Band1.507   

その次の中太といわれる動脈は数も多いのであって,これは前に述べた細い動脈にくらべて内膜が厚い.内皮と内弾性板のあいだに縦に条のみえる結合質があって,扁平で円形または星状の結合組織細胞があり,縦にのびた薄い弾性網も含まれている.しかしこの条のみえる層はかなり多くの動脈,たとえば腹腔動脈,腸間膜動脈,腎動脈,外腸骨動脈などでは欠けている.また中膜は動脈の太さが増すとともに急に厚さを増す.そして中膜は輪走する平滑筋の層のみでできているのでなく,平滑筋の層が弾性線維や弾性板からなる目のあらい網で貫かれている.諸動脈にはこの2つの成分がいろいろ違った強さで存在し,腹腔動脈,橈骨動脈,大腿動脈では平滑筋が勝り,これにたいして頚動脈,腋窩動脈,総腸骨動脈では弾性組織が勝つている.外膜もまた厚さを増し,その弾性線維は中膜との境にあたって中膜の弾性成分とつづく比較的密な層をなしている.これを外弾性板elastische Außenhautという.このほか外膜では散在性の縦走する平滑筋が束や網をなしている.

 次に太い動脈では内膜の内皮細胞は短い多角形に近づくが,内皮の外に接する条のある結合質の板はすでに中太の動脈でみた状態と同じである.その中に含まれている弾性線維網は中膜にむかつてその密度を増し内弾性板に移行する.筋層の全部は同心性に配列した強い弾性線維網と有窓膜をまじっていて,これらの弾性成分は斜に走る結合板によってたがいに連なり,あるいは叉状に分岐している.かくして胸大動脈の中央部で横断してみると,一部は離れ一部はつづいている輪走の平滑筋層と有窓弾性膜がそれぞれ25枚も交互に重なり合って,最後に外膜がそのぞとの締めくくりをしている.この外膜は平滑筋細胞の少ないことと,中膜との境に密な弾性網を欠いていることで前述した中太の動脈の外膜と区別される.

 動脈壁には小さい動脈と静脈すなわち脈管の血管Vasa vasorumが貫いて走っている(図606).よくみると各々の動脈小枝が2つの静脈を伴っている.この小さい動脈は,それが壁の中を走っている動脈から直接に分れてくるのではなくて,この動脈の枝か,あるいは近在の動脈から発するのである.この血管は動脈鞘の中で網を作って広がり外膜と中膜の外層に分布している.

 リンパ管は今日まで動脈壁の中に確実には認められてはいないが,おそらく内膜の下と筋層には存在するであろう.しかし多くの動脈はリンパ管がそのまわりに絡みついたり,あるいは全く脈管周囲リンパ腔の中にあったりする(リンパ管の項参照).

 動脈は神経を豊富にもっていて,なかんつく運動性の神経が多いことは筋層の存在がすでにそのことを暗示する.脈管神経Gefäßnervenとよばれるこの神経は主として交感神経系から,また一部は脳神経と脊髄神経からやってくる.その線維はたいてい無髄性である.この神経は比較的太い血管のまわりで神経叢を作り,多くはかなり太い無髄線維からなる細い神経糸の形をとって細い脈管と共に走る.しかし特に比較的大きい動脈では有髄線維もみられる(Ph. Stöhr jr.1928, Handb. mikr. Anat. )

 Ranvierによれば動脈には3つの異なったしかしたがいにつながりをもった神経叢が区分できる.外方または基礎的fundamentalのものは外膜にあり,中間または筋周囲性Perimuskuldirのものは筋層の外周にみられ,終未または筋内性intramuskuldrのものは筋層の内部にひろがっている.

S.507   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る