Rauber Kopsch Band2.638   

これを(ダーウィンの)耳介尖Apex auriculae[Darwini]という.このような諸例は“ダーウィンの尖り耳Darwinsches Spitzohr"という名で知られ,上に述べたことから祖先がえりatavistische Bildungであると考えられる(図668, 669).

 耳珠が2つの結節からできていることが稀でない.その場合,下方の大きい方の結節が狭義の耳珠で,上方の小さい方のは珠上結節Tuberculum supratragicumとよばれる.

 変異:耳輪が後部で,あるいは上部までも巻きこんでいないことがある.(つまり耳輪が完全または不完全にその巻きをもどした型である.)耳輪脚は対輪と合流していることがあるかと思えば,また2つか3つの枝に分れていることもある.対輪は非常に小さいことがあり,全く存左しないこともある.後方の対輪脚は欠けることもあり,重複することもある.耳珠と対珠は小さくなっていることや存在しないことがある.耳垂は非常に小さいことや非常に大きいことがあり,その前縁が顔面から離れていることもあり,くつづいている(sessil--固着した,不動の)こともある.また1本の溝が耳垂を前後の両部に分けていることがある.(日本人のダーウィンの結節と耳垂の形態については,豊田文一ほかの文献がある.日耳鼻46巻11号,1940.)

 耳介の構成部分は皮膚・耳介軟骨・耳介靱帯・耳介に固有の小筋群である.

a)皮膚

 耳介の皮膚は耳介軟骨とそれに付着する諸筋とを被い,後面を除いてほこれらとかたく付いている.脂肪は所によって全くないか,あるいはわずかに存在する程度であるが,耳垂だけには皮下に脂肪組織が発達している.耳介の皮膚にはところどころに汗腺が散在し,小さい脂腺がたくさんある.脂腺は耳甲介と三角窩でとくに密集し,大きさもかなりなものとなっている.これに反して突出部では脂腺の発達が弱い.外耳孔のまわりには耳毛(みみげ)Tragiがはえている.これは繊細で短いが,年をとった人ではかたくて太い.眉毛・眼瞼縁の随毛・口のまわりや鼻孔の毛などと同じような保護器官と考えられる.耳珠のところではしばしばかなりの長さに達してしかも密生し,いわゆる耳珠ひげBarbula tragiをなしていることがある.外耳孔の毛は外耳道の毛と直接につづいており,後者もまた同じ意味のものである.

 耳介の脈管:後耳介動脈A. retroauricularisはとくに耳介の後面に枝分れするが,耳介縁をまわったり軟骨を貫いたりして耳介の前面にも枝を送る.しかし前面にはそのほかになお浅側頭動脈の耳介前枝Rr. praeauricularesが来ている,また後面にはたいてい後頭動脈A. occipitalisからの小枝も来ている.静脈は動脈に伴なって走り,側頭静脈と顔面静脈に注ぐ.リンパ管については第I巻698頁を参照されたい.

 耳介の神経:頚神経叢の大耳介神経N. auricularis magnusが耳介の後面の大部分を支配し,後耳介動脈の枝とともに細い枝を耳介の前面へ送る.顔面神経の後耳介神経N. retroauricularisは迷走神経の耳介枝R. auricularis n. vagiと結合して項耳筋・耳介横筋・耳介斜筋・対珠筋に枝をあたえる.また耳介側頭神経N. auriculotemporalisはその耳介枝を耳介の前壁に送っている.

b)耳軟骨Ohrknorpel(図670672)

 耳軟骨は耳介軟骨Cartilago auriculae, Mecschelknorpelと耳管軟骨Cartilago meatus acustici externiとからなり,前者の方が後者より大きい.そして両者は耳軟骨峡Isthmus cartilaginis aurisでたがいに合同している.耳介の骨ぐみをつくている耳介軟骨は全体としてみると耳介とほぼ同じ形をしており,耳介に見られる通りの高まりやへこみをもっているが,たず下方へのひろがり方が足りない.そのほか耳介軟骨の形には皮膚で被われた外面に現われていない特徴が2, 3ある.

 耳珠の上前方に,耳輪脚から耳輪の上行部への移行部に当たって,耳介軟骨に1つのとがった突起がでており,耳輪棘Spina helicisとよばれる.また耳輪の下端部は1つのきれこみによって対珠から分けられて,そのため耳輪の突起ともいえる状態を呈している.これが耳輪尾Cauda helicisで,耳垂の基部の支えをなしている.

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最終更新日13/02/03