Rauber Kopsch Band1. 57

IV.リンパ管系Systema lymphaceum, Lymphagefäßsystem

A.概説

 リンパ管系は脈管系の全体にとっては極めて重要な構成要素であり,その原始的な形は血管に先だって現われる.

 その二次的な形として出来上がったものは脈管系のずっと進んだ分化を示している.

 リンパ管系は次のものからなりたっている.

1. リンパ管Vasa lymphacea,すなわちリンパ管とリンパ腔Lymphagefäße und Lymphräume.これはいろいろな形と大きさ,ならびに構造をもっており,リンパ管と乳康管Lymph-und Chylusgefäßeに分けることができる.

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 多くの動物ではいろいろな場所にリンパ管とつづいた自動性器官motorische Organeがあって,その律動的な収縮によってリンパの求心性の流れが促されている.これがいわゆるリンパ心臓Lymphherzenである.

2. 脈管腺Organa cytogenea, (Blut-)Gefäßdrüsenこれにはいくつかの種類があるが,いずれも本質的にはリンパ様結合組織からなっている点では変りがない.

 これに属するものとしては1. 体に広く分布している多数のリンパ小節Lymphonoduli, Lymphknötchen,これは個々に分れていることもあるし(孤立solitär),群をなしてかたまっている(集合aggregiert)どともある.前者を孤立リンパ小節Lymphohoduli solitariiという.集合形をなすものとしては舌,口蓋,耳管,咽頭の扁桃および腸の集合リンパ小節Lymphonoduli aggregatiがある.さらに脈管腺に属するものとして2. 胸腺Thymusdrüseおよび3. 多数のマルピギー小体Malpighische Köperchenをもった脾臓がある.これに4. たくさんに存在するリンパ節Lymphonodi, Lymphknoten od. Lymphdrüsenおよび5. いわゆる血リンパ節Haemolymphonodi, Blutlormphdrüsenが加わり,6. また骨髄Medulla ossium, Knochenmarkもこれに属する.

 ここに述べた諸器官の一部は実地医学の立場から内臓学として取り扱われている.扁桃Mandeln,腸の集合リンパ節Lymphknötchenhaufen,胸腺Thymus,脾臓などがそれであるが,ここではそれらの系統的位置を明かにしておく.

 リンパ管を乳ビ管Chylusgefäßeとせまい意味のリンパ管Lormphgefdßeとに区別するのは,その内容によることである.狭義のリンパ管の内部にはリンパLympheがあり,乳ビ管には乳ビ Chylusがはいっている.消化のとき以外は乳鷹管にもリンパが通っている.そのほかの点ではこの2つの脈管は同じである.乳ビ管はのリンパ管である.しかし腸には乳ビ管のほかにこれと並んで普通のリンパ管も存在している.

 上に述べたすべてのDrüsenのうちでリンパ節がリンパ管に対してもっとも密接な関係をもっている.大部分の(おそらくはすべての)リンパ管はその途中で1個ないしそれ以上のリンパ節を必ず通過する.

リンパ腔の発生

 胎児の初期に体の内部は対称的に配列したいくつかの広い空所によって貫かれている.これらの空所のすべてが胎児の発生過程において重要な役割を演ずるものであり,またその空所を取り図む細胞集団から分泌された漿液様の液体をもってみたされている.

[図701] 主なリンパ管の走行についての模型的概観(Quainによる) 1/4

 a右腕頭静脈;b 左腕頭静脈;1,1胸管;1'乳ビ槽;2, 2頚リンパ本幹と頚リンパ叢;3, 3'腋窩リンパ叢;4, 4', 4''縦隔前部のリンパ管と乳腺リンパ叢;5, 5'胸腺リンパ管;6, 6'後縦隔リンパ管;7肺からのリンパ管;8食道のリンパ管;9後横隔膜リンパ管;10,10肋間リンパ管;10’胸管の側副幹,少数の肋間リンパ管が開口している;11,11’前および外側横隔膜リンパ管;12,12’腰リンパ叢;13,13’腎リンパ管;14,14’精巣リンパ管;15腹腔リンパ叢;16,16'内腸骨リンパ叢.

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 この液体の中やその上にすでにできた原基がただよい,そのもの自身の重量の影響をほとんど受けないようになっている.かくして諸原基が重力の妨げをうけないで発生の過程を無事とすごして,その結果として最後の形が立派にでき上つてくるのである.この液体の存在する意義についてはいま1つほかの重要な考え方,すなわち新陳代謝における意義があって分泌と排出ということのみでなく,物質を原基にあたえる仲だちをするという点である.いま問題としている空所は血管系が現われる前にすでに存在している.そして血管系がひとたび形づくられて,その最初の突出物が器官の原基にすすんでいっても,つねにこういう空所の一部がそこにあって,これがなかだちをして栄養が営なまれるのである.

 さて全体としてみると,或る時期においてはこのような空所が3あって,そのうちの2つは対をなし,いま1つは不対である.

 第1の空所は一方では神経管と皮膚外胚葉の間にあり,他方では内胚葉,脊索,体節,原腎管および中胚葉の臓側板と壁側板の外面り間にある.これらの空所の各部はたがいにつながりあい,ときにはまた1側の空所が他側のものとつづいている.これらはすべて分割腔Furchungshöhleからできるもので,その一部であるとみなしうる.

 第2の空所はいろいろな部分に分れているが,体腔Leibeshöhleそのものにほかならない.これには体節腔Ursegmenthöhleまたは原脊椎腔Urwirbelhöhleが属するが,これは体節がくびれていった後に体腔の辺縁部が残って広がったものである.体腔はすでに前にも述べたようにまず第1に体のなかの大きな漿膜嚢すなわち心膜,両側の胸膜,腹膜を作るのである.この漿膜嚢に属するものとしてはそのほかに原腎管がある.

 3の空所は神経管の空所である.体腔からできる漿膜嚢がその起源については原腸Urdarmと深い闘係をもつが,神経管もやはりある時期には原腸と開放性のつながりをもっている.このつながりは神経腸管Canalis neurentericusといわれる.

 さて胎児発生のもっとおそい時期,つまり結合質Bindesubstanzと脈管がほとんど体中に広がった時期になると,結合質と脈管はともに上に述べた3つの空所のうち1のもののなかに存在し,そこから諸器官じしんに芽をのばしていることがわかる.第2と第3の空所には結合質や脈管の分布は少しも認められない.

 なお結合質のなかには血管だけでなく,まもなくリンパ管も現われてくる.

 すべてこれらの血管,リンパ管はこれらがその中にはいっていく第1の空所においても,また第2と第3の空所についても2次脈管腔sekundäre Gefäßräumeであるといえる.これは第1の空所そのものの一部が結合組織で取り囲まれているのである.もしも第1,第2,第3の空所をすべてリンパ腔と名づけてよいとすれば,これらは2次脈管腔に対して1次または原リンパ腔Urlymphräumeというわけである.それゆえ2次脈管の役目は原リンパ腔の作用をさらに高度にして,さらに完全なものとすることである.

 その後の発生を観察すると2次リンパ管が次第に第2,第3の1次空所に達して重要なつながりを示すのである.すなわち

 1. 体腔の漿膜嚢からできるものには2次リンパ管が無数の開'放性の顕微鏡的な細かいつながりをしている.

 2. さらに注目すべきことは脳の脳室系と脊髄の中心管が菱脳正中口と同じく外側口によって軟膜腔,つまり結合質中にある本来の2次リンパ腔とつながっているのである.

 なお第1の空所はもともと2次リンパ管をそのなかに作るのであるから,つまり最初にできる3つの空所がすべて2次リンパ管系と密接な関係を有しているわけである(内臓学:漿膜嚢の項;神経学:脳室系の項を参照).

 このようにして,1次と2次のリンパ腔というものがあり,1次の空所が部分的に消失してそこに2次の空所が現われるが,他方では第2,第3の空所のように生存中ずっと残存している1次リンパ腔があるということを知ったのであるが,2次リンパ管系がいかなる形であるかについてはまだ述べていない.すぐ次の章でそれを少し詳しく観察することにしよう.

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リンパ腔とリンパ管

 リンパ管系ははなはだ多数の細大さまざまな円筒状のリンパ管からできている.リンパ管は一定の分節形式をなして配列し,豊富な網をつくり,また一定の場所でリンパ節Lymphknotenにつづいている.

 さらに毛細リンパ管の領域kapillares Lymphgefäßgebietは体の諸器官(そのなかにはリンパ節自身も含まれるが)に広がっている.毛細血管にいろいろな形や構成があるのと同じようにリンパのごく細い通路についてもそれがある.毛細血管と同じように,その所属する器官によって形状が変わっている.また太い血管壁の微細構造が毛細血管の構造を知ることによって初めて理解できるのと同じく,太いリンパ本幹の構造も最も細いリンパの通路の構成を知ることによって初めてよく分るのである.

 リンパ管には次のような形がある.

I.1次のリンパ腔

 これは原リンパ系Urlymphsystemに属するもので上皮によって被われている.これには心膜,胸膜および腹膜の腔(陰嚢腔は最後のものに含まれる),脳の脳室系,脊髄の中心管,耳の迷路の内リンパ腔が属している.

II. 2次のリンパ腔

 これは結合質の隙間という形であって,その表面は内皮で被われているところもあり,その被いがないところもある.2次リンパ腔の大きさと形は極めてさまざまである.これは一般にリンパ隙Lymphspalteという言葉でよばれている.これが袋のような形をしている場合は1次のリンパ嚢に対して2次のリンパ嚢といわれる.内皮を有する2次のリンパ隙には硬膜外腔,硬膜下腔,軟膜腔が属し,内皮をもたないものとしては関節腔,粘液嚢,腱鞘が属している.

III. 毛細リンパ管,大小のリンパ管の幹

 毛細リンパ管Lymphkapillaren, Lymphröhrenは毛細血管に相当するものであるが,たいていそれよりも広くて,やはり毛細血管と同じく1層のうすい内皮の管からなっている.内皮細胞は正多角形,あるいは不正多角形の輪郭をしていて,その縁は曲がっていたりあるいはギザギザになっていることがある.その長い方の径が管の長軸と平行するよう.に配列している(図702).毛細血管の内皮細胞の場合と同じく,小口Stomataがみられるが,毛細血管のそれと同じ意義をもつのである.すべての2次リンパ管は初め内皮の管からなりたっているが,太いリンパ管になるとその壁の層が増加することによっていっそう丈夫に作られている.かなり太いリンパ管(直径2mm以上のもの)の壁は血管の壁と同じく3層からできている.内膜は内皮細胞と縦走する細い弾性繊椎の網からなっている.中膜には横走する平滑筋細胞と少量の弾性線維がみられる.外膜には縦走する結合組織の束と弾性線維,それに縦走する平滑筋束がある(図715).

 静脈と同じくたいていのリンパ管の幹はをもっており,これは内膜のヒダである.弁の形は静脈の弁と同じであるが,それよりもはるかに繊細で薄い.たいてい2枚の帆状弁がたがいに向きあった形をしており,それが付着しているところでリンパ管ゐ壁は外方へふくらんでいる.その役目は静脈の場合と同じで,遠心方向への流れを阻止し,求心方向への流れを助けるのである(図703).

 リンパ管の弁はたいていたがいにかなり接近して存左し,静脈の場合よりもいっそう密接している.したがってリンパ管に液が一杯つまると弁の位置に応じてふくらみができ,ちょうどジュズのような外観を呈する.細いリンパ管の幹では弁がだいたい2~3mmの間隔をおいて存在する.

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比較的太い幹ではその間隔が6~12mmとなり,胸管でほ数cmもの間隔となる.特にリンパ管がリンパ管に開口するところにそれがあるのみでなく,リンパ本幹が静脈に移行するところは必ず弁によって護られている.ときどきリンパ管の途中にある弁の丈が低くなっていて,リンパの流れが逆の方向に容易にそこを通れるようになっている.毛細リンパ管および非常に細いリンパ管の幹は弁を全くもっていない.もっとも細いリンパ管の幹はその壁に多数の小さな突出部があって,ときにはこれが輪状をなしていることさえありうる.

[図702] リンパ管の内皮 イヌの胃粘膜から.(Disse)

[図703] リンパ管の弁Valvulae vasorum lymphaceorum,切開してひろげたところ. (Sappeyによる)

IV. リンパ管網Lymphgefäßnetze

 リンパ網とリンパ叢は毛細リンパ管の領域にも,またリンパ管の大小いろいろの幹のあいだにも広がっている.網と叢の形が,とりわけ毛細リンパ管の領域においては,それらがリンパ管の主要な姿であるといってもよい.毛細管リンパ網Lymphkapitlarnetzeと毛細血管の関係をいうと,前者は後者にくらべて粘膜,漿膜および皮膚の表面からいっそう離れたところにあり,毛細血管はこれらの表面にかなり近く存在している.そして毛細リンパ管の網の交叉点は毛細血管がからみついて囲んでいる組織の部分の中心か,または中心の近くにある.しかし一般的にみて,毛細リンパ管は毛細血管より大きな網目をなしている.また毛細リンパ管網の形はいろいろであるが,それに相当する毛細血管にくらべると,いっそう大きな一致を互いの間で示すのである.

[図704] ヒトの腸壁のリンパ管,集合リンパ小節の領域(Frey, Virchows Archiv,1863による).

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毛細リンパ管網の一般的な特徴としてはそれがふくらみを呈していることである.リンパ管のふくらみは網の交叉点で最も著しくあらわれている.また網目の形がいっそう不規則であること,隣りの網目の広さとしばしば非常に異なっていること,たがいに開口する細いリンパ管の口径がはなはだ違っていることによって,毛細血管と区別される.これらの特色に注意すると,いくらか練習することによって形の上で毛細リンパ管と毛細血管とをたやすく区別できるのである(図704).

V. リンパ洞Lymphsinus

 これは長短いろいろのフラスコ状をしたリンパ管の突出部で,その先きは盲状に終り,特に乳頭や絨毛というようななにかの土台から出ている突起のなかに見られる.リンパ洞はすべて内皮で被われている.皮膚の乳頭や腸の絨毛のなかにあるが,そのほかに胃,大腸,子宮などの粘膜にも存在することが知られている(図704).

VI. 血管周囲リンパ管Perivasculäre Lormphgefäße

 リンパ管は大小いろいろの血管をその軸としてもっていることがある.非常に細い血管,一方ではまた大動脈も,それに相当するリンパ管で包まれていることがある.例:中枢神経系,肝臓,脾臓,胃の粘膜,骨(図705).

[図705] 動脈周囲リンパ腔Periarterieller Lymphraumカメ(Chelydra)の大動脈の一部. (Gegenbaurによる)

[図706]液腔Saftlückenヒトの角膜

VII. 液細管Saftkanälchen

 液細管とは結合質のなかにあるリンパ道のすべてをいい,リンパがここを通っているが,その道は内皮細胞が被っていないか,あるいははなはだ不完全に被っているのみである.すなわちこれは結合組織のなかにある内皮のない小さな隙間で,この隙間がたがいにつながって広くひろがった系統をなし,しかも上に述べた内皮または上皮で被われた諸種のリンパ腔と開放性のつながりをもち,またこのリンパ腔から人工的に注入することができる.非常に多くの実験がウサギの模隔膜の液細管についてなされている.このばあい,液細管は不規則な形の平らな隙間で突起をもっており,これによって同じような隙間とたがいにつづいている.また毛細リンパ管や細いリンパ管の幹もこれとつながっている.なおこの液細管は結合組織の1次束に包まれていて,つまり常に内皮性の鞘というべきものに囲まれているのであるから,全く壁のない(すなわち特別な壁をもたない)ものということはできない(図706).

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リンパ管の神経

 リンパ管の神経はK. A. Kytmanoffの研究によるとたくさんあって大部分は無髄である.

 これには4つの神経叢が区別される.すなわち外膜・筋層上・筋層内・内皮下の神経叢である.外膜と中膜には知覚神経終末があるが,その形はあるところでは自由終末糸freie Endfädenの型であり,またところによっては終末叢Endbüschel, -sträiucher, --bäumchenの型である.中膜にはなお運動性神経終末も存在する.すなわち神経支配は 血管の神経支配,特に動脈のそれに似ている(Anat. Anz.,19. Bd.,1901).

脈管腺Organa cytogenea, Gefäßdrüsen(Blutgefäßdrüsen)

 脈管腺は本質的にはリンパ様組織からなりたっている.これはリンパ管系あるいは血管系のなかに介在していて,白血球をつくっている.

 これはいろいろなところに種々な形をして存在し,個々の点についてはかなりの相異があるけれども全体としてその構造と機能によってまとめて,いくつかの種類に分けることができる.

 これを次のように分類する.

1. リンパ小節Lymphonoduli, Lymphknötchenまたはリンパ瀘胞Lymphfollikel

a)孤立リンパ小節Lymphonoduli solitarii, Solitärfollikel(腸や気管支にある).

b)集合リンパ小節Lymphonoduli aggregati, 扁桃Tonsillen(舌,口蓋,咽頭,耳管の扁桃,腸の集合リンパ小節).

2. リンパ節Lymphonodi, Lymphknotenまたはリンパ腺Lymphdrüsen.

3. 胸腺Thymus, innere Brustdrüse.

4. 脾臓Lien, Milz.これには多数の脾リンパ小節と赤脾髄のリンパ様組織がある.

5. 血リンパ節Haemolymphonodi, Blutlymphdrüsen.

6. 骨髄Medulla ossium, Knochenmark(57頁参照).

1. リンパ小節Lymphonoduli, Lymphknötchen

 これはリンパ様組織の結合質が円味をおびた集団をなしているもので,その直径は0.5ないし1mm,気道と消化管において上皮のすぐ下にあり,1つ1つ離れて弧立リンパ小節Lymphonoduli solitarii, Solitärfollikelをなしていたり,集合リンパ小節Lymphnoduli aggregatiとして平面的に集まっていろいろな大きさの集団を作っていることもあり,特に消化管Nahrungsrohrのひろがり全体にわたって存在する.リンパ様の物質lymphoide Substanzという概念に相当してここでは結合組織性の細い網のなかにリンパ細胞が密集して存在する.この円味をおびた小さな器官は毛細血管網で貫かれている.またリンパ管もあって,これがおそらくはリンパ様の物質と開放性につながっている.リンパ小節は,リンパ様の結合質というものがすべてそうであるように,その分布するあらゆるところにおいて若いリンパ細胞の生産にあたっている.

[図707] ウサギの盲腸のリンパ小節(1個)の断面 (Flemmingによる)

 白い通路のごとく見えるものは主として血管網に当るが,その一部はまた細網の部分に相当する.

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 個々のリンパ小節に周辺層中心層を区別することができる.周辺部はリンパ様細胞,つまり小さくてだいたい円い細胞で,わずかな細胞体と強く染まる正円形の核とをもつものがたがいに密集してこれを成している.

 中心層では細胞はそれほど密に集まっていなくて,細胞体は原形質に富み,また多くのものでは核が薄く染まっていてその形もかなり大きい.したがってリンパ小節の中心部は明るい色を呈していて周辺部から区別できる.また中心部ではかなりの数の細胞分裂像が認められる.そのためこの部分は胚中心Keimzentrumと呼ばれている.おそらく胚中心はリンパ小節の形態要素として恒常的な一部をなすのでなく,絶えず変化している構造物であろう.

 この考えはBaumとHilleの研究によりいろいろの動物(ウシ,ブタ,ウマ,イヌ)で確かめられた.若い動物および胎児では胚中心はみられないのである.“年令がすすむとともに初めて胚中心が現われ,次第に明らかとなり数も増加し形も大きくなる.しかしある年令を境として胚中心はふたたび不明りようとなり,数も減少して大きさも小さくなり,比較的高年またははなはだ高年に達すると,全部というわけではないがそのほとんど大部分がふたたび消失してしまう”といっている(Anat. Anz., 32. Bd.,1908). Hellmann(Beitr. path. Anat., 68. Bd., Verh. anat. Ges.,1939)は胚中心を侵入した刺激物に対する“Reaktionszentren(反応中心)”としてみている.しかしHoepkeは(Z. Laryng., Bd. 22 u. Beitr. pathol. Anat.,1931, Verh. anat. Ges.,1938)これがそのときどきの要求によって胚中心となったり反応中心となったりすることができるのであって,しかもずっとひきつづいて胚中心であることはできるが,いつまでも反応中心であることはできないということを証明した.

 集合形のリンパ小節,つまり扁桃,腸の集合リンパ小節については内臓のところで述べる.

2. リンパ節Lymphonodi, Lymphknoten, またはリンパ腺Lymphdrüsen

 リンパ節はリンパ小節と同じ組織からなりたっているが,決してリンパ小節の集合体ではなくて,その存在する場所により,また輸入および輸出リンパ管とよく発達した密接なつながりをもつことによりリンパ小節と区別することができる.リンパ管との関係がリンパ節の構造に非常に大きい影響をあたえるので,リンパ節は第3の特色としてリンパ様組織からなるほかの構造物とは特にその構造において相違するのである.

 リンパ節はかたく,円みをおびたり,あるいは長めの,多くは平たい形をした器官であって,リンパ管や乳ビ管の途中に介在している.したがってリンパ管や乳ビ管の内容は太いリンパ管の幹を経て心臓にいたる途中で必ずリンパ節を通り抜けなければならない.

 リンパ節は特に頚部,胸部,腹部(こ,ではとりわけ小腸間膜)の大きな血管の走行に沿い,また大動脈,下大静脈および腸骨動静脈に沿って列をなして配置されている(図717).そのほか数も少なく大きさも小さいが頭蓋の外部や肋間隙にみられる.またリンパ節の目立った集団が腋窩とこれに相当する鼡径部に存在する.なお孤立したものが肘窩,尺側上腕二頭筋溝,膝窩にある.

 リンパ節の大きさは著しく異なっている.麻の実,ないしそれ以下の大きさしかないものも沢山あるが,またその直径が扁桃や,それ以上にも達するものがある.全体としてその最長径はほぼ2mmから3Qmmのあいだを上下する.いろいろな病的の影響でリンパ節は容易に,しかも急に大きくなる.

 リンパ節にはいるリンパ管は輸入管Vasa afferentiaと呼ばれ.そこから出てゆくリンパ管は輸出管Vasa efferentiaと呼ばれる.はいって来るリンパ管はリンパ節の近くで多くのばあい何本かの枝に分れてリンパ節にはいる.そのさい輸入管の数は輸出管よりも多いものである.輸出管はリンパ節のなか,およびそれから外に出たところで細い枝が集まってできるのであってミ輸入管よりは太いものである(図708, 709).

 リンパ節はその表面を平滑筋細胞を含む丈夫な結合組織の膜,すなわち被膜Capsulaによって包まれている.

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 この平滑筋細胞はNeubertが言つているように(Z. Anat. Ent.,110. Bd.,1940)非常にたくさん存在する.被膜はところどころで結合組織の小梁と膜,すなわち梁柱Trabeculaeを内部に送りこんでいる.また被膜はリンパ管と血管がリンパ節に出入するところだけはとぎれている.表面の1ヵ所に臍状のへこみ,または裂目があり,これを門Hilusという(図708, 716).門から輸出管血管がリンパ節を出ており,それに対して輸入管は表面のまるく膨んでいる部分にはいっている.

[図708] 比較的小さなリンパ節の断面 半模型図,矢印はリンパの流れを示す.

[図709] リンパ節とその輸入管および輸出管(Sappeyによる)

 多数の枝に分れた細い方のリンパ管が輸入管で,根の数の少ない太い方の小幹が輸出管である.

 リンパ節の実質には2つの部分,すなわち灰色または黄赤色の皮質Substantia corticalis, Rindensubstanzと赤みをおびていっそう軟い髄質Substantia medullaris, Marksubstanzとがある(図710).皮質には肉眼でも認められる円い皮質小節があり,髄質は海綿状で,比較的太い血管に富んでいる.髄質は1つの場所すなわち門において表面に達していて,ここでは門支質Hilusstromaという結合組織の塊りに囲まれており,この門支質が太い血管と共にリンパ節のなかにはいりこみ,また脂肪細胞を伴なっている(図715).髄質はリンパ節によって発達の程度が非常にまちまちで,体の内部にあるリンパ節,たとえば小腸間膜と腰リンパ節では最もよく発達しており(図710),浅いところにあるリンパ節,すなわち腋窩と鼡径部のリンパ節ではあまり発達していない.浅層のリンパ節では髄質は皮質を内側から被う薄い1層をなしていて,それだけこのようなリンパ節では門支質が深くはいりこんで,髄質をおしのけているのである(図715).それに対して体の深いところにあるリンパ節ではよく発達した髄質が門から表面の近くまでのびていて,門支質に相当する結合組織はときとしてほぼ完全にリンパ節の外にある.

 新生児と老人では髄質と皮質の区別がつかない.(Keller, Verh. anat. Ges.,1950).

 すでに述べた被膜から続いて出ている梁柱(図710, 2)は被膜と同じ線維性結合組織と平滑筋細胞からなり,これは皮質と髄質とを貫いて,たがいにつながって網材を作り,リンパ節の実質をその間に持つている.しかしこれと実質との間には,ぐるりに狭い隙間があって,そこをリンパの流れが通っている(図708, 711).

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 皮質では梁柱はいっそう膜状の形をとり,皿形の場所を更に小さい部分,すなわち0.28ないし0.75mmの大きさの小槽Alveoliに分けている.この小槽は内側に開き,また側方にも開口をもっている.髄質になると梁柱は細い帯ないしは索状の形となり,たがいにつながって網材を作る.これを髄網材Markgeritstという.これによって囲まれた隙間はどちらの方向にもたがいに自由につながっている.

[図710] ヒトの小腸間膜のリンパ節の皮質の断面 ×50 1 被膜;2 太い梁柱;3小さい隔壁;4血管の小幹;5 皮質の正常な状態のリンパ小節;6, 6筆で細胞の一部をはらい除けたリンパ小節,なかに細網が見える.7, 7髄質の索;8,8リンパ洞.

 上に述べた小槽と網目のなかには実質組織,すなわちリンパ様質が一定の様式をもって収められている.小槽には皮質小節Rindenknötchen(図710, 5, 6)があり,これは小槽より小さく,またこの皮質小節と小槽壁のあいだに皿形をしたせまい隙間が残されている(図710,8).皮質小節はその内面からリンパ様組織の突起,すなわち髄索Fasciculi medullares, Marksträngeを送りだして,これがたがいに合して網を成している(図708).この網は髄質の網材のなかにあり,髄質の最も大切な部分である.このことは皮質小節が皮質の本質的な部分であるのと同じである.言いかえるとリンパ様組織は皮質では皮質小節の形をとり,髄質では髄索の形をなしていて,この髄索は皮質小節からつづいて出てたがいに網を作っているのである.皮質小節および被膜と梁柱のあいだにはぐるりと取りまいて狭い隙間が存在し,そこをリンパの流れが通っている.それと同じように髄索の網と髄質の梁柱系との間にもあらゆる側にリンパが流れるための狭い隙間が開いていて,これがいたるところで皮質の同じような隙間とつながり,そして全体としてリンパ節のリンパ路ができている(図708).このリンパ路には一方では輸入管が注ぎ,他方では輸出管が開いている.また血管が髄索と皮質小節のなかで分枝している.皮質小節を外方および側方から皿状にとりまいている隙間を特にリンパ隙Lymphspalteまたリンパ洞Lymphsinusと呼ぶ.しかしリンパ路の全体がまったく何もその中にない自由な通路ではなくて,いたるところで細い網状物がその内部を貫いており,この細網は一方では皮質小節と髄索の密なリンパ様組織に進入して,その網材に続き,また他方では被膜と梁柱系の全部に固く着いている.

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 このリンパ路の細網(図710,8, 被膜の下にみえる)はリンパの流れを妨げるのではなくて,ただそれを遅くしているのであって,それと共にリンパ節の実質の全部を被膜と梁柱系に付着させている役目をしている.リンパ路の内面で被膜と梁柱系に接しているところはすべて内皮で被われている.またその内皮が皮質小節と髄索の表面をも所々で被っている.

[図711] リンパ節の構造模型図 1列に並んだリンパ小節を持つ.

[図712] ヒツジの血リンパ節 門を通る平面で横断したもの(Weidenreichによる).

髄質のリンパの通路から輸出管が細い根をもって始まり,門のところでまがりくねってふくらんだリンパ管の密な網を作っている.その他の側では輸入管が被膜のまわりの所で枝分れした後にそれらの枝が被膜を貫いて,皮質小槽のリンパ隙に開口する.リンパ隙はそこから髄質のリンパ路につづいて相ともにリンパの通る管を作る.これは輸出管と輸入管のあいだに介在して,リンパの流れの連絡を保つものである.輸出管と輸入管はリンパ節のリンパ路につながると,その壁は内皮を除くすべての膜がなくなり,内皮のみが残ってリンパ節のリンパ路の内皮に続いている.

 皮質小節はそれぞれの大きさに従って1つまたはそれ以上の数の2次小節をもっている (Dabelow, A., Verh. Anat. Ges.1935).

 動脈はリンパ節の表面のいろいろな所から,しかし特に門のところでリンパ節の中に入り,静脈も門を通って出ていく(図715).表面からはいった血管は被膜の上で枝分れし,また太い梁柱の中軸を走ってそこでも枝分れしている.門をはいった太い動脈は一部は梁柱に枝をあたえるが,大部分の枝はそれをもっとも必要とする場所,すなわち髄索と皮質小節に向かってすすむ.髄索や皮質小節で動脈の枝はよく発達した毛細管網に分れ,それから静脈が出ている.

 リンパ節はリンパ細胞の成生する所であり,この細胞は皮質小節と髄索のリンパ様組織のなかで作られる.新しく生じたリンパ細胞はリンパ路のなかにさまよい出て,それから輸出管の内容の成分となる.

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 じっさい輸出管には輸入管よりはるかにリンパ細胞の多いことが以前からすでに知られている.

 神経:動脈と共に細い有髄および無髄の線維がリンパ節のなかに達している.それから細小の線維が固有のリンパ性組織にすすんでいる.

3. 胸腺Thymus, innere Brustdrüse(第2巻参照)
4. 脾臓Lien, Milz(第2巻参照)
5. 血リンパ節Haemolymphonodi, Blutlymphdrüsen

 Fr. Leydigが最初に記載したように,多くの哺乳動物には血リンパ節Blutlymphdrüsenというものが存在している.これは胸大動脈の走行に沿ってみられ脾臓と同じように暗赤色を呈し,その割面をみてもこれとよく似ている.すなわち暗赤色の髄のなかに白色をおびた細胞集団があり,これは脾臓のマルピギー小体Malpighische Körperchenに相当する.

 血リンパ節は輸入リンパ管も輸出リンパ管も持つていないことが特にリンパ節と異なるところである(Weidenreich, Baum. Schumacher).被膜の下にある非常に広い周辺洞Randsinus(図712)にはリンパ細胞と白血球のほかに,多数の赤血球が存在する.この赤血球は密に集まって周辺洞をみたしている.血リンパ節のリンパ様組織は内方にあって門の方に向かってかたまっており,しかも血液のはいっている広い空所で貫かれている.この空所は周辺洞につづいて,これと同じ内容をもつのである.周辺洞に向かって胚中心をもった血リンパ節のリンパ様組織の部分がこぶの様に突出している.

 血リンパ節の意義は血球の破壊にあって,血球は食細胞Phagocytenにとらえられ変化させられるのである (Lewis).

 Schumacher(Arch. mikr. Anat.,81. Bd.,1912)によると血リンパ節はその他のリンパ節と厳密な区別が森いのであって,普通のリンパ節の退化型とみてよいとのことである.

 すなわち輸出管も輸入管も持たない,それゆえ上に述べた血リンパ節の定義に合いそうであるが,その洞のなかに血球をもたないリンパ節がある.また本当のリンパ節(すなわち輸入管も輸出管ももっている)でその洞のなかに血球をもっていることがある.

6. 骨髄Medulla ossium, Knochenmark(57頁参照)

リンパと乳ビのこと,およびリンパ管系の役目について

 リンパはうすくて透明であり,無色で白いか,あるいはわずかに黄色をおびていて粘り気のある液体であり,比重は1017である.これは胸管と右リンパ本幹を通って大量に血液にはいる.イヌでは1日に胸管を通過するリンパの量が体重の20~25%であるのに全血量はわずか6~7%である(LudwigとW. Krause).

 有形成分としてリンパは次のものをもっている.すなわちリンパ球(白血球),およびごくわずかの赤芽細胞,そのほか非常に小さい脂肪粒である.この脂肪粒は特に腸のリンパ(乳ビ)管のなかにあってそこから胸管に達する.脂肪食をとったときにはこれが非常に増加し,そのために乳鷹と乳鷹管および胸管が白色をていするようになる.このことによって初めて胸管が発見されたのであって,生きている動物において乳ビを含んだリンパの流れが鎖骨下静脈に入ることが見いだされた(J. Pecquet,1674, イヌにおいて).そのほかのリンパ管では脂肪粒がごく少ない.リンパ節より末梢にあるリンパ管の部分では,そこを流れている混り物のないリンパの中にはリンパ球も非常に少ないか,あるいは全く存在しない.ここにリンパ球がみられる場合は,それは毛細血管の壁からリンパ路にでていった白」血球,あるいはそのほかの遊走細胞なのである.

 リンパ漿Lymphplasmaは血漿と同じように凝固現象をていするが,その起り方はいっそう遅い.

 線維索を除いたリンパ漿をリンパ清Lymphserumという.リンパ漿は血漿とだいたい同じ化学成分を持つている.これは何も不思議なことではなく,リンパ漿は毛細血管から周囲の組織に,あるいは直接にリンパ路にはいっていった余分の血漿であって,組織がそれから一部の成分を取り去り,何らかの分解産物を加えたものなのである.

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それゆえリンパ漿のなかには水分,塩類,アルブミン質,レシチン,脂肪,糖,尿素,抽出性の物質が存在し,また気体としてはほとんど炭酸ガスだけが含まれる.

 乳ビChylus(Milchsaft),すなわち腸のリンパDarmlympheの普通のリンパとの本質的なちがいは脂肪消化のときに脂肪を多く含有するということだけである.すでに述べたように脂肪はごく細かい粒の状態で存在している.乳ビは小腸や小腸間膜の乳ビ管,ならびに腸リンパ本幹や胸管にあるのみでなく,小腸間膜内のリンパ節にも存在する.消化のとき以外には上に述べたリンパ管系はすべて普通のリンパを通じている.

 リンパ管系についてのすべての記載をまとめてその主な役目を次のように総括することができる.

1. リンパ管は体の組織を養うために毛細血管から出てきた組織液を導き出すものである.

 リンパの求心性の流れは静脈血の流れと同じ力によって保持され,また促進される.リンパ節ではリンパの流れが遅くなるが,その被膜と梁柱にある平滑筋はある程度その流れを促進する特別なものとなっている.

2. 毛細リンパ管は毛細血管とともに組織を養う役目をなしていて,そこに栄養物を送りとどけ老廃物を導き出す.

3. リンパ節はリンパに,またそれを通して血液に若いリンパ細胞を絶えず供給している.

4. リンパ節はリンパの流れを濾過して清浄にし,それは同時に血流をもきれいにすることになる.

5. 乳ビはリンパに,またそれを介して血液に腸の絨毛の中心乳ビ腔からはいってきた物質を運び,それには細かく分れた脂肪粒もある.

6. 胃と腸の粘膜の毛細リンパ管,および毛細血管がどのようなぐあいに乳ビの吸収にあずかっているかはまだ充分に分かっていない.一般の考えでは血管が拡散可能の物質,たとえば水,塩類,糖,グリセリン,鹸化物,ペプトンを吸収し,またある種の毒物も血管によって受け入れられる.それに対して乳ビ管は強いコロイド性をもつ物質(蛋白)と,不溶解性であって細かい粒子に分れる物質,たとえば脂肪の乳濁液のようなものを受けとるというのである.

7. リンパ節が白血球を生産するとともに赤血球の生産にもあずかっているかどうかは疑わしい.またそこで血小板ができるかどうかもはっきりしない.

[図713] リンパ管系の概観

 H 心臓;A 大動脈;C毛細管の領域;V 大静脈;L リンパ管の幹;Ch乳ビ管の幹;L'2つの部分が合してできた幹;* リンパ管の幹が静脈系に開くところ. I リンパ管の毛細管領域;II乳ビ管の毛細管領域;III, III リンパ節;1, 2, 3, 3つの小腸絨毛洞.

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最終更新日 13/02/04

 

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