚く(1.6~2.2mm),縁にゆくほど次第に薄くなる(1mmまで).

 関節包はゆるやかで関節腔は広い.関節包は肩甲骨において,二頭筋長頭の腱の付着部だけを除いて,関節唇の全周から起っている.二頭筋長頭の腱の付着部では,関節包の起りは烏口突起の基部あるいはさらにこの突起の下面にまで及んでいる.また関節包は上腕三頭筋の長頭の腱と結合している.上腕骨においては関節包は解剖頚から起り,内側面では関節包の付着部が骨端線を越えている.結節間溝は橋わたしをされて1つの管となり,そこを二頭筋長頭の腱が,結節間滑液鞘(後述)に包まれて通っている.関節包の厚さはまちまちで,いちばん薄いのは関節包にすぐ接して筋肉や腱があるような場所である.筋肉と筋肉とのあいだのすきまでは,関節包は約1/3 mmの厚さである.関節包のうちで筋肉で直接おおわれてない最も広い部分は関節包の下部であって,肩甲下筋と小円筋とのあいだである.この場所に腋窩神経と背側上腕回旋動静脈が密接している.関節包の壁の線維は外層では縦走または斜走するが,内層では輪状に走っている.

特別の装置烏口腕靱帯Lig. coracohumeraleは烏口突起の基部および外側縁から起り,結節間溝のあたりへ伸びて,大および小結節に付着する.つぎに[関節]唇腕靱帯Ligg. labiohumeraliaは関節唇の前部から起り,内部からしかよくみることができない.

 関節包と常につながっている連通滑液包が2つある.肩甲下筋腱嚢Bursa tendinis m. subscapularisおよび結節間滑液鞘 Vagina synovialis intertubercularisがそれである.後者は関節腔の続きともいうべきものであって,二頭筋長頭の腱が結節間溝を通る部分 さやを鞘状に包み,その長さ2~5cmである.この滑液鞘は結節間溝の下端で閉鎖性に終って,二頭筋腱の表面に移ってこれに固着している.肩甲下筋腱嚢は烏口突起の基部で肩甲下筋の腱の下にあり,1つの広い開口によって肩関節とつながり合っている.

 そのほか近隣の滑液包でたいてい関節包とつながっていないものをあげれば:1. 肩峰下包Bursa subacromialisは一方は烏口肩峰靱帯と三角筋のあいだ,他方は肩関節包および烏口腕靱帯と棘上筋の腱とのあいだにある.2. 三角筋下嚢B. subdeltoideaは烏口肩峰靱帯より遠位で三角筋の下にあり,前述の肩峰下包とつながっている.3. 烏口碗筋嚢B. m. coracobrachialisは烏口腕筋の起始の下にある.4. 棘下筋嚢B. m. infra spinamは棘下筋の下にある.そのほかにも,いっそう稀にみられる滑液包がある(それらについてはFickを参照せよ).--Pfuhl(Morph., Jhrb., 73. Bd.,1933)によれば,肩峰下包は肩関節の副関節腔Nebenhöhleという名称のもとに記述されるべきものであるという.

 肩関節の力学:肩関節は球関節Articulus sphaeroideus, Kugelgelenkである.そもそも球関節というものがすでに可動性の非常に大きいものである上に,ここでは関節窩が関節頭にくらべてかなり小さい(上述)ためと,関節包がゆるやかで広いために,いっそう可動性が増し,かくして肩関節は全身のうちで最も運動の自由な関節となっている.その大きすぎる.運動を抑えるものは,まず第一に関節包のそとを被いながら走っている諸筋であって,肩甲下筋は前方から,棘上筋は上方から,棘下筋と小円筋は後方から関節包を被っているのである.

[図412] 上腕骨a, b頭および頚の軸. c, d肘関節の軸.V, V鉛直線. e, f, 頭および小 頭の中点(H. Meyer)

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最終更新日13/02/03

 

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