Rauber Kopsch Band2.717   

B. 皮膚の角質器

a)爪Ungues, Nägel(図763768)

 爪は手と足の指で末節の背面を大部分被っている角質板である.爪はここで保護器官として,天与の武器ないし道具として,また反対がわにある高度に発達した触覚装置に対する後楯としてはたらいている.ヒトの爪は動物のツメやヒヅメ,また猛獣や猛禽の鋭いかぎのあるツメなどとともに自然の1系列をなすのである.

 爪の後縁は凹の曲線をえがき,側縁は直線をなして,いずれも皮膚の溝のなかに入りこんでいる.前縁は凸縁をなし,皮膚のそとに露出して突きでている.したがって爪には次の諸部が区別される.後方部は最もつよく皮膚のひだのなかへ埋まっていて爪根Radix unguis, Nagelwurzelとよばれ,側方の縁は外側縁Margo lateralisであり,爪根と外側縁を包んでいるひとつづきの皮膚のひだは爪廓Vallum unguis, Nagelwall,といい,また爪が食いこんでいる溝は爪洞Sinus unguis, Nagelfalzとよばれ,爪がその上にのっている真皮の部分は爪床Lectulus unguis, Nagelbettという.なお爪の中央部は爪体Corpus unguisといい,前方へつきでた縁は自由縁Margo liberである.爪根は潜入縁Margo occultusともよばれ,爪のもっとも薄い部分である.爪根の前縁は爪洞よりいくらか前へ顔を出して,前方へ凸の円みをおびた少し白い場所としてみられる.これが半月Lunula(図763765)であって,たいてい母指に現われるが,しばしばそのほかの指にも,ときにはすべての指に(女の方がその頻度が高い)みられることもある.(荒木文吾の日本人男女成人1600名の統計では,爪半月が母指のみに現われる頻度は男36%,女19%で,以下小指にいたるまで頻度は減少する.すべての指に現われることは男35%,女19%.どの指にも爪半月のないことは男女とも2%にすぎない.一般に右手は左手より多くあらわれる.長崎医会誌11巻12号,1933. )爪は半月の前縁のところで最も厚い.爪床はその前端のところで爪洞につづく1本のせまい溝によって指頭から分けられている.この溝の底に爪床縁Nagelsaum(Sohlenhorn)があって,これらの背面に爪の自由縁が伸びだしているのである(図767).

 爪板は横の方向では上方に凸の弯曲をしており,この弯曲は細い第5指でとくに強い.たいてい縦の方向にもふくらんでいて,この弯曲もまた小指でとくに著しい.したがって小指の爪はそのほかの指のものよりいっそうワシやタカの爪に似ているわけである.

 爪は無理やりに爪床からはがすことができるし,また不要の破壊をさけてていねいにはがすこともできる.はぎとった爪は白つぼく半透明で,とくに爪根のところが白い.生体で自然の位置にあるとき爪体は赤味をおびていて,1本の狭い明るい線条によって半透明の自由縁の部分からはっきり分けられている.半月は白っぽい色をしており,この色調の差は主として下層の血液の量がちがうことによるのである.

 爪床から爪をはがすと,爪床には次のようないくつかの部分がみられる(図768).いちばん目立って,しかも広いのは爪床小稜Cristae lectuli unguisというかなり太い隆線が並んでいる1帯である.この部分では爪床小溝Sulcus lectuli unguisという溝によって境されたたくさんの縦の隆線が,半目と爪床縁のあいだの全領域を占めている.(原文ではSulcus lectuli unguisを爪洞と同義にしているが,これは一般の定義にあわないので訳文で改めた,(小川鼎三))この範囲が爪体に相当する.この部分の前縁には,個々分離した乳頭のならぶ狭い一帯があり,ここは爪床の前方の溝のところに当たっている.さらにその前方には乳頭をもつ指頭の皮膚小稜が弓状にまがって続いている.太い隆線のならぶ部分の後方には,すでに爪根に当るところに細い隆線の1帯がある.この帯状部の前後両縁はともにふくらんでいる.さらに後方にはなお2つの細い帯状部があって,その1つは乳頭をもつ隆線を,他は独立の(隆線と関係ない)乳頭をふくんでいる.つまり爪床には全部で5つの帯が存在するのである.しかしこれで爪床における乳頭の形成をみな述べたわけでなくて,さらに爪洞の後部の底において前方へ伸びている乳頭がある.この乳頭も隆線の上に付いていることがある.爪廓の下面にはごくわずかの乳頭しかないが,その前縁では乳頭の数が多く長さも大である.爪廓の上面は(手と足の)指の背面の皮膚と同様である.爪の下面は爪床の各帯状部に対して鋳型をとったように反対の像をあらわしている(図768).

 丈夫な皮膚支帯が爪床を骨膜につないでいる.

 微細構造(図766, 767).爪は各1層の爪胚芽層Stratum germinativum unguisと爪角質層Stratum corneum unguisとからできている.

S.717   

最終更新日10/08/31

 

ページのトップへ戻る