Rauber Kopsch Band2. 13

甲状腺Glandula thyreoidea, Schilddrüse

 甲状腺は上方に向かってひろがっている2つの側方部,すなわち右葉左葉Lobus dexter et sinisterからなっていて,これらは[甲状腺]Isthmus glandulae thyreoideaeという幅のせまい中間部でたがいにつながっている.甲状腺の前面と側方面は凸であって,気管と喉頭のところで長めで円みのある高まりを生じている.後面は気管と喉頭に接していてそれに相当して凹面をなしている.

[図225]上下の上皮小体Glandulae parathyreoideae craniales et caudales後方からみたところ.

 舌骨下筋群は甲状腺を不完全に被っている.頚筋膜の中葉は甲状腺の表てを通る.甲状腺は多くの場合,ずつつと後方までのびて咽頭に接し,また左側は食道にも接している.後縁は左右とも太い血管を包む鞘に接している(図76, 77,88, 223226, 232).

 局所解剖:左右両葉は5 N8cmの長さで,2~4cmの幅をもち,また中央部で1.5~2.5cmの厚さがある.右葉は左葉にくらべてたいてい幅も長さもやや大きい.両葉の主軸は下方から斜めに上後方に向かっている.両葉とも第5と第6気管軟骨から甲状軟骨の後縁までのびており上方では摩さを減ずる.結合組織が両葉を気管と輪状軟骨と甲状軟骨に固着せしめている.

 は人によって大きさと形に相違があり,ときには全く存在しないこともあるが,幅はだいたい1.5~2cm,厚さは0.5~1.5 cmであり,ふつう第3と第4の気管軟骨の上にある.峡の上縁から,あるいは左右の両葉のうちの1つ(通常は左葉)から錐体葉Lobus pyramidalisとよばれる腺実質のかなり長い突起が舌骨に向かって上方にのび,ちょうど甲状軟骨の左板の上にのっている.錐体葉はときどき上方が下方より太くなっていたり,他の甲状腺の部分から分離していたり,あるいは2つの部分に分れていたりする.錐体葉は2例に1例の割で存在する.(日本人の甲状腺の両葉の長さは左2.6~4.5cm,右3.1~4.5 cm,幅は左1.1~2.0cm,右1.6~2.5cm,厚さは左1.1~2.0cm,右1.1~2.5cm, である.錐体葉は71.7%に存在する(尾関才吉,東京医会誌24巻1号,1910).)

 甲状腺挙筋甲状腺下制筋Mm. levator et depressor glandulae thyreoideaeについては第1巻394頁を参照されたい.

 甲状腺の重さは30grから60grの間にある. Wagenseilによると17.7grから28.1grであるという.(日本人の成人甲状腺の平均重量は男19.17gr,女15.24 gr(岡暁,京都医誌38巻,昭和16年下).あるいは男19.18gr,女16.78grである(佐藤文一,東京医大誌8巻3号).)

甲状腺は地方的によくあらわれるいろいろな種類の病的肥大をおこすことが少くない(甲状腺腫Kropf, Struma).甲状腺の色は通常は暗赤褐色であるが黄色がかつていることもある.

S.168

[図226]胸腟の内臓の位置 III

 後縦隔の諸器官を左側から剖出してある.左肺は右に折り返してある.頚部では前斜角筋を取り除いてある.

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[図227]胸腺右葉の横断図 37才の男.

[図228]ハッサル小体と胸腺実質 図227と同じ標本の一部を強拡大.

[図229]上皮小体の横断図 ヒト

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 甲状腺は固くて,粗なでこぼこをもっている.[甲状腺]被膜Capsula glandulae thyreoideaeは薄い膜で,甲状腺の表面を被っており,血管をともなう中隔を腺のなかに送っている.こうして大小の[甲状腺]小葉Lobuli glandulae thyreoideaeが作られる.腺を構成するものは密に相集まった小さい球状の小胞Follikelであって,これはどの側も閉じて添る嚢の形で,その壁は1層の丈の低い円柱上皮と繊細な基礎膜,およびそれらを取りかこむわずかな結合組織からできている.小胞を満たしている液体は蛋白を多く含み,いわゆるコロイド質をなしているが,またコレステリンの結晶が含まれていることもある(図222).

 血管:甲状腺には太い動脈,すなわち上下の甲状腺動脈がはいっている.ときには最下甲状腺動脈もあり,これらの枝は終動脈である.動脈は枝分れして豊富な動脈係蹄を作って個々の小胞をとりまいている.動脈に相当してよく発達した静脈がある.静脈は内頚静脈に入るが,最下甲状腺静脈はたいてい直接に左腕頭静脈か静脈角に達している(図223).

 甲状腺の神経は極めてたくさんある.神経は結局主として迷走神経と交感神経から来ている.またおそらく舌咽神経からも来ているようである.これらは腺の表面の被膜のなかで神経叢を作る.この神経叢は上心臓神経から来る上甲状腺神経Nn. thyreoidei craniales,中心臓神経から来る中甲状腺神経Nn. thyreoidei medii,鎖骨下神経叢と下頚神経節から来る下甲状腺神経N. thyreoideus caudalisによって作られている.さらに頚動脈神経叢や上・下甲状腺動脈神経叢からの枝,上喉頭神経,反回神経,迷走神経の上および中心臓枝からの枝,咽頭神経叢および舌下神経係蹄からの枝によってできている.最後に述べた舌下神経係蹄の枝は舌下神経の線維は含まないで迷走神経と交感神経の線維を導いている.

 甲状腺から来る上方のリンパ管は上深頚リンパ節にすすみ,下方のリンパ管は気管リンパ節と下深頚リンパ節に達している.左右の両葉のリンパ路は峡でたがいに合するが,両葉のリンパ路の交叉もみられる.さらに左右両葉の脈管のあいだに吻合がある.

 変異:副甲状腺Glandulae thyreoideae accessoriae, Nebenschilddrüsenの存在はまれではない.これに上・下・外側・中のものがある.特に興味があるのは中副甲状腺であって,とくに舌骨上副甲状腺Glandula accessoria suprahyoideaと呼ばれる.中副甲状腺は錐体葉から舌盲孔のところまで伸びていることがあり,たいていは舌骨の前を通り,まれには喉頭と気管の内壁を通っている.これは腫瘍や舌嚢腫をおこすことがある.

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最終更新日 13/02/03

 

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