Band1.017   

3. 物質代謝および成長の機能Funktionen des Stoffwechsels und des Wachstums
a)物質代謝Stoffwechsel

 物質代謝は物質を摂取し,それを変化させて,また物質を排出することである.それらの物質には気体,液体および固体のものがある.

 動物の細胞tierische Zelleに養分として役立つものは,その化学的組成がその細胞を構成している物質に近い一致をもつものでなくてはならない.植物の細胞pflanzliche Zelleでは事情が大いに違っていて,これは合成の仕事を営むようにできている.われわれのみる所では,細胞の栄養という問題で直接にはたらいているのは副形質Paraplasmaであって,これは蛋白質やその他の栄養物質の溶けた液体であり,生命のやどる細胞核や細胞体内の線維のまわりを浸しており,これらに必要なものをあたえ,老廃物をこれらから取り除き,また浸透圧をもひきつづき作っている.

 細胞の内部で行なわれる物質の変化は多様のものであって,その一部は生理化学physiologische Chemieの研究すべき領分に属する.他の一部はわれわれが細胞の分化Dfferenzierungをしらべるばあいに,細胞の内部や表面や脂肪の外にみられるものとして,直ちに遭遇するのである.広汎にわたるその変化のなかからここでは次のことだけをあげておこう.その変化に伴ってできたものが細胞をでてゆき,いろいろなぐあいに利用され,あるいは体から外に捨てられる.最後に述べたのは例えば尿素,尿酸,炭酸ガスなどのような多量の本当の分解産物である.しかしまた乳汁のようになお一定の役目をもつ代謝産物もこの分に数えることができる.それ自身の体に特別に利用されるのは腺の分泌であって,例えば肝臓の細胞がつくる胆汁,胃の腺細胞がつくる胃液,唾液腺の分泌物,ならびに皮膚の視線でつくられる皮脂,および種々のホルモンhormoneである.ホルモンは一定の(おそらくはすべての)器官がこしらえる物質であって,それが血管のなかを通って,他の器官を刺激して,その働きを高めたり,あるいは抑えたりする.

 電子顕微鏡やその他の方法によって超構造Ultrastrukturがわかってきた.また局所化学Topochemie (Voss, "Mikroskopie" Bd. VII,1952)は構造を保ったままで細胞および組織の化学的組成をしらべるのである.他方,組織化学Histochemieは構造を保つことなく,上と同じ対象を研究するのである.

 生きている原形質内で行なわれている化学作用Chemismusは非常にむつかしいことがらである.無機体Anorganismusの化学と有機体Organismusの化学とを区別する主要な標準は何であるかを決定することをC. Wendtが1894年に企てた.(Jen. Z.1894).普通gewohnlichの化学反応においていつでも必要なもとそして,彼は次のことを数えている.たがいに異なる2種の物質の摂食,溶解する液ないし伝導をつかさどるもの,電気の流れ,体積の変動,熱エネルギーの変化,科学的な集団作用.これらの必須条件のなかの1つだけ,すなわち科学的な集団作用のみが原形質に特有な化学反応には欠けている.それゆえに生活体の反応では化学的平衡状態が起こらない.原子エネルギーが平均して落ちつくということがない,すなわちエントロピーの極大ということが不可能である.原形質に特有な反応は原形質の毛細管のなかで起こるのであって,これが化学者のレトルトのなかで起こる集団反応とちがうのは原子の間ないし原子群(基Radikale)の間の個々の勝負が狭い路でなされるのに,他方は広い戦場で大軍の間で激戦がなされるようなものである.個々の勝負での勝利者が負けた方の原子を従えてゆく,そして限りない複雑さの結合が達せられるのである.つぎに植物原形質Phytoplasmaとして特徴的なものを動物原形質Zooplasmaと比較して,それらの化学作用の主な差異として認められることは,それぞれが違った毛細管引力をもつので科学的取引が2つの相違なる種類となるのである.植物原形質は濃密にし,動物原形質は分裂させる.しかしこれはもちろんごく大体においてのことであって,決してそれのみがおこるのではない.

 Hofmeisterはこの問題を別の方向から解こうと試みた.彼は原形質のすでに知られている形態学上の特色から出発するのでなく,その逆に原形質がその化学作用を完全になすことができるためには,それがどんなぐあいにできていいなければならないかという問題を考えてみたのである.肝細胞という具体的な1例にむかって非常にはっきりした,誰でも合点がゆくような考察が加えられた.われわれが今日持っている知識によれば肝細胞のなかで10あまりおそらくもっとそれより多い数の化学現象がごく小さい場所のなかでならんで行なわれている.その場所の広さは止め針の頭の約10万分の1とおもわれるのである.肝細胞は糖からグリコーゲンをつくり,またグリコーゲンから糖をつくる.アミノ酸およびアンモニアから尿素と尿酸をこしらえる.また血液の色素を分解して,それから鉄を分離させてビリルビンをつくる.胆汁酸を生ぜしめて,これをグルココル野タウリンと結合させる.またフェノールと残余硫酸とをあわせてエーテル硫酸をつくるし,なお肝細胞じしんを栄養するために諸現象がある.どうしてこんなにたくさんのいろいろの過程が隣りあって,そんなに小さい場所で起こりえるのであろうか?

S.017   

最終更新日09/07/13

 

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