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 変異:しばしば(5例にだいたい1回の割合)閉鎖動脈が内腸骨動脈からでなく下腹壁動脈の初まりのところから出ていたり(図499),ときおり外腸骨動脈からも出ている.この起始の変化は閉鎖動脈と下腹壁動脈とのあいだに普通に存在している吻合をもとにしておこるのである.この弓状の吻合が広くなり太くなると,本来の幹が衰微して弓状の吻合が幹となってしまう.Quainによると400例のうちで閉鎖動脈が内腸骨動脈からおこるのが270例,下腹壁動脈から出るのが120例,また5例はだいたい同じ太さの根をもってこの2つの動脈から,また5例は外腸骨動脈から始まっていたという.-- Jaschtschiskiによると閉鎖動脈の起始が下腹壁動脈にあるものは約28.5%,外腸骨動脈にあるものは1.2%,大腿動脈にあるものは0.4%である.子供と女においてまたおそらくは右側において異常の起始がいっそう多くみられる.大腿ヘルニアHernia femoralisと閉鎖動脈の関係は,その起始の位置によって異なる.内腸骨動脈から出ているときにはそのあいだに何も関係はない.大腿動脈から出ているさいには閉鎖動脈はヘルニアの後を走る.下腹壁動脈から出ている場合にはその起始の高さによって関係が変わってくる.鼡径靱帯の下方で下腹壁動脈から出ている時には閉鎖動脈はヘルニアの外側を走る.また鼡径靱帯の上方でおこっている場合にはヘルニアの内側を走る.ヘルニアの外側を閉鎖動脈が走るのが通例であって,その内側にあることはまれな例外である. 閉鎖動脈が下腹壁動脈から出ていることは同じ個体で両側にみられることもあるが,1側だけにみられることのほうが多い.

 閉鎖動脈は下腹壁動脈から出ているときには後下方に向かってすすみ閉鎖孔に達する.この場合には大腿輪に密接して,その内側で裂孔靱帯の後方を,この靱帯の外側縁に沿って走る.または大腿輪の外側で大腿静脈に接して走っている. 閉鎖動脈の起始の変異が女にいっそう多くみられることをW. Pfitznerも指摘している.--閉鎖動脈が下腹壁動脈あるいは外腸骨動脈から出ている場合はヨーロッパ人で28.2%,日本人で13.2%である(Adachi). Jaschtschiski, Internat. Monatsschrift Anat. Phys.,8. Bd.,1891--Pfitzner, Anat. Anz.,1899.

II. 外腸骨動脈Arteria ilica externa

 これは内腸骨動脈よりもかなり太い動脈で,仙腸関節のところにある総腸骨動脈の分岐部から鼡径靱帯の縁まで達しており(図669, 674)その靱帯の向う側では大腿動脈という名前になる.

 局所解剖:外腸骨動脈は腰筋の内側縁に沿って腸骨筋膜の上を下外側にすすみ,腹膜によって被われている.その起始のところでは尿管がその上を越えて走り,またその終りのところでは精巣動静脈がその上を越えている(図662).外腸骨静脈はその内側に接しており,また大きなリンパ節がこれらの血管の前および内側にある.

 この動脈は細い枝を腰筋,リンパ節,腹膜下結合組織にあたえ,また鼡径靱帯の下にはいる少し前に2本のかなり太い枝を出している.これが下腹壁動脈および深腸骨回旋動脈である.

1. 下腹壁動脈Arteria epigastrica caudalis(図647, 669, 674)

 この動脈は外腸骨動脈の終りの部分の前壁で,鼡径靱帯よりせいぜい0.5cm離れたところで始まる.そこかち上内側に曲がって腹横筋膜と腹膜とのあいだを腹直筋の後面にすすみ腹直筋鞘のなかにはいる.ここではほとんどまっすぐ上方に走り,臍の上方で何本かの小枝に分れて終わっている.これらの小枝は腹直筋のなかで広がり,内胸動脈の終枝および下部の肋間動脈とつながっている(図647).

 この動脈は腹膜下鼡径輪の内側縁に沿って行くので(図499),腹横筋膜の鞘状突起と交叉している.そのばあい精管はこの動脈の外側を越えて曲がっている(図669).

a)恥骨枝R. pubicus.小さい1本の枝で裂孔靱帯の内面を下方におもむき,恥骨の後面およびこれと結合している諸部に広がり,また閉鎖枝R. obturatoriusという1本の枝を出して閉鎖動脈の恥骨枝と結合している.

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最終更新日13/02/03

 

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