Band1.198   

d)頭蓋の内面と頭蓋腔Cavum cranii, Schdidelhöhle(図263, 272, 276)

 頭蓋函の内腔は一部は頭蓋の円蓋を成すいぐつかの皿状の骨によって, また一部は頭蓋底の諸骨によって囲まれている.そのうち前者は骨の厚さが一様であるが,後者は厚さが非常に不均等である.

 頭蓋腔の壁の最もうすい部分は篩板,眼窩の上壁の中央部,蝶形骨体の上壁,側頭骨の下顎窩,鼓室蓋,側頭鱗の中央部,顆窩および小脳後頭窩の領域である.頭蓋底骨折は一部は骨の各部分の薄さによって,また一部は頭蓋底の諸孔によって影響をうけるけれども,決してそれだけできまるのではない.むしろこの場合は打撃の方向とその侵襞点が最も問題となる.

 頭蓋腔の上壁と側壁とはひとつづきの円蓋をなしているが,これに反して頭蓋底の領域すなわち頭蓋底の内面Facies interna baseos craniiはテラス状にいくつもの段があり,そのほか数多くの特別な形状を示している.頭蓋底が2度おちこんでいるために,各側に3つの広いくぼみが生じ,その形が脳の底面のかたちとおよそ一致している.これら左右のくぼみの間に,中央の不対性の区域があって,篩板Lamina cribriformis,鶏冠Crista galli,蝶形骨の上面, 下垂体窩Fossa hypophyseos,鞍背Dorsum sellae,斜台Clivus,大後頭孔Foramen occipitale magnumからなっている.

 前頭蓋窩Fossa cranii frontalisは強く発達した脳回圧痕Impressiones gyrorumや脳隆起Juga cerebraliaによって特微づけられている.前方でまるくなっている床をなし,すべての頭蓋窩のうちで最も高く,鎌形に切りとられた蝶形骨小翼の後稜によって中頭蓋窩との間がしきられている.前頭蓋窩は大脳の前頭葉をいれている.蝶骨前頭縫合Sutura sphenofrontalisが前頭骨の眼窩部と蝶形骨の小翼とを結びつけている.

 中頭蓋窩Fossa cranii mediaは前頭蓋窩よりもいっそう深く,中央の鞍部Parssellarisと両側の側頭部Partes temporalesとからできている.前は蝶形骨小翼の後縁で,内側は蝶形骨体の側壁で,うしろは錐体稜Crista pyramidisによって,また側方は側頭鱗によって,限られている.中頭蓋窩の底は蝶形骨大翼の大脳面Facies cerebralis alae magnaeと錐体の大脳面Facies cerebralis pyramidisとによってつくられている.脳回圧痕と脳隆起のほかに次のものを注意すべきである.前の方で上眼窩裂Fissura orbitalis cerebralisが眼窩とのつながりをなしている.また正円管Canalis rotundusが翼口蓋窩に通じ,卵円孔Foramen ovaleが側頭下窩に通じる.棘孔Foramen spinaeは中硬膜動脈と下顎神経の硬膜枝とを頭蓋腔に導いている.中硬膜動脈の幹のための溝は深いこともあり,わりあい浅いこともあるが,側頭鱗の内面に認められる.蝶形骨の側壁には頚動脈溝Sulcus caroticusと蝶形骨小唇Lingula sphenoideaがあり,側頭骨の錐体尖の前には破裂孔Foramen lacerumがあり,また錐体尖の上に半月神経節のための三叉神経圧痕Impressio trigeminiがみとめられる.錐体の大脳面には弓状隆起Eminentia arcuata,顔面神経管裂孔Hiatus canalis facialis,小浅錐体神経管の内口Apertura int. canaliculi n. petrosi superficialis minoris,大浅錐体神経溝Sulcus n. petrosi superf. maj. ,小浅錐体神経溝Sulcus n. petrosi superf. min. がみとめられるが,それらの位置についてはすでに述べた.頚動脈管の上壁はたいてい細大不定の裂け目をつくっているが,それがほとんど認められないこともある.錐体稜の上には錐体稜溝Sulcus cristae pyramidisがある.頭蓋骨の縫合としては[]頭頂縫合Sutura sphenoparietalis,[]鱗縫合S. sphenosquamalis,[]錐体裂Fissura sphenopetrosaが認められ,さらに錐体鱗裂Fissura petrosquamalisが時たま存在する.

 中頭蓋窩は大脳の側頭葉をいれており,側頭鱗の内面ばかりでなく外面にも(G. Schwalbe)その大脳回に一致する凹凸が生じている.下側頭回は鼓室蓋Tegmen tympaniの上にあり,上および中側頭回は側頭鱗に接している.

 後頭蓋窩Fossa cranii occipitalisは3つのくぼみのうちで最も深くて,また最も広い部分を占めている.その上界は錐体稜Crista pyramidisと横溝Sulcus transversusである.前は錐体の小脳面,後外側および下は後頭骨によって境されている.後頭蓋窩の上には脳硬膜の小脳天幕Tentorium cerebelliが張られ,その下に小脳がはいっている.側頭骨の錐体の後面には内耳孔Porus acusticus internus,錐体溝Sulcus petrosus,頚静脈孔Foramen jugulareおよびその孔内突起Processus intrajugulares(側頭骨と後頭骨から1つずつ出ている),S状洞溝Sulcus sigmoidesとその導出静脈,乳突孔Foramen mastoideumがある

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最終更新日13/02/03

 

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