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 特別な種類の突起が網膜の色素上皮の細胞にみられる.それは原形質の突起であって,色素顆粒をもっていて,この顆粒は細胞に光の当たるときとあたらないときで位置を変えるのである(図59).おのおのの細胞がそういう突起をたくさんにもっている.

 また腸上皮細胞の自由面は独特な形態をしめしている.そこにあるStäbchensaum(小棒縁)[いわゆる小皮縁Kutikularsaumと同じものを指す.(小川鼎三)]あるいはPorensaum(小孔縁)の微細構造を正確につかむことは困難である.この縁がたくさんの縦の方向に平行したすじをもっていることは容易に分かる.しかしおそらくこれは細胞の原形質が指状の突起をたくさんに出して,それをとりまいて特別な小皮性の部分があるのであろう(図56).これについてはR. HeidenhainとOsawaの研究がある.

 上皮細胞の外面の分化でいま一つ別の形のものはいわゆる刷子縁Bürstenbesatzである.Lieberkühnの腸腺,胃底腺,腎臓の迂曲した尿細管では分泌がおこなわえているあいだ,その明瞭さに多少の差はあるが細かい動かない毛あるいは小棒の形をしたものが細胞の自由単に衣服の辺飾りのように着ている.それが分泌のとき以外は消えてなくなるのである(Nussbaum, Arch. mikr. Anat., 27. Bd.,1886).

 ここで感覚器の上衣細胞にみられるいろいろと特色のある分化について述べるべきであるが,それは感覚器の項にゆずることとする.

 上皮細胞の内部の分化がまた実に多様である.その1つとして角膜および水晶体の上皮細胞はその原形質が全く明るくて,透明な性質をもっていて,光線がそこを通過するのに最もよく適している.そのちょうど反対が色素上皮細胞であって,その原形質は多数の小さい,不透明な小体を含んでいて光の通過をさまたげるのである.

 いま一つやはり明るくて透明な,しかもはなはだ薄くひきのばされて核を失った上皮性のものが肺の呼吸上皮にある.ここにはその他に顆粒にとみ,核をもった小さい上皮細胞もある.

 内部の分化として興味のある1つの型は上皮細胞の石灰化Verkalkungであって,これは正常な現象として,歯のエナメル質形成に起きる.長い棒の形をしたエナメル小柱のおのおのがそれぞれ1個の上皮細胞の石灰化した部分なのである.この石灰化上皮細胞Kalk-oder Titano-Epithelzellenに対して空気化上皮細胞Aëro-Epithelzellenというのがある.後者では空気が上皮細胞間の迷路中に侵入して,そおで栄養液を押しのけている.それは白髪の若干の場合,なお爪のしくみ得る場所がこの状態である.空気は細胞間隙から細胞じしんの中まで入り込んでいることがある.

 全身にわたって大きい広がりをもっているのが角化Verhornungの現象である.角化は例えば毛の表面の毛小皮におけるごとく細胞の全体に完全におこっていることと,表皮の爪の角質層におけるごとく不完全なものとがある.角化の現象は典型的な場合には次のごとく進行する.ある細胞層にケラチンの前進をなすいわゆるケラトヒアリンKeatohyalinが粒状にあらわれて,これがそのとなりの層では液化しており,次いでこの液化したケラトヒアリンがさらにその向うにある角質化上皮細胞Kerato-Epithelzellenあるいは角質小鱗Hornschüppchenのケラチン膜の形成を引き起こすのである.

[図55]角膜の上皮細胞をばらばらにしたもの.×700.

[図56]円柱上皮(ヒトの回腸の切片)×1000.

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最終更新日13/02/03

 

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