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この動脈から血液を直接にうけとる静脈は内腔が非常に広くなっていてしかも壁が薄い.

 閉塞動脈のほかに閉塞静脈Sperrvenen,または阻止静脈Drosselvenenがあり,その壁はかなり多数のたがいに重なり合う強い輪走筋か,または内膜を縦走する筋束によって作られている(図603).

 生体において動静脈吻合と阻止血管がもつ意義は動脈を流れてくる血液の一部を直接に静脈に導くことである.それによって循環はこの場所で荷が軽くなり,血管圧と,恐らくは温度もこの場所で影響を受けるのである.それゆえこの短絡は主として生体の圧と温度の調節装置である.しかし陰茎海綿体では力学的意義をもっている.

 歴史:この近道循環を最初に着目したのはSuquet (1862)で,これをCanaux dérivatifsと命名した.

その後Hoyerが詳細に研究した(Arch. mikr. Anat.18. Bd.1877).さらにGrosserが復構模型と切片の観察による詳しい研究をした(同じく60. Bd.1902).総括的記述にはClara(Ergeb. Anat.1927, Verh. Ges. Kreislaufforsch.1938)とvon Möllendorff (Jahreskurse ärztl. Fortbild. 31. Jhrg.,1940)のものがある. V. Hayek(Z. Anat. Entw.111. Bd.1942)は3つの型をわけている.

[図603] 閉塞静脈 18才の少女の子宮血管層における小静脈の横断面×300 (Watzka., M., Z. mikr. anat. Forsch, 39. Bd.1936から)

[図604] 動脈の幹をしばつた後に側副循環の成立する模型図 A 障害のない状態,Bしばつた後に(6にてしばる)生じた閉塞と変性(点線で示す).1動脈の幹:2,3,4,5上下の動脈被でaにおいて吻合.

θ)側副路と終枝

 1本の動脈から分れる枝は,側枝すなわち本幹から最後の分枝に達する以前に出てゆくものと,終枝または終末枝とに分ける.

 側副血管Vasa collateralia, Kollateralenとは一般に本幹と同じ方向をもつような側枝をいう.この側副血管のあいだの吻合がいわゆる側副路循環を生ぜしめるが,このものは生体の正常生活において大きな役割をなすのみでなく,病理学においても重要な意味がある.1つの幹または比較的大きな枝がしばられて血行が遮断されたとき,側副血管の吻合はしばられた場所の向こう側にある体の部分に血液を運ぶ仕事を引き受ける.そのさい,吻合した枝は太くなる.こうして側副血行路ができあがる(図604).

ι)終動脈Endarterien

 終動脈をいま云つた終枝と混同してはならない.終動脈はある器官に分布する比較的大きな動脈の幹で,それが毛細管にいたる直ぐ前Präkapillarの動脈部で他との吻合をまったくもたないものである.大脳皮質,脳の灰白質性の核, 肺, 肝臓(門脈).脾臓,腎臓,甲状腺にはこのような吻合が欠けている.終動脈は病理学において大きい役割を演ずるのである.

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最終更新日13/02/03

 

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