Rauber Kopsch Band2.556   

2. 胸大動脈神経叢Plexus aorticus thoracicus (図570)

 これは心臓神経叢からの枝が下行大動脈まで達している範囲ではこの神経叢のつづきをなす.それに胸神経節から(一部は大内臓神経からも)でて大動脈へ達するところの多数の小枝が加わってできている.胸大動脈神経叢はその神経束があまり密集していないものであって,横隔膜の大動脈裂孔をへて腹腔に入り,ここでは腹腔神経叢とつながっている.

3. 腹腔神経叢Plexus coeliacus(EingeweidegeflechtあるいはSonnengeflecht, Cerebrum abdominale)

 この強大な神経叢は腹腔動脈と上腸間膜動脈との起始部を囲んでおり,その広がりは外側は腎上体にまで,上方には大動脈裂孔にまで,下方には腎動脈の基部にまで達している.腹腔神経叢はそれゆえ腹大動脈の初部の上にのり横隔膜の内側脚の前にある(図527, 571).

 腹腔神経叢の根のうちで最も重要なものを次にあげると:1. 大と小の内臓神経Nn. splanchnici.2. 左右の迷走神経の腹枝(特に右の迷走神経からでるものが著しい),これらは腹腔枝Rami coeliaciと呼ばれる.3. 最下部の胸神経節および1と第2の腰神経節からのいく本かの枝.4および5. 腹腔神経叢は上方は胸大動脈神経叢Plexus aorticus thoracicusが腹腔につづいてきたものとつながる.これは下方には腹大動脈神経叢Plexus aorticus abdominalisに続いている.

 腹腔神経叢の基礎をなす部分は帯赤灰白色のかなり大きな半月形をした2つの神経節,すなわち右と左の腹腔神経節Ganglion coeliacum dextrum et sinistrumである.

 この神経節の凸面は外側に向き,その凹面は内側に向いている.またその凸縁は腎上体の内側縁の近くにまで達している.左の神経節は右のものよりいっそう正中線に近くあり,一部は大動脈の上にのる.右のものは左のものよりいっそう側方に寄っており,横隔膜の内側脚と外側脚のあいだの隙間のところにある.若干の短い灰白色の小枝によって両側の腹腔神経節はたがいに結びつけられているが,そうでなくても両者の上角と下角とはたがいに近接している.

 さらに強く接近することによって,1側性あるいは両側性の融合がおこり,輪状を呈する1つの重複した神経節ができる.これを不対腹腔神経節Ganglion coeliacum imparあるいは太陽神経節Ganglion solareともいう.他方では切れ込みが増すことによって個々の部分への分割が程度の差はあるが起りうる.かくして孤立した部分のいくつかが特別な神経節として記載されている.

 特にしばしば現われるのは上腸間膜動脈の起始部の右側に接している小さい孤立した1つの神経節であって,これは不対の上腸間膜動脈神経節Ganglion mesentericum crqnialeである (図571).またその他にやはりしばしば見られるものが腎動脈の後上方の壁に接している別の1つの神経節であって,これは腎動脈大動脈神経節Ganglion renaliaorticumとよばれる.前に述べたようにこの神経節にふつう小内臓神経N. splanchnicus minorが入るが,一方大内臓神経N. splanchnicus majorはしばしば2本の枝に分れて腹腔神経節の外側部の後面に達している.第3の不対の神経節がGanglion phrenicum(横隔神経節)であって,これは右の腎上体の上端の近くで横隔膜の下面に接している.神経節が分割することの原因を全体として考えてみると,まず個々別々の諸根が入ってくること,次いで個々別々の諸枝がそれぞれ定まった方向に出てゆくことがその原因である.その要素(線維束)がいく重にも交叉し,かつ連鎖をなしていること,また特に多数の突起Ausläuferが放射状の方向にのびていること,これらのととが以前に太陽神経叢Plexus solaris, Sonnengeflechtという名前が用いられたことをなるほどと思わせる.

 腹腔神経叢からは次に述べるような2次の神経叢sekundäre Plexusがでる:

a)対をなす2次の神経叢

α)横隔神経叢Plexus phrenicus.これは下横隔動脈の周りに疎な神経叢を形成する細い枝より成り,横隔神経の腹枝Rami abdominales n. phreniciと結合している.右側ではこの結合が横隔神経節を介して行なわれる.

β)腎上体神経叢Plexus suprarenalis.これは数多くの細い枝であって,その多くは平行に走り,大部分が白く見える枝で,これらの枝は腹腔神経節の外側縁から出て,横隔神経叢の小枝を加えて太くなり,腎上体の後内側面に入る.これらの枝はいくつかの小さい神経節をもち,また腎上体を放線状の方向に貫いて,その実質のなかで1つの神経叢を作る.そこには少数の神経細胞が散在している.

γ)腎神経叢Plexus renalis(図571).腎神経叢は強大であって腎動脈に伴なってすすむ.これは腹腔神経叢と腹大動脈神経叢の初部とからおこり,また小内臓神経の腎枝および交感神経幹の腹部からの小枝が加わってこれが形成されている.

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最終更新日13/02/03

 

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