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 この液体の中やその上にすでにできた原基がただよい,そのもの自身の重量の影響をほとんど受けないようになっている.かくして諸原基が重力の妨げをうけないで発生の過程を無事とすごして,その結果として最後の形が立派にでき上つてくるのである.この液体の存在する意義についてはいま1つほかの重要な考え方,すなわち新陳代謝における意義があって分泌と排出ということのみでなく,物質を原基にあたえる仲だちをするという点である.いま問題としている空所は血管系が現われる前にすでに存在している.そして血管系がひとたび形づくられて,その最初の突出物が器官の原基にすすんでいっても,つねにこういう空所の一部がそこにあって,これがなかだちをして栄養が営なまれるのである.

 さて全体としてみると,或る時期においてはこのような空所が3あって,そのうちの2つは対をなし,いま1つは不対である.

 第1の空所は一方では神経管と皮膚外胚葉の間にあり,他方では内胚葉,脊索,体節,原腎管および中胚葉の臓側板と壁側板の外面り間にある.これらの空所の各部はたがいにつながりあい,ときにはまた1側の空所が他側のものとつづいている.これらはすべて分割腔Furchungshöhleからできるもので,その一部であるとみなしうる.

 第2の空所はいろいろな部分に分れているが,体腔Leibeshöhleそのものにほかならない.これには体節腔Ursegmenthöhleまたは原脊椎腔Urwirbelhöhleが属するが,これは体節がくびれていった後に体腔の辺縁部が残って広がったものである.体腔はすでに前にも述べたようにまず第1に体のなかの大きな漿膜嚢すなわち心膜,両側の胸膜,腹膜を作るのである.この漿膜嚢に属するものとしてはそのほかに原腎管がある.

 3の空所は神経管の空所である.体腔からできる漿膜嚢がその起源については原腸Urdarmと深い闘係をもつが,神経管もやはりある時期には原腸と開放性のつながりをもっている.このつながりは神経腸管Canalis neurentericusといわれる.

 さて胎児発生のもっとおそい時期,つまり結合質Bindesubstanzと脈管がほとんど体中に広がった時期になると,結合質と脈管はともに上に述べた3つの空所のうち1のもののなかに存在し,そこから諸器官じしんに芽をのばしていることがわかる.第2と第3の空所には結合質や脈管の分布は少しも認められない.

 なお結合質のなかには血管だけでなく,まもなくリンパ管も現われてくる.

 すべてこれらの血管,リンパ管はこれらがその中にはいっていく第1の空所においても,また第2と第3の空所についても2次脈管腔sekundäre Gefäßräumeであるといえる.これは第1の空所そのものの一部が結合組織で取り囲まれているのである.もしも第1,第2,第3の空所をすべてリンパ腔と名づけてよいとすれば,これらは2次脈管腔に対して1次または原リンパ腔Urlymphräumeというわけである.それゆえ2次脈管の役目は原リンパ腔の作用をさらに高度にして,さらに完全なものとすることである.

 その後の発生を観察すると2次リンパ管が次第に第2,第3の1次空所に達して重要なつながりを示すのである.すなわち

 1. 体腔の漿膜嚢からできるものには2次リンパ管が無数の開'放性の顕微鏡的な細かいつながりをしている.

 2. さらに注目すべきことは脳の脳室系と脊髄の中心管が菱脳正中口と同じく外側口によって軟膜腔,つまり結合質中にある本来の2次リンパ腔とつながっているのである.

 なお第1の空所はもともと2次リンパ管をそのなかに作るのであるから,つまり最初にできる3つの空所がすべて2次リンパ管系と密接な関係を有しているわけである(内臓学:漿膜嚢の項;神経学:脳室系の項を参照).

 このようにして,1次と2次のリンパ腔というものがあり,1次の空所が部分的に消失してそこに2次の空所が現われるが,他方では第2,第3の空所のように生存中ずっと残存している1次リンパ腔があるということを知ったのであるが,2次リンパ管系がいかなる形であるかについてはまだ述べていない.すぐ次の章でそれを少し詳しく観察することにしよう.

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最終更新日10/08/28

 

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