Band1.249   

たいていの陸上動物およびヒトにおいては体肢の上に体をのせて立っているが,その段階に達する前にすでに適当な内部構築ができているのであって,既存の構築がひきつがれ,必要な働きができるようにちよつと補足形成されるだけなのである.つまり骨の内部構築が示すこの美しい像は,骨格というテコの系統に作用する筋肉の力(これもまた線の形で表現しうる)を考えに入れることによってダはじめてよく理解されるのである.

 骨の内部構築が最初に出現するのは生後ではなくて,すでに胎生期に形成されているのであって,このことは強調しておかねばならない.とすればこれは先天性に伝承されるものだということは確かであろうが,また一方,このさい胎児の筋肉の張力や圧力がこ

の先天的獲得現象の全過程において協同して働いていないとは言いがたい.

 以上のようなわけで,骨質は静および動力学的にそれが存在するに値するところにだけ,従って抵抗力線に沿ってのみ沈着し,この力線からはずれたところに拡形成されないのである.このようなことがどうしておこるかということは,有効なものだけが要求され,無効なものは完成されないか,あるいは消失してしまうという自然の一般法則に通じるものであろ.

 治癒しつつある骨折の仮骨のなかにも適当な構築が再現されることも,ここで述べておく価値があろう.

[図372374]海綿質の曲線 図372は上腕骨の下端部,図373は尺骨の上部,図374は橈骨の上部.(Hultkranz)

3. 骨格の素材の弾性と剛性

すでに単細胞生物界に,いろいろな種類の実に素晴しい丈夫な,からだの支持機構が見られる.生物のからだが大きくなればなるほど,軟かい部分を充分に支える必要が増す.からだの各部分のつながりを丈夫にすること,軟かい構造に支えをあたえること,筋肉へ固い起始・停止面を,また単一および複合のテコを提供すること,保護器官や武器や道具としての器官をもつこと--動植物界を間わず硬い器官というものはこうしたことを目的として発達してぎたのである.水棲の動物にも硬い器官は広く分布してはいるが,地上や空中に住む動物にくらべると,その存在を保持するための硬い器官をさほど必要としない.ところで硬い器官に利用される素材はひじょうに多種多様である.なかでも重要なものはセルローズ形成・木質化・硅酸化・石灰化・キチン形成・角質形成.軟骨および骨の形成である.硬い器官への生物体の要求は1つの素材だけで充たされるのではなく,また必要とされる硬い器官のそれぞれが1つの素材で造られるわけではない.

 硬い器官の形・天きさ・はたらき,ひいてはそれによって支えられる生物のからだ全体に対する素材の影響は非常に大きい.このことはたとえば成人あるいは新生児でもかまわないが一の大腿骨が,かりに軟骨ばかりでできていると考えて見れば,よく理解されよう.この軟骨はもちろん立派な1つの硬い器官を形成するけれども,ここにつくられる大腿骨は全く趣きをことにしたものであろう.実際には大腿骨体の骨核はすでに胎生第7週で出現し,骨が軟骨をとりかこみ,軟骨という素材が機能上適当である部分だけにそ素を残して,次第にこれにとって代つてゆくのである.

 軟骨は骨とは全く違った弾性と剛性を示す.陸上動物は純粋な軟骨だけで間に合わすことはできない.そこでこの方面からみても骨の形態の問題に特別の光があたえられるのであって,骨格という素材の弾性と剛性について研究することは全く形態学の上で興味のあることなのである.

S.249   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る