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H. Meyerによれば,正常な姿勢では体幹の重力線は股関節軸の前方にも,ちょうどその軸の上にも落ちるのでなく,それより後方に落ちる.そのさい股関節において,骨盤がいっそう強く後方へ傾くこと(後屈)を妨げるのが,腸骨大腿靱帯であるというのである.

 いま問題としていることがらについて図443が教えるのである.全身の重心は正常な姿勢では第2仙椎のやや上方で仙骨管内にある(H. Meyer).従って直立位におけるからだの重さを,この点に集中して考えることができる.この点から重力線が下りる(図443のSS),仙骨に作用するこの重力は,両股関節へと2つの力に分れ,腸骨大腿靱帯も各側の股関節に1つずつ働いている.しかし理解しやすくするために,図に示したように,左右両側に働く力を正中面上の力に単一化して考えてさしつかえない.そうするとこの装置の力学的関係が,最も単純な模型図で表わされてしまうのである.つまり支点で固定された1つのテコに,角度をもった2つの力(重力と靱帯の緊張力)がつりあ

つていることがよくわかる.そして両方の力の合計が軸力(テコの支点を通る力)として股関節軸を通る.

 こう考えてみると,強い腸骨大腿靱帯の大きい力学的意義が明かになるであろう.

 さらに前にすでに述べた骨盤傾斜Beckenneigung(221頁)の変化がどんなぐあいに起るかということも容易に知られる.腸骨大腿靱帯の弛緩または緊張をひきおこすあらゆる要因は,骨盤を股関節軸の上で後屈または前屈させ,従って骨盤傾斜を変化させる.そんなわけで,骨盤傾斜は決して不変の大きさではないのである.大腿骨が回旋と同時に外転するときは,腸骨大腿靱帯が緊張するので,骨盤傾斜が最も急になる.左右の下肢の軸が少し開いて,同時に大腿骨の回旋がないときには,この靱帯がゆるんで骨盤は後屈する.つまりこの場合には骨盤傾斜角が小さくなる.

 それよりもいっそう一定した価を示すのは規準結合線Normalconjugataの傾斜角である.規準結合線は仙骨の屈曲部(第3仙椎のあたり)から恥骨結合の上縁に引いた直線である.この傾斜角は30°として大体まちがいない.つまりこの結合線と骨盤入口の結合線とのあいだの角の変動は,骨盤入口の結合線と水平線とのあいだの角の変動と,大きさが同じなのである.

 大腿骨頭靱帯の意義については数多くの研究がなされている.それによると成長期には大腿骨頭へゆく血管がこの靱帯を通っているが,のちには主として抑制靱帯として,また滑液をかぎまわすものとして働いている.前方へあげた大腿を外方へまわすか内転するときに,この靱帯が緊張することがはっきりわかる.

2. 膝関節Articulus genus. Kniegelenk(図444451, 454, 455)

 膝関節においては大腿骨が脛骨および膝蓋骨と関節をなしている.膝蓋骨は人体ちゅう最大の種子骨として大腿四頭筋の停止腱のなかにあって,関節包内に挿入されている.腓骨は脛骨顆がつよく発達するために膝関節から閉めだされている.

 膝関節の関節面は人体ちゅうで最大の面積をもっている.大腿骨の両顆の関節面(凸面をなす)と,脛骨の近位関節面Facies articulares proximales(ほぼ平面)と膝蓋骨の関節面がある.膝蓋骨の関節面は,大腿骨の両顆の関節面のあいだにある膝蓋面Facies patellarisの上を滑る.膝蓋面はほず鞍状の膝蓋骨滑動路Kniescheiben-Gleitbahn(Fick)をなしているのである.

 内側顆と腓側顆はローラーまたは車輪の形をしており,両者は正確に平行するのでなく,後下方へ開いている.また両者はたがいに斜めに傾いて,それぞれの弯曲軸がなす角は下方へ開いている.矢状方向での弯曲は後方にゆくほど強くなり,したがって曲率半径は前部より後部で短くなっている.そして関節面がよくいわれるようにラセン状に弯曲している.矢状方向ばかりでなく,左右の方向にも弱い弯曲がある.軟骨の被いは最も厚いところで2.6~3.2mmである.

 両顆のあいだには多数の差異がある.大腿骨だけをとりだして鉛直にたててみると,内側顆の方が腓側顆より下方にある.しかし身体の一部としてあるときには,両顆の下面はほぼ同一の水平面上にある.これは大腿骨が斜に内側方へ向っているからである.腓側顆の矢状方向の弯曲は,内側顆のこれに相当する部分より曲率半径が大きい.内側顆の関節面は腓側顆のそれより長い.さらに内側顆の関節面の前部は,多少とも強く外側(腓側)へまがっている.腓側顆の上部は内側顆よりも前方へ突出している.また腓側顆では後部は前部より幅がせまくなっているのに対して,内側顆は一様な幅をもっている.

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最終更新日13/02/03

 

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