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この動脈はまず前腕の浅層の屈筋群によって被われるが,前腕のおよそ中央の高さでこれらの筋群から離れて尺側手根屈筋の筋質部に達する.さらに遠位ではもっと浅層にあり,そこでは尺側手根屈筋の腱がこの動脈の内側にある(図652).横手根靱帯の上でこの動脈は深浅2つの終枝に分れ,これらがともに外側に向かって走る.尺骨動脈は2本の静脈を伴っていて,これらの静脈は動脈を囲むようにして横走する多数の短い吻合によりたがいにつながっている.--この動脈の起始では正中神経がすぐその掌側面上にあるが動脈が内側の方にすすむので,この神経はすぐ動脈の外側にあるようになる(図653).尺骨神経はこれに反して尺骨神経溝のところでは動脈からずっとへだたっているが次第にこれに近づき前腕の中央の高さで動脈のそばに達し,その後はずっと動脈の内側にあっていっしょに走っている.

 神経:尺骨神経の掌枝Ramus volarisから出る多数の細い枝および前腕の遠位端で(HahnとHunczeckによると)尺骨神経の幹から出る1本の細い小枝がこの動脈にくる.

 尺骨動脈からは付近の前腕の屈筋群と伸筋群に筋枝があたえられるが,そのほかに次の枝が出ている.

1. 掌側手根枝R. carpicus volaris.何本かの細い枝であることが多くて,方形回内筋の遠位縁で発して掌側手根動脈網にいたるのである.

2. 背側手根枝R. carpicus dorsalis.やや強い1本の枝と細い数本の枝より成り,尺側手根屈筋の付着腱の下をへて背側手根動脈網にいたる(図655, 659, 660).

3. 浅掌枝R. volaris superficialis.これは太くて幹の続きをなし,尺骨神経の浅枝とともに短掌筋と手掌腱膜の下を橈側にすすみ,浅掌動脈弓Arcus volaris superficialisに移行している(586頁を参照).

4. 深掌枝R. volaris profundusは小指屈筋と他の指の屈筋の腱とのあいだか,あるいは短小指屈筋と短小指外転筋のあいだで深部に入り,橈骨動脈の深掌枝とともに深掌動脈弓Arcus volaris profundusを作る(図658).

 変異:R. Quainが観察したところでは尺骨動脈の起始は13例中およそ1例の割りで変異を示していた.この場合には尺骨動脈が腋窩動脈から出ることよりも上腕動脈から出ていることがずっと多く,しかも変異の見られる回数は正常に出る場所からその起始が遠ざかるほどますます減少していた. 前腕における尺骨動脈の位置は橈骨動脈の場合よりも変化が多い.尺骨動脈が正常の場所で始まっているときにはその位置にあまり変化が多くない.しかしこの動脈が正常には尺側手根屈筋の腱に接しているが,そうなっていないでこの筋から離れて走っていることがしばしばある.--尺骨動脈が高位で始まる場合はほとんど例外なくこれが上腕骨の尺側上顆に始まる諸筋の上を越えている,たいていこの動脈は上腕の筋膜に被われてその下にあるが,これがもっと浅くて皮下を通っていることがあり,その全経過を通じて皮下の表層を走り続けることがあり,あるいは後になって筋膜の下にはいりこみ,さらに遠位でこの動脈の正常な位置になるということもある.

  E. Zuckerkandl (1896)によると多くの例で(79%)尺骨動脈に2本の深掌枝があり,そのうち遠位のものが普通にはずっと強大である.近位の枝が欠けていることは決してない(100例をしらべて).しかし遠位の枝は21%に欠けている.近位の枝は豆状骨の近くで始まるが,遠位の枝は浅掌枝が曲がって浅掌動脈弓になるところから出ている(図658).

総骨間動脈Arteria interossea communis (図654)

 この動脈はたいてい尺骨動脈よりも太くて,深指屈筋と長母指屈筋のあいだで骨間膜の上にあり,背側と掌側の2本の枝に分れる.

 1. 背側骨間動脈A. interossea dorsalis(図655)

この動脈は骨間膜の近位部の隙間を通って伸側にいたり回外筋の遠位方にあらわれる.ついで浅深の両伸筋群のあいだを遠位に走り,多数の枝を伸筋群に出して,終りにはたいていは非常に細くなって手根に達する.この動脈から次の枝が出る.

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最終更新日13/02/03

 

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