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5. 固有小指伸筋M. extensor digiti quinti proprius. (図543, 544)

 その細い筋腹は1つの筋間腱板を介して総指伸筋と結合している.その終腱は背側手根靱帯の下では,たずそれのみで,第5の管を通り抜けるが,そこで2つの腱に分れて,これらの腱が第5指の指背腱膜に達するのである.

 神経支配:橈骨神経による.

 脊髄節との関係:C. (VI), VII, VIII.

 作用:第5指を伸ばす.

 変異(固有小指伸筋の腱の分裂は日本人では男207体側のうち64体側(30.9%),女93体側のうち23体側(24.7%〉(小金井),アイヌ入10体側のうち8体側(佐野)である(小金井良精,新井春次郎,敷波重次郎:東京医学会雑誌17巻,127~131,1903;佐野好:福岡医科大学雑誌,24巻,31~117,1931).):この筋は全く欠如していることがあり,また総指伸筋あるいは尺側手根伸筋の1つの筋束によって代られていることもある.この筋は第5指にはただ1本の腱だけをあたえたり,あるいは2本に分れた腱の1つを第4指に,他の1つを第5指にあたえたりする.またM. extensor digiti minimi accessorius(副小指伸筋)が存在することがある(5%,Krause).

6. 尺側手根伸筋M. extensor carpi ulnaris. (図543, 544)

 この筋の起始は総指伸筋と共通になっていて,上方は肘筋の内側に境し,肘筋よりも下方では尺骨の上部に始まり,尺骨の後面を下方に走って,背側手根靱帯の下にある第6の管を通り,尺骨小頭のところを過ぎて,第5中手骨の底に達する.

 神経支配:橈骨神経による.

 脊髄節との関係:C. (VI), VII, VIII.

 作用:この筋は手を伸ばし,且つこれを尺骨がわに外転する.

 変異:ごくまれには尺骨の後面から起っている.肘筋,上腕三頭筋,固有小指伸筋,小指外転筋との結合がみられる.

7. 肘筋M. anconaeus.

 すでに述べたものである.

β. 深層tiefe Schicht

1. 長母指外転筋M. abductor poilicis longus. (図542, 545, 546)

 この筋は尺骨の後面,前腕骨間膜および橈骨の後面から起り,短母指伸筋といっしょになって,長と短の両橈側手根伸筋の腱の上を越えて走り,第1中手骨の底に固着している.

 神経支配:橈骨神経による.

 脊髄節との関係:C. VI, VII.

 作用:この筋は前腕を回外し,手と母指とを外転する.

 変異(長母指外転筋の停止腱の分裂は日本人89.3%,アイヌ人100.0%,短母指伸筋とこの筋との癒合は日本人16.1%,アイヌ人20%である(佐野好:九大医報,4巻,138,1930;同じ著者:福岡医科大学雑誌,24巻,31~117,1931).):この筋は2~4個の腱をもつことがある.これらのうちの1つは通常の停止をするが,他の1つあるいはいくつかが大多角骨に停止したり,あるいは母指球の筋の中に入ってこれと合したりする.最後の場合にはこの腱が母指球の筋の副起始となっているのである.

2. 短母指伸筋M. extensor pollicis brevis. (図542, 545547)

 橈骨の後面およびこれに隣接する前腕骨間膜から起り,長母指外転筋,といっしょになって橈骨の下部では長と短の両橈側手根伸筋の腱の上を通り過ぎて,母指の伸側に達する.

 そのさい長母指外転筋と短母指伸筋との腱は背側手根靱帯の下では第1の管を通過する.短母指伸筋は母指の基節骨の底に停止していて,その腱は長母指伸筋の腱と合している.

 神経支配:橈骨神経にょる.

 脊髄節との関係:C. VI, VII.

 作用:この筋は母指を外転し,その基節骨を伸ばす.

 変異:この筋はしばしば長母指外転筋と完全に融合している.その筋腹あるいはその腱だけが重複していることがある.

3. 長母指伸筋M. extensor pollicis longus. (図542544)

 この筋は前腕骨間膜および尺骨の一線条部から起り,その腱は背側手根靱帯の下で第3の管を通り,手背では長と短の両橈側手根伸筋の腱の終末部の上を越えて走り,短母指伸筋の腱と合して母指の末節骨の底にまで続いている.

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最終更新日13/02/03

 

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