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 この腱膜は腹直筋に対して,高さにより異なった態度をとる.腱膜の上部は腹直筋鞘の後壁の形成にあずかる.またこの部分は内腹斜筋の腱膜の後葉と融合していて(図494, 495),これといっしょに,同じ距離だけ下方に延びて,相ともに半環状線にまで達している.腱膜の下部は内腹斜筋の腱膜の前葉とつながり(図496),腹直筋鞘の前葉の形成にあずかっている.

 腹横筋の下縁はすこぶる変化に富んでいる.若干の例では鼡径靱帯にまで達しているが,他の場合には著しく上方(5cm以内)で終っている.下部の線維は内側鼡径窩を被う腱性の板に移行している.

 神経支配:第7~第12肋間神経ならびに腸骨下腹神経,腸骨鼡径神経および陰部大腿神経による.

 脊髄節との関係:Th. VII~L I;EislerによればTh. (V)VI~L. II

 作用:この筋の上部は,これが起始するところの肋骨を内方に引き,それによってこの筋の下部だけが単独に作用するときと同じように腹腔を狭くする.

 変異:この筋が完全に欠けていることがある.この筋の重複は1例だけ知られている.下部の6本の肋骨から起るかわりに,しばしば下部の5本の肋骨だけから起っている.腱画が観察されており,また内腹斜筋,内肋間筋,胸横筋,横隔膜とのつながりがみられている.

b)背方の腹筋
1. 腰肋突間筋Mm. intercostales lumbales. (図487)

 これは腰椎の肋骨突起のあいだに張っている.

2. 腰方形筋M. quadratus lumborum. (図505)

 長めの四角形の扁平な筋で,脊柱のそばで,最下の肋骨と腸骨稜とのあいだ,腰腱膜のすぐ前方にある(図488).背,腹の2部よりなり,この両部はいろいろな様式でたがいに癒着している.その後方の部分は腸骨稜と腸腰靱帯とから起り,第1~第3(4)腰椎の肋骨突起ならびに最下の肋骨に達する.前方の部分は第(2)3~第5腰椎の肋骨突起からでて,これも最下の肋骨に達する.

 神経支配:肋下神経および腰神経叢.

 脊髄節との関係:Th. XII, L. I~III

 作用:最下の肋骨を下方に,寛骨を上方に引きあげることができる.

 変異:前方の部分は第12胸椎体に達していることがある.起始尖頭の数は普通よりも多くなっていることも,また少くなっていることもある.

腰三角Trigonum lumbale, Lendendreieck(図482, 488)

 腸骨稜,外腹斜筋の後縁および広背筋の前(外側)縁のあいだに1つの三角形の裂け目があって,その底は腸骨稜で作られ,尖端を上方に向けている.この裂け目は,大きいことも,小さいこともあって,個体によってその大きさが著しく変動するものである.これを腰三角Trigonum lumbale, Lendendreieckという.腰三角は脂肪組織で満たされている.この脂肪組織を取り除くと内腹斜筋が現われ,この筋は腰三角の内側の境をなしている.1/3の例では腰三角が存在しない.

腹圧Bauchpresse

 前腹筋の全部によっていわゆる腹圧Bauchpresseが生ずる.すべての腹筋の共同活動によって腹腔が狭められ,腹部の内臓および骨盤の内臓ならびにその内容に圧力が加えられることが明かである.すなわち腸および臍胱の内容を排出するとき,嘔吐のとき,分娩に際して胎児を外に出すときに腹圧が高められる.--そのうえ腹圧にはさらに横隔膜および骨盤底の筋も関与している.

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最終更新日13/02/03

 

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