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しかし第7頚椎の棘突起じしんは,長さにおいても太さにおいても,その他の頚椎の棘突起をしのぎ,ほとんど水平に伸びて,皮膚の上から容易に触れることのできる,かなり強い高まりをつくっている.この脊椎が隆椎Vertebra prominensとも呼ばれるのはそのためである.

 椎孔は円みを帯びた三角形で,胸椎や腰椎のそれよりも広い.

 第6頚椎の前結節は他の頚椎のそれよりも長く突起し,そのため頚動脈結節Tuberculum caroticumという高まりをつくっている.たいていの哺乳類動物では,頚動脈結節が板状に強く発達しており,この状態はヒトではしばしば現われる.前結節は第7頚椎ではひっっこんでいて小さい.しかし時にこれがいっそう著しく発達し,独立した1個の可動性の肋骨となることがあり,この肋骨が胸骨に達していることさえある.

 Okamoto (Anat. Anz., 58. Bd. )は第7頚椎の横突起の前結節を,ヨーロッパ人において約80%にみとめているが(岡本規矩男.“niedere Rasse”としてブッシュマンと東インドオーストラリア人の骨をみている.日本人については,「たいていの場合前結節はよく発達している」と述べている.),下等人種においてはわずかに37%しか見えていない.

 第1頚椎すなわち環椎Atlasには,前方に弓状部すなわち前弓Arcus ventralisがあり,その前端には1つの小さな高まりすなわち前結節Tuberculum ventraleが見られる.また前弓の後面には歯突起関節面Facies articularis dentalisという1つの関節面があって,軸椎の歯突起がこれに接して滑る.側方には大きい骨質塊があって外側塊Massa lateralisという.上方の2つの関節面すなわち上関節面Foveae articulares craniales, Occipitalpfannenは卵円形で,前方にゆくほど左右のものが近づき,前後方向に凹面をなしており,正中面にむかって落ち込むように傾斜している.この関節面が2つの部分に分離していることも稀ではない.下方の関節面すなわち下関節面Facies articulares caudalesはほぼ円形で,平ら,またはややへこみ,下内側かつやや後方に向かっている.外側塊の内側面には,各側1つずつの円みをもつ小さい高まりがあり,そこには環椎横靱帯の付着する所に当たってへこみがあって,そこはザラザラしている.環椎の左右の外側塊の後端からは,よく発達した後方の弓状部すなわち後弓Arcus dorsalisが起こって環を後方で閉じ,棘突起のかわりに後結節Tuberculum dorsaleをもっている.後弓の上面には外側塊に近いところに椎骨動脈溝Sulcus arteriae vertebralisという溝がある.この溝は骨部におおわれて孔になっていることもある.

 第2頚椎すなわち軸椎Epistropheusでは,前方の部分がつよく発達していて,ここに歯突起Densという柱状のたくましい突起がある.環椎はこれを軸として頭蓋と一緒に回転するのである.この突起は上端部は太くなって,その先端は鈍く,歯突起尖Apex dentisとよばれる.またその下部はやや細くなっている.歯突起の前面には環椎の前弓と結合するための1つの関節面があり,前関節面Facies articularis ventralisとよばれる.また歯突起の後面には環椎横靱帯が接するための浅い平滑な溝があり,後関節面Facies articularis dorsalisという.

 軸椎の体は下方へ向かっていくらか細くなって伸びているが,それは第3頚椎の上面に適合するためである.椎体の前面には正中部に低い隆起線があり,その両わきに2つの浅いくぼみがある.外側関節面Facies articularis latealisは大きくて,ほとんど平坦で,外後方へへ傾いている.下面には関節突起と関節面とがあり,以下の頚椎がもつものに相当していて,これについてはすでに述べた.椎弓の閉鎖部はがっちりして非常に大きく,凹凸があって先が2つのとげばった部分に深く分かれている.肋横突起は短く,脊髄神経溝がかすかに見える.肋横突孔は肋横突突起を下内方から上外方へと斜めの方向に貫いている.

β)胸椎vertebrae thoracicae, Brustwirbel (図178,180, 207)

 胸椎の体は前の方では後の方よりも高さがやや低く,円みを帯びた三角形あるいはハート形の上下面をもっている.

 椎体は第1から第12胸椎へ次第に高さを増す(図207).矢状径も下にゆくほど大きくなり,中ほどの胸椎では横径とほぼ同じ長さになる.第1および第2胸椎体は矢状径よりも横径の方が大きいことを特徴としている.下位の胸椎の体も幅を増し,腰椎の体の横に長い卵円形に移行している.

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最終更新日13/02/03

 

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