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 Karplus (Z. Zellforsh.,10. Bd.,1929)は人間において1組の核係蹄がいつもその染色体の1つ一つが形と大きさが定まっていることを証し得なかった.また人間では異染色体を見つけることができなかった.(人間における異染色体の存在は今日では確立している(小川鼎三).)

B. 直接分裂あるいは無糸分裂direkte oder amitotische Teilung

 Flemmingの定義によれば無糸分裂というのは細胞分裂および核分裂の一型であって,これには紡錘の形成がなく,染色体が規則正しくつくられることもなく,また染色体が定まった形および順序に位置を変えることもないのである.

 1個の細胞とその核が亜鈴状にくびれて,そのあいだを連ねる部分が細長く伸びて,そこがついに切れる.または1個の細胞が2つの核をもつようになって,そのうちの1核が原形質の一部とともに芽が出るように残りの部分から離れる.白血球ではこのような無糸分裂がみられる(図38).もっとも白血球では有糸分裂もおこるのである.

 有糸型の核分裂はとくに受精卵から胎児ができてくる途中では圧倒的に多くみられるが,個体の生存する全期間を通じてもやはりこれがはなはだ多く見られるのである.無糸分裂はそれに比べるとずっと稀である.Krompecher (Z. Anat. Entw.,107. Bd.,1937)およびPfuhl(同上誌,109. Bd.,1938)は,有糸分裂はまだ1つの方向にある程度以上に分化をとげていない細胞におこるもので,それに反して無糸分裂は1つの方向に分化をとげた細胞の核の最終的な分裂であると論じた.同様な意見はすでにFlemmingおよびZiegler (Anat. Anz.,12. Bd.,1896)が述べたところである.

 Hoepkeによればコウモリやハリネズミの脾臓の細胞では有糸分裂が圧倒的に多くみられる(Verh. Ges. Naturw. Marburg,1922, およびStöhr. Z. mikr.-anat. Forsch., 36. Bd.,1934を参照のこと.-Peter (Z. Anat. Entw., 75. Bd.,1925)によると,無糸分裂は“細胞に分裂の必要が迫って,しかもその細胞の特殊な活動を中絶できない”立場にあるときにおこるのである.無糸分裂は細胞の活動をじゃますることがないのである.(Peter, Z. Zellforsch. 30. Bd.,1940).

[図38]カエルの白血球における直接分裂.(Arnoldによる.)

5. 細胞の寿命Lebensdauer der Zellen

  受精した卵細胞から出発して,ひきつづき分裂がおこなわれて,はなはだ数多くの細胞ができて,これが組織や器官にまとまって生物体をなすのである.そのほんの一部にすぎない少数のものが生命の繁殖をその任務とする胚細胞Keimzellenとなる.そしてそれを除いた他のすべての細胞は遠かれ近かれ死滅するのである.しかもすでに胎児の時代にもいろいろな具合で,細胞の真の破滅がおこるのであって,これは全く生理的な現象である.例えば上皮細胞が剥げてゆくこと,,腺細胞が溶けて死ぬこと,胎児や臍帯といっしょに胎児被膜が外にだされること,骨化のときに軟骨組織が壊されること,骨の成長に伴って骨の吸収がおこるときに骨組織がこわされること,軟骨発生にあたって骨の吸収がおこるときに骨組織がこわされることなどである.またそれほどめだつ程度でなくても生涯の全体を通じてみると,たとえ毛の脱けて落ちることや月経のときの出血のような著しい高度の損失を除外視しても,古くなった細胞が滅びてゆくという現象は多くの種類の組織でおこなっている.そのさい病的な破滅もしくは消滅の明瞭なしるしはないのである.

 それゆえ,非常に数多くの細胞がそれが属する個体よりも早く死ぬのである.その属する個体と同じだけ長く生きる,すなわち個体発生の初めからその死滅まで生きるのはどの種類の細胞であるかという問題は当分まだ確実には答えられないが,おそらく神経組織がそれであろう.

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最終更新日13/02/03