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 Triepel(1902)によれば,腱にはわずかながら弾性があり,腱を引きのばすときにはその長さが約4%まで増加する.--これはNauck(Morph. Jhrb.,1931)が確かめたように,腱の1次線維束が波状を呈して走ることによるのであって,この波状走向は生体を観察するとき,または新鮮な腱をしらべるときに,筋の静止状態では存在するが,筋の収縮,あるいは腱を引き伸ばすときには消失することがわかるのである.

 起始腱Ursprungssehnenと停止腱Ansatzsehnenとがある.またその形状によっては,短い腱,長い腱および幅の広い腱が区別され,全くいろいろな形にできている.著しい広がりを示す平たい腱は腱膜Aponeurosis, Aponeuroseと呼ばれる.また1つの筋を2つあるいはそれ以上に区分する中間腱Zwischensehneもある(図492,腹直筋).なおまた,2点の間をとび越えて1つの隙間を橋渡ししている腱弓Arcus tendinei, Sehnenbögenがある.中間腱の特別な形の1つは,円蓋状をなす筋の中心腱であり,例えば横隔膜の腱中心, 頭蓋表筋の帽状腱膜および毛様体筋の中心腱としての角膜の内境界膜がそれである.

d)筋膜 Fasciae, Muskelbinden

 筋膜は結合組織性の広がった膜で,これが個々の筋および大小の筋群を包んでいる.筋膜は筋の間に入りこんで隔壁となり,固有の結帯装置を作り,多くの筋に起始面および停止面を提供することによって,筋膜は筋肉にとっては第2の骨格ともいうべきものを形成している.いわば骨性の骨格に対する線維性の骨格fibröses Skeletである.筋膜は骨性の骨格ども多くの場所で直接に結合している.また筋膜は身体の全領域を包んでいる.

 筋膜は筋群および個々の筋に対して,またそれに包まれている筋以外の軟部組織に対して保護被膜Schutzhüllenとして,なお筋にとっては起始する場所Ursprungsstellen,あるいは停止する場所Ansatxstellenとして,更にリンパおよび血液に対しては吸引装置Saugapparateとしての役をしている.

 多くの場所で筋膜のつずきが特別な線維性器官fibröse Organeを成して,これが腱をその位置にしっかりと保つはたらきをしている.これが腱鞘Sehnenscheidenおよび腱滑車Sehnenrollenである.

 大小いろいろの広がりを示す筋層を被う線維性の膜として,筋膜は一部は筋の外表面を被い,一部は筋の深部にはいっている.多くの場所で表面の筋膜から横へ突起,すなわち筋中隔Septa intermusculariaがでて筋の深部に侵入して,筋を2つの筋あるいは完全な2つの筋群に分けている.

 筋膜の強さはすこぶる多様である.筋肉の多くの場所では筋膜が非常に薄いので特別な名前をつけられていない.他の場所では筋膜は強大な内, あるいは外の線維膜となっており,引っ張る力に対して著しく抵抗する.

 比較的つよい筋膜ではすでに肉眼でみて,2重になった線維の走向を区別することができる,その1つは筋線維の方向に対して横に走り,他は筋線維の方向に平行している.横に走る線維束こそは,筋が収縮するときに生ずる筋の膨らみに対して抵抗ずるのに特に適しているわけである.

 筋膜と腱とはともに結合組織に属するものであるがやはりそれぞれ違った器官である.幅の広い腱,すなわち腱膜Aponeurosenも決して筋膜ではない.筋膜が多数の筋に対して部分的に,また全体としてその起始する場所,あるいは停止する場所をなしているということからして,筋膜は骨格Skeletに近いものである.前にも述べたように筋膜はFibro-Skelet(線維と骨格をいっしょにした系統の意)の形で骨格系を完全ならしめている.

 多くの表在性の筋では,皮膚から浅いところにある筋膜と筋肉を包む筋膜とが一体をなしている.そのようなことは大胸筋,三角筋,外腹斜筋,僧帽筋,広背筋,大臀筋においてみられる.

 筋膜は実地医学においては重要な役割をなしている.すなわち病理学Pathologieでは筋膜は深部の腫脹に対して,圧追を加えて危険を起すことがあり,液体および侵入した異物を一定の路に導くこともあり,筋膜が裂けて筋ヘルニアを誘いおこす等のことがある.外科学Chirurgieでは筋膜は道標としてある程度役だっている.つまり筋膜についての知識は高い実用的意義がある.

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最終更新日13/02/03

 

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