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 一般に重量は年をとると増すが,時には高令になって重量がはなはだしく減ずることがある.

 心臓と体重との比はMeckelによると新生児では1:120である.成人では同じくMeckel,1;200, Tiedemann 1:160, M. J. Weber 1:150, Clendenning男1:158, 女1:149, Reid男1:173, 女1:176, E, Bischoff死刑囚の1例1:209.6, Blosfeld男1:178, 女1:169, Dieberg男1:167, 女 1 :154となっている.

 Pfuhl(Z. Anat, Entw.,89. Bd.,1929)は若い逞しい男の“正常な心臓”の表面積は369qcmで,右心房は48qcm,右心室は113qcm,左心房は51qcm,左心室は96qcmであるとし,また健康な男の心臓の表面積は300qcmと400qcmの間であるとしている(Anat. Anz., 68. Bd.,1929).(日本人の成人心臓の重量と体重の比は平均して男6.81, 女6.77(心重gr/体重kg)である(岡暁, 京都医誌38巻,昭和16年下).)

 心臓の大きさについての非常におもしろい一般的な関係がHesse, R., Das Herzgewicht der Wirbeltiere, Zool. Jahrb., Bd. 38,1921に述べられている.Stieve(Med, Klinik,1938)によるといろいろな種類の動物の心臓を比較すると,心臓の大きさは単に筋肉のなす仕事に関係するのではなくて体温調節の作用につよく影響されることが明かであるという.

心臓およびその各部の局所解剖(図632)

 心臓の位置は心臓の搏動と呼吸の各時期に伴って少し変る.また体位, 年令による差異, 個体差, 性差が多少ある.

 心臓の長軸は正中面になく,また上下の方向にのびているのでもなく,右後上方から左前下方に斜めに走っている.

 心臓は縦隔の前部にあり心膜に包まれて,左右の胸膜腔の間にはさまれて横隔膜の腱性部の上にのっている.

円蓋状を呈す横隔膜には心臓によって心圧痕Impressio cardiacaというへこみが作られ,これは肝臓の凸面にもおよぶへこみとなっている.胸骨と肋骨,胸膜腔と肺のそれぞれ一部および退化変性した胸腺の残りが心臓を前方から被っている.

 心臓と脊柱のあいだには縦隔の後部にある諸器官,すなわち食道, 迷走神経,大動脈,縦胸静脈,胸管が入りこんでいる.

 心臓の約2/3は正中面より左側にある.若干の例ではそれより少し大きい部分が左によっている.死体を凍結して正中断すると胸腔の右半分には心耳の先端を除く右心房,心房中隔および左心房の一部と右心室の一部とが属し,それゆえ左半分には残りの左心房の大部分,左心耳, 左心室の全部および心室中隔を含む右心室の大部分が属する.重量でいうと心臓の2/3は左側にあり,1/3は右側にある.

 上下の方向についてみると,心臓は胸骨体の下半分の後方にあり,第3肋骨の上縁から剣状突起の底にまで達している.

 心臓にはそれに隣接するものによって胸肋面脊椎面肺臓面横隔面といったいろいろな面が区別されるが,これらのなかで胸肋面(あるいは前面ともいう)が生体の心臓を診察する上に最も重要である.心臓の胸肋面は右心房と右心室の前壁および左心室の狭い帯状の部分からなる.心膜の前部で被われている胸肋面の大部分が前胸壁の後面に直接しているのではなく,その間に両側の肺臓の薄い前縁と左右の胸膜腔の心前陥凹が入りこんでいて,直接する部分の広さは個体的にちがうが概して小さいのである.心臓の下面すなわち横隔面は平らであって,左右の心室および左右の心房の諸部からなり,いくぶん傾いた腱中心の上および横隔膜の筋性部のうちの小部分の上にのっている.横隔膜の上面で心臓に接するところは心臓床Herzbodenとよばれる.心臓の脊柱面は左右の心房,特に左心房の後壁からなる.心臓の冠状溝は前からみると,右の第6肋骨の胸骨付着部の上縁から左の第3肋骨の胸骨付着部にいたる線に相当している.

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最終更新日13/02/03

 

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