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両側の心房と心室の間を分ける隔壁は全く穴がなく,また心臓の左右両側に共通のものである.つまり心臓はこの中隔によって深いつながりを持つた左右2つの部分に分れているのである.右半分は黒ずんだ静脈性の体の血液を取り入れてそれを送りだし,左半分は肺から来た鮮紅色の血液を取り入れてそれを送りだす.2つの血管の流域が異つた広がりをもつことと,それに関連して血液をしてこれらの部分を通らせるために必要な力の強さが異なっているために,この2つの部分を囲む壁の構造と厚さがいろいろ違っている.この両側半には共通するいくつかの特徴がみられるけれども,また心臓の4つの部分にそれぞれ固有な特徴があり,これらは胎生期および生後の機能をよく現わしている.これらの特徴ははなはだ著しいもので,したがって容易に各部が区別できる.また心臓の両半は完全に対称的な作りをしているのでなく構造上の重要な非対称性を数多くもっている.構造の上だけでなくまた位置の上の非対称性もある.これについては少し後で述べることにする.

心房部と心室部および付属装置の総論

 まずそれぞれの部分に共通したことの概要を説明する.

a)心房部

 心房部は薄くて,そこにはいる太い静脈と直接つながっている(図619, 622).

 後面は斜め右上方に向かって縦走する溝を有し,全体として膨らんでいるが,前面は横の方向に強くへこんでいる.それゆえ全形は馬蹄の形に近くて,その前面にあるくぼみをもって2つの大きな動脈幹を抱いている(図621).

 左右の心房は後方のいっそう大きい部分である狭い意味の心房Atrium, Haupthöhleと前方の小さい部分,すなわち心耳Auricula cordis, Herzohrとに分れている(図618).

 心房の内壁の大部分は平滑であるが,心耳の壁にはたがいに密に並んだ小梁,つまり心房肉柱Trabeculae carneae atriorumが突出している(図623).

b)心室部

 心室部は円錐形で矢状方向に平たくて厚く,また丈夫な壁でとりかこまれている.心室部(図618, 621)からは大きな動脈性脈管の,つまり肺動脈A. pulmonalisと大動脈Aortaが出る.前面を縦走する溝(前室間溝)は左の縁に近い所を走り,後面にある溝(後室間溝)は右の縁の近くを走るから,前面のほとんど全体は右心室によってしめられ,後面の大部分は左心室によってしめられる.横走および縦走する溝のなかには心臓壁の栄養をつかさどる動脈と静脈との幹がリンパ管,神経とともに通っている.これらのものはたいてい脂肪組織で包まれている.

 心室の内面はほとんど大部分が平滑でなくて,いろいろな状態をした筋肉の束が突出している,その一部は全長にわたって心室壁にくっついていてわずかにもり上つているが,一部は索状になって遊離し,ただ両端で壁に着いている.この2つの形の筋肉の束がはっきりと網を作ていることがあり,心室肉柱Trabeculae carneae Ventriculorum,Fleischbalken, Balkenmuskelnと呼ばれている.

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最終更新日13/02/03

 

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