Band1.554   

A. 下顎部の枝(これはほとんどすべて骨内の管のなかにはいる)

a)深耳介動脈A. auricularis profunda.小さな枝で顎関節の後がわと外耳道および鼓膜にいたる.外耳道にゆく枝は鼓室部の前壁と錐体鼓室裂を貫く.その枝の1本は鼓膜に達して,そこの皮膚層に広がっている.

b)前鼓室動脈A. tympanica anterior.これもやはり顎関節を養うもので,ついで錐体鼓室裂にいたり茎乳突孔動脈とともに鼓室内の諸器官に分布し,また鼓室の壁に分布する.

c)中硬膜動脈A. meningica media.これは脳硬膜にいたる血管のなかではいちばん太い動脈であって,また顎動脈のいちばん太い枝でもあることが多い.下顎神経の硬膜枝とともに棘孔を通って頭蓋腔に入り,その高低いろいろのところでそれぞれ1本の前枝と後枝に分れる.これらの枝は硬膜の外面に付着して骨壁の溝のなかを走り,そこで枝分れして脳膜と骨および(穿通枝により)頭蓋外面の軟部をも養っている.前枝は前頭蓋窩・眼窩・鼻腔にまで達するが,後枝は主に頭頂骨の領域と後頭骨の上部とに分布している.

 錐体鱗裂を通って1本の小枝が鼓室と乳突蜂巣にはいる.前枝と後枝に分かれる前の幹から若干の細い枝が出るが,その1つは浅錐体枝R. pyramidis superficialisとよばれて鼓膜張筋にいたり,他の1本は上鼓室枝R. tympanicus superiorといい顔面神経管裂孔を通って鼓室に入り,茎乳突孔動脈とつながっている.第3の枝は小浅錐体神経管の内口を通って鼓室にいたる.眼動脈の枝との吻合については557頁を参照されたい.

 なお頭蓋の外で顎動脈,または中硬膜動脈が副硬膜枝Ramus meningicus accessoriusを出していることが少なくない,これは内外の両翼突筋,口蓋から下方に向う諸筋,および耳管に枝をあたえ,また卵円孔を通って頭蓋腔にはいる杖をもって半月神経節と脳硬膜のこれに隣接する部分を養っている.

d)下歯槽動脈A. alveolaris mandibularis(図641, 642).これは下顎管にいたり,その中をずっと走ってオトガイ孔から1本の太い側枝,オトガイ動脈A. mentalisを出している.オトガイ動脈はオトガイと下唇で枝分れして,下唇動脈およびオトガイ下動脈の枝と吻合する.下顎管にはいる前に下歯槽動脈は長い顎舌骨筋枝R. mylohyoideusを出し,これは同名の神経とともに下顎骨の顎舌骨神経溝の中を顎舌骨筋に向かっている.下顎管の中を走るあいだに下歯槽動脈は多数の小枝を骨・歯槽・歯・歯肉に送っている.

B. 翼突部の枝(咀噛筋群にいたる) (図641, 642)

e)後深側頭動脈A. temporalis profunda posterior.これは頭蓋骨と側頭筋のあいだを上方にすすみ側頭筋の後部を養っている.

f) 前深側頭動脈A. temporalis profunda anterior.前者と同じく側頭筋の深部に達する.しばしば頬骨内の頬骨管をへて枝を涙骨動脈ならびに顔面に送っている.

g)咬筋動脈A. masseterica.この動脈は下顎切痕を通って咬筋に達する.その起始はしばしば後深側頭動脈とつながって1本になっている.

h)翼突筋枝Rr. pterygoidei.内外の両翼突筋にいたるいく本かの枝である.

i)頬動脈A. buccalis.前下方に走って頬筋にいたり,この筋と付近の顔面筋に枝を分ち,顔面動脈の枝および顔面横動脈の枝と吻合している.

 S.554   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る