Band1.158   

 

ε)側頭骨Os temporale, Schlafenbein (図215, 224, 225, 227233)

 側頭骨は頭蓋の底と側壁の形成に与り,後頭骨・蝶形骨・頭頂骨のあいだの間隙をふさぎ,また聴覚器の最も重要な部分を蔵している.側頭骨は錐体乳突部・舌骨部・鼓室部・鱗部の4部分からなる.

錐体乳突部Pars petromastoidea(錐体部と乳突部)および舌骨部Pars hyoidea

 錐体部(岩様部)Pars petrosaすなわち錐体Pyramisを横たわる角錐と見れば,その底は乳頭物で形成され,その縦軸は前内側にむいている.

 前面は錐体の大脳面Facies cerebralis (anterior interna) pyramidisである.その側頭鱗との境は錐体鱗裂Fissura peterosquamalisであるが,これは若い人にしかはっきりみられない(図225).大脳面は少し前方へ傾斜していて,中頭蓋窩の一部をなし,またいろいろ特異な点を示す.錐体の尖端の近くにある浅いくぼみは三叉神経圧痕Impressio trigeminiとよばれ,三叉神経の根と半月神経節がそこにあったことを示している.大浅錐体神経溝Sulcus nervi petrosi superficialis majoisという細い溝が三叉神経圧痕から外側へ向かって伸び,顔面神経管裂溝Hiatus canalis nervi facialisという小さい門に至っている.この裂溝は錐体の内部にある顔面神経管に通じるものである.その外側方に,あるいは大浅錐体神経溝の終わりの部分に,小さい小浅錐体神経小管の内口Apertura interna canaliuli n. petrosi superficialis minorisがあり,大錐体神経校に平行するごく細い小浅錐体神経溝Sulcus n. petrosi superficialis minorisがそこに達していることがしばしばである.さらに後外側方には,まるみのある高まりの弓状隆起Eminentia arcuataがあって,聴覚器の迷路に属する上半規管Canalis semicircularis superiorの位置を示している.この隆起と錐体鱗裂との間の領域は鼓室の屋根をなす薄い骨板で占められており,これを鼓室蓋Tegmen tympaniという.後面は錐体の小脳面Facies cerebellaris (posterior interna) pyramidisとよばれ,上内側方へ向かっており,後頭蓋窩の形成に参加している.この面のほぼ中央に内耳孔Porus acusticus internusがあって,これは短くて広い内耳道meatus acusticus internusに通じている.この道の底は内耳道底Fundus meatus acustici interniとよばれ,ここに横稜Crista transversa(図227)という1本の横走する隆起の上側に,顔面神経管口Introitus canalis n. facialisがひらいている.

 

[図227]内耳道底(×5) 左の側頭骨

 内耳孔の外側には錐体稜の近くに弓状下裂孔Hiatus subarcuatusがあり,そこは新生児では弓状下窩Fossa subarcuataというくぼみになっている(図225).さらに下方,内耳道から外側へほぼ水平方向に8mmへだたったところに,重要な裂隙状の前庭小管内口Apertura interna canalilculi vestibuliがあって,下外側方へ向かって開いている.

 錐体部の下面(図230)は錐体頭底面Facies basialis pyramidisとよばれ,茎状突起Processus styloidesとともに側頭骨の舌骨部Pars hyoideaをなす.茎状突起は茎状突起鞘(半鞘)Vagina (Semivagina) processus styloidisで基部をとり巻かれている.そのうしろには顔面神経管の外口があり,これを茎乳突孔Foramen stylomastoideumという.その内側には頚静脈窩Fossa jugularisがある.頚静脈窩は錐体の後縁にぎりぎりに密接しているので,後縁に頚静脈切痕Incisura jugularisという切れ込みをつくっている.

S.158    

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る