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 その短頭Caput breveは烏口腕筋といっしょに肩甲骨の烏口突起から起り,直ちにそれだけで短頭じしんの筋腹に移行する.長短両頭の筋腹はたがいに合して,力づよい終腱(主腱Hamptsehne)となり橈骨結節に停止している.

 肘より上方で,この停止腱から浅層の腱板が分れて出ている(副腱Nebensehne).これは内側にのびて前腕筋膜に加わる.これがすなわち二頭筋腱膜Lacertus fibrosusである(図529, 535).

 橈骨結節と上腕二頭筋腱とのあいだには二頭筋橈骨嚢Bursa bicipitoradialisという1つの粘液嚢がある.

 神経支配:筋皮神経による.

 脊髄節との関係:C. V, VI.

 作用:長頭は腕を外転し(R. Fick),短頭は腕を内転する.またこの筋が全体としてはたらくときは前腕を曲げ,且つこれを回外する.

 変異(日本人における上腕二頭筋の過剰筋頭の出現頻度は,体側数では古泉100側のうち26側(26%),足立887側のうち163側(18.4%),佐野(アイヌ)10側のうち4側(40%),白木は128側のうち28側(21.8%),シナ人では中野81側のうち7側(8.6%),個体数では古泉50体のうち19体(38%),足立269体のうち68体(25・3%),佐野(アイヌ)5体のうち2体(40%),シナ人では中野38体のうち7体(18.4%)である(古泉光一:日本医科大学雑誌,5巻,1063~1083,1934;白木豊:愛知医学会雑誌,41巻,287~290,1934).):この筋の全部,もしくは短頭または長頭が欠如することがある.この両頭が程度の差はあるがかなりの広がりにおいて独立する.両頭がそれぞれ重複していることがある.短頭の起始が烏口肩峰靱帯の上に延び,また長頭が結節間溝の中で,大と小の両結節,肩関節の関節包,大胸筋の腱から起っている.筋頭の数がふつうより多くなっていることがしばしばである.第3の頭ともいうべきものが肩甲骨,上腕骨および腕と肩の軟部組織のいろいろな所から起っている.

 4頭,さらに5頭あるものがいくたびか記載されている.--二頭筋腱膜と筋腹との関係は個体的にはなはだ違っているが,それについてはLandauおよびScheuchzer, Mitt. naturforsch. Ges. Bern,1923を参照せよ.

2. 烏口腕筋M. coracobrachialis. (図530, 531)

 これは,平たい円形横断面をもつかなり長い筋で,上腕二頭筋の短頭といっしょに肩甲骨の烏口突起から起る.そのほっそりした筋腹は上腕骨の中部で小結節稜およびそこにある粗面に停止している.この筋は筋皮神経により貫かれるのが普通である.

 1つの粘液嚢,すなわち烏口腕筋嚢Bursa m. coracobrachialisが烏口突起の尖端および烏口腕筋の腱の下方で,肩甲下筋の腱の上に存在する.

 神経支配:筋皮神経による.

 脊髄節との関係:C. VI, VII.

 作用:この筋は上腕を内転し,前方に上げる.

 変異:2個あるいは3個の烏口腕筋が存在することがある.M. coracobrachialis brevis(短烏口腕筋)は烏口突起の基部にはじまって,肩関節包や上腕骨などで上腕の近位部に属するいろいろな個所に停止している.M. coracobrachialis longus(長烏口腕筋)は尺側上腕筋間中隔に停止し,尺側上腕二頭筋溝のなかにある諸構造の上を越えている.

3. 上腕筋M. brachialis. (図523, 524, 529, 530, 535)

 これは紡錘状をした幅の広い厚い筋であって,三角筋の停止をはさむ2部分をもって上腕骨の前面で,この骨の下半分よりやや大きい範囲を占めて幅広く起り,下方では尺側および橈側の両上腕筋間中隔とつづいている.またいくつかの筋束をもって肘関節包の掌側面からも起り,尺骨粗面に幅広く固く着いている.

 神経支配:筋皮神経による.その外側の筋束は橈骨神経に支配されていることもまれではない.

 脊髄節との関係:C. V, VI.

 作用:この筋は前腕を曲げる.

 変異:しばしば2つの筋束に分れている.その個々の筋束は前腕骨および前腕の軟部のいろいろな点に付着する.(詳しくはLe Doubleの文献を参照せよ.)

 

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最終更新日13/02/03

 

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