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 一方,尖は心室中に突出して,それに固着する腱索によってその位置に保たれている.主要な大きい尖と尖のあいだの隅に,補助的な意味をもつ小さい補助尖Hilfssegel,または中間尖Zwischensegelというものが多くの場合みられる(図621, 623, 625).

 各々の尖のほぼ中央部は他の部分より厚くなっているが,縁に近いところはいっそう薄くなり,また透明で,縁じしんはギザギザになっている.

 房室弁は心臓壁に含まれる輪状の線維輪Anulus fibrosusという結合組織部からおこる.この線維輪は1ヵ所(ヒス束Hissches Bündel, 530頁参照)を除いて心房と心室の筋肉を完全に分けているが,心筋の間質結合組織とはつながっており,弁尖内部の基礎をなす結合組織に移行している.左側の線維輪は前方で大動脈壁に接しており,そのため前方にある尖が左側では大動脈の基部から起るので,この点で左と右の線維輪には相違がある.前尖をなす2枚の薄膜のうち1枚は大動脈の内膜の続ぎであり,他の1枚は左心房の内膜の続きである.この2枚の膜のあいだに線維輪からつづく結合組織の板があって,その外面から心房の筋束がはじまっている.この結合組織板が線維輪に移行する2つの個所は厚くなっていて,それぞれ非常に丈夫な部分,すなわち房室弁の結節である線維三角Trigonum fibrosumとなっている.この部分は多くの動物で骨組織をもっているが人では純粋に結合組織の性質である.Becher(1934)によると「軟骨様」の組織からなるという.この2つの結節からはそれぞれ,線維輪の中に強い円柱状の紐である冠状溝束Fila coronariaを送っている(これはいつもあるとは限らない).完全なときにはこの紐が4本あり,左右にそれぞれ前後の2本ずつである(図620).

[図620] 線維輪と線維三角 水平面にみる

 それぞれの尖につく腱索Chordae tendineaeには3つの種別Ordunngenが区別される.

 腱索の第1種は,各尖に多くの場合2~4つずつあって,これらの腱索は2組の乳頭筋あるいは心室壁からでて,尖の基部に付着している.第2種は,前者にくらべて数も多くまたいっそう小さい腱索であって,やはり2組の乳頭筋からでて,たがいにわずかな隔たりをおいて尖の基部と閉鎖部との間に固着している.第3種は,数が最も多くまた最も細い腱索であって,第2種のものから枝分れして尖の薄い周辺部の背部および縁のところに固着している.

 乳頭筋は心室壁のどこにもあるというわけではなく,きまった場所にだけある.すなわち乳頭筋は2つの尖と尖のあいだに相当する位置にある.右心には乳頭筋,あるいはその群が3つあり,左心には乳頭筋あるいはその群が2つある.尖と尖のあいだに当る場所にある乳頭筋は,それぞれの位置に応じて,その側面または先端から別々の尖の縁に腱索を送るようになっている.

 血液の充満した心室が収縮すると各々の弁尖はその面の一部(閉鎖縁)をもってたがいに接着し(図621),それによって房室口が閉じて,心房への血液の逆流は妨げられる.腱索はそのとき血圧のために心房に向かって押しやられようとしてふくれあがる尖をつなぎとめるのである.心室と同時に収縮する乳頭筋がこの腱索の働きをカつよく助けている.

β. 大動脈弁Valvula aortae, Aortaklappeと肺動脈弁Valvula a. pulmonalis, Pulmonalisklappe(図621, 624, 625)

 この2つは大動脈および肺動脈の初まる所にあって,それぞれ3枚のポケット状のひだ,すなわちVelaからなっている.各々の帆は凸縁で動脈壁に付着し,ほとんどまっすぐに走る方の縁は遊離して血管内腔に向かっている.

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最終更新日13/02/03

 

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