Rauber Kopsch Band1. 16

β)自由上肢の骨Ossa extremitatis thoracicae liberae

1. 上腕骨Osbrachii, Oberarmbein = Humerus(283, 284, 287, 288, 361)

 上腕骨の上端部には内側にほず半球状の関節頭すなわち上腕骨頭Caput humeri, Oberarmkopfがあって,これは解剖頚Collum anatomicumという輪状の溝によって,この骨の残りの部分から表面的にわけられている上腕骨頭の外側には1つの強く突出した部分があってこれを大結節Tuberculum majusという.その前方には縦走する深い溝にへだてられて小結節Tuberculum minusがある.

 両結節にはそれぞれその側方の粗面と,上部の滑かな面とが区別される.すなわち大結節の上部の滑面は上・中・下の3領域を示し,それぞれ棘上筋群,棘下筋群,小円筋の付着部になっている.また小結節の上部の滑面には,肩甲下筋の付着する領域が1つあるだけである.両結節のあいだには結節間溝Sulcus intertubercularisという溝があって,ここを上腕二頭筋の長頭の腱が通る.両結節の下方の部分を外科頚Collum chirurgicumとよぶ.大小の結節からそれぞれ1本の隆起線が骨幹へのびている.これが大結節稜Cristatubercul'imajorisと小結節稜Crista tuber culiminorisであって,前者には大胸筋,後者には広背筋と大円筋が付く.

 上腕骨の骨幹は上腕骨体Corpus humeriとよばれ,上部ではほぼ円柱状であるが,下部では3面をもっている.上腕骨体のおよそ中央には,その外側面に大きい三角筋粗面Tuberositas deltoideaがあって,三角筋の付着部をなしている.同じく外側面で,その下方に1本の浅い溝が走っている.この溝はうしろからラセン状に外側面へ伸びて,まもなく消えてしまうもので,橈骨神経溝Sulcus nervi radialisとよばれる.内側面には1つの大きい栄養孔があって,下方へ走る管に通じている.

 上腕骨体の三角柱状の下端部には2つの鋭い稜すなわち尺側緑Margo ulnarisと橈側縁Margo radialisがある.下端の結節状の関節頭は上腕骨顆Condylus humeriとよばれ,形態を異にする2つの部分すなわち外側の上腕骨小頭Capitulumhumeriと,内側の上腕骨滑車Trochlea humeriとからなり,両者のあいだに1本の溝が走っている.滑車はその中央の近くに導溝Führungsrinneをもっている.

 滑車の上方の前面に烏口窩Fossacoronoideaとよばれる著しいくぼみがあって,腕を強くまげるときに尺骨の烏口突起をいれる.小頭の上方には同じく前面に浅い橈骨窩Fossaradialisがある.後面には深くて広い肘頭窩Fossa olecraniがみとめられ,腕を伸ばすとき肘頭がここにはいる.肘頭窩の底は烏口窩のごく近くにまで来ていて,ここに孔ができていることもある.

 上腕骨顆の両側には結節状のたかまりが出ている.内側へ出ているものの方が大きくて,同時に多少うしろに向っており,橈側に出ているのはずっと小さい.これをそれぞれ尺側上顆および橈側上顆Epicondylus ulnaris, radialisと呼ぶ.両上顆は上方では上述の上腕骨体の尺側縁と橈側縁につづいている.尺側上顆の後面には尺骨神経溝Sulcus nerviulnarisという深い溝があって,尺骨神経がここを走る.

 尺側上顆の上方に顆上突起Processus supracondylicusという突起がかなりの例にみられる

(Adachiによればヨーロッパ人で1%,以外の人種で0.4%) (日本人では極めて稀とされている.)この突起から1条の靱帯が尺側上顆に達し,これが円回内筋の起始となっている.この突起のしろを上肢最大の神経,正中神経が前方へ走っている.これに相当する上腕骨顆上孔Foramen supracondylicum humeriは多くの動物で常在し,たとえばネコがそうである.

  各稜の走向は上腕骨の長軸を中心としたねじれを示している.すなわち下端部は上端部に対して180°(日本人では男150°, 女160°(鈴木・小金井・宮本による).この角度は未開人で小さく,胎児でも小さいという.宮本博人, 人類学雑誌14巻219~305頁.),中央では160°ねじれており,下端部のもと前面であったところが今は後面をなし,前に外側にあった上顆が内側すなわち尺側に位置を占めるといったぐあいになっている.

S. 206

[図287, 288]右の上腕骨

      図287は伸側(後面),図288は屈側(前面)

S. 207

2. 橈骨Radius, Speiche(図285, 286, 289, 290, 292, 363)

 上端は関節をなしていて橈骨小頭Capitulum radiiとよばれ,その上面にある橈骨小頭窩Fovea capituli radiiをもって上腕骨小頭に対する関節窩をつくっている.橈骨小頭の側面も関節面になっていて,関節環状面Circumferentia articularisとよばれ,尺側の方が高くなっている.これは尺骨の橈骨切痕Incisura radialis ulnaeと橈骨輪状靱帯Lig. anulareradiiとの中で橈骨が動くための回転面をなしているのである.橈骨小頭はくびれた円柱状の橈骨頚Collum radiiという部分のさきについている.

 骨幹部は橈骨体Corpusradiiとよばれ,上部では円柱状であるが,下方にゆくと3稜をもち,また全体として軽く橈側へ向って凸の曲線をえがく.橈骨頚の少し下方の前面に橈骨結節Tuberculum radiiという,もりあがってザラザラした場所があり,ここに上腕二頭筋の腱の主体が付着する.前後の両面はそれぞれ掌側面Facies volarisおよび背側面Facies dorsalisとよばれ,両面の合するところに骨間稜Crista interosseaという鋭い稜線をつくっている.

 外側面すなわち橈側面Facies radialisへこれら両面が移行するところは,背側縁Margo dorsalisおよび掌側縁Margo volarisとよばれるはなはだ丸みをおびた稜線をなしている.

 外側面の中央には円回内篩が付着するための回内筋粗面Tuberositas pronatoriaというザラザラした場所がある.掌側面には,橈骨の中央3分の1の上部で,掌側稜の近くに,上方へ向って侵入する栄養孔が1つみとめられる.

 下端部は広くて厚く,不規則なかたちで4稜をもち,さらに2つの関節面をもっている.すなわち下方の手根関節面Facies articularis carpicaは凹面をなして2つの領域からなり,手根の舟状骨および月状骨と関節結合し,尺側の小さい尺骨切痕Incisura ulnarisはこの面に垂直で,後方へむかつて落ちこんだ凹面をなし,その中で尺骨の小頭が動く.外側端にはあまり鋭くない突起が下方へ伸びている.これが茎状突起Processus styloidesである.

3. 尺骨Ulna, Elle(図285, 286, 289291, 362)

 尺骨の上端は上腕骨との結合のために,大きくくぼんだ関節面をなしている.これが半月切痕Incisura semilunarisで,前方に向いて開いており,その後上壁は尺骨体の延長をなして伸びる肘頭Olecranonという太い突起で囲まれ,また前下壁は烏口突起Processus coronoides(日本解剖学名では肩甲骨のProc. coracoidesと区別することができない.)によってつくられている.烏口突起の基部から下方へかけて,大きい三角形の粗面があって尺骨粗面Tuberosita sulnaeという.

 半月切痕の関節面は上方から下方へえぐりとられた凹面をなし,その中央の部分がくびれて狭くなっており,橈側縁の近くには関節運動を導く隆線Führzangsleisteをもっている.烏口突起の外側面には,半月切痕の関節面につながる橈骨切痕Incisura radialisがあって,橈骨小頭と接している.

 骨幹は尺骨体Corpus ulnaeとよばれ,橈骨と同様に骨間稜Crista interossea,背側縁Margo dorsalis,掌側縁Margo volarisならびに3つの面をもっている.

 3面のうちの2つ,掌側面Facies volarisと背側面Facies dorsalisは橈骨の同名の面に相当するが,残りの1面は尺側面Facies ulnarisである.背側面の上部には橈骨切痕の後縁にはじまる回外筋稜Crista supinatoriaがみとめられる.

 下端は円柱状をなして且つふくらみ,こぎれいな尺骨小頭Capitulum ulnaeをなしている.尺骨小頭の内側には茎状突起Processus styloidesが伸びだしている.下端部の関節面は関節円板に面しているが,そのほかにこの部分には橈側面に1つの関節面があゆ,これは関節環状面Circumferentia articularisとよばれる.

S. 208

[図289]右の尺骨と橈骨 前面(2/3)

[図290]右の尺骨と橈骨 後面(2/3)*長母指伸筋をとめておくための隆起

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最終更新日 13/02/03

 

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