Band1.503   

 毛細管系の管腔の横断面積の総和は大動脈の幹の横断面積をはるかにしのいでいる.動脈の幹が毛細管系に対する関係は,湖にそそぎ込む川によく似ている.

β)壁の強さ

 肺循環系の諸動脈はその全部をみても分布する流域が空間的にせまいし,その移行する毛細管系はわりあい小さいので,従ってその内部の圧は体循環のものより小さいから,一般に体循環の動脈にくらべて壁の発達が弱くできている.

 壁の厚さは動脈のばあい一般に管じしんの大いさと共に増減するが,比例はしていない.つまり2倍の広さをもつ脈管め壁が2倍の厚さをもつわけではない.さらに壁の厚さの変化に壁のすべての成分が同じように関与するのではなくて,一部の成分は壁の厚さの増加に伴って比較的には減少する.筋成分のごときがそれであって,血管の増大とともに弾性線維が増加して筋成分は比較的にその量を減ずるのである.

 少しばかり例をあげると,上行大動脈の壁の厚さは 約1.6mm,肺動脈1.1mm,腕頭動脈0.3mm,総腸骨動脈0.3mmである.内膜は最大の動脈でも,平均して0.03mmの厚さしかない(Henle).高年ではその厚さが3~4倍に増加する.

 外膜はふつう0.3mmから0.4mmの厚さのあいだで増減するが,この厚さは高年になってもごくわずかしか増さない.

γ)分枝の型と分枝角

 動脈の分校は一般に樹枝状で,いわば心臓に根ざす2つの主幹,すなわち大動脈と肺動脈がその枝を空間のすべての方向にひろげているといったものである.

しかも植物でその分枝系統にぎちんと規則があるように,血管についても分枝の仕方は定つており,また腺の導管や神経の枝分れについても同じことが云える.すでに501頁の脈管の配置の項で大動脈とそれから出る枝の分れ方を述べた.一方,肺動脈はその分枝において1つの器官に分布する動脈と同じ態度をとる.

 この分枝を発生学的の立場から研究することができるし,また議論の出発点としてその出来あがった形を選ぶこともできる.出来あがった大動脈はその分枝形成で最も明かに基軸性分枝Monopodium,すなわちそれから側枝をだす主幹とか主軸といった形を呈している.基軸性分枝のみであって,大動脈の主幹の全長にわたって両叉分枝Dichotomieは1つもない.両叉分枝とは1つの幹または枝が2つの支枝に分れることをいう.これらの支枝の太さが不同であるときには,これまた基軸性分枝ということになる.それゆえ両叉分枝とは2つの同じ太さの支枝に分れることというならば,この形は大動脈の第2次,第3次,またはそれ以上の分枝にみられ,また所によっては両叉分枝の数が多くてこれが支配的でさえあることがある.しかし全体的にいうとやはり基軸性分枝の方が優位をしめている.1つの枝が突然あるいは急に多数の小枝にわかれることがある.これは脾臓の筆毛動脈Penicilliやいわゆる迷網Rete mirabileにみられる.

 幹から枝が,また第1次の枝から第2次の核がというぐあいに出ていくところは多くのばあい鋭角をしている.それよりまれには直角をなし,最もまれには鈍角をしている.鈍角のばあいにはいわゆる反回動脈Aa. recurrentes, rücklaüfige Gefäßeができる.

δ)脈管路

 動脈路は規則としては可能な限り短くなっている.すなわち動脈はふつう器官にいたるための最短の道を進んでいる.しかし一方この可能性には種々の制限があり,他方また多くの器官はその起りの場所を後にして位置を変え,そのとき動脈をいっしょに伴っていく.多くの動脈は器官に達するために屈曲,蛇行,ラセン状屈曲をなしている.大動脈や肺動脈の本幹さえ弓状の走行を示す.大動脈は矢状面で脊柱の弯曲に伴ってある程度まがり,その上さらに所々でまがっている(上行大動脈,大動脈弓,下行大動脈の右凸弯).

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最終更新日13/02/03

 

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