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大腿動脈は次にのべる諸器官に接したりその上にのつたりしている.上から順にいうと,まず腰筋に接し,ついで恥骨筋の前にいたる.この筋とは大腿深動静脈によって隔てられている.それから長内転筋の前にすすみ,最後に大内転筋の腱の上を通っている.その経過の下方の部分では動脈の外側に内側広筋があり,この筋は大腿動脈と大腿骨の間にはいりこんでいる(図673). 鼡径下窩ではこの動脈は骨盤の前縁を出てから大腿骨頭と股関節の前にある.またこの動脈の下部は大腿骨の内側でこの骨に密接している.しかしその間では全体として骨から離れていて,部分的にはそのへだたりが大きいものとなっている. 大腿静脈は大腿動脈に密接しており,この両者は大腿血管鞘に包まれていて,そのあいだに薄い隔壁があるだけである.大腿骨の上部では静脈は動脈の内側にあり,それより下方では動脈の後方にある.最後に膝窩のごく近くになると,静脈は動脈の外側でその後方にある.

--大腿神経は最初には大腿動脈の外側にあって,そのあいだを腸骨筋膜が境している.それより下方では大腿動脈は伏在神経をその前壁に伴なったままほとんど内転筋管の下端のところまで行く.

 大腿動脈はかなり多数の枝を出しており,その一部は前腹壁と外陰部に分布するが,大部分は大腿部で下方は膝までのところに枝を分かっている.

 神経:この動脈は大腿動脈神経叢を伴なっている.

この神経叢には大腿神経の大腿動脈神経N. arteriae femoralisと陰部大腿神経N. genitofemoralisの大腿枝の枝が来ている.さらに大腿深動脈の起る高さでは3本の枝が大腿神経あるいは伏在神経N. saphenusからきており,また大腿の中央部では伏在神経から1本の小枝がやってくる.

1. 浅腹壁動脈Arteria epigastrica superficialis

 この動脈は鼡径靱帯のやや下方において大腿動脈の前壁から始まり,卵円窩または鎌状縁の近位角を通って前方にでて,前腹壁の皮下を上方に走る.その枝は臍のあたりまで伸びており,内胸動脈の終枝とつながっている(図647, 673).

2. 浅腸骨回旋動脈Arteria circumflexa ilium superficialis

 これは鼡径靱帯の下方をこれと平行して前腸骨棘に向かって走る細い動脈で,それから起る少数の枝が靱帯を越えて,筋膜と皮膚に分布している(図647, 673).

3. 鼡径枝Rami inguinales(図673)

 細い動脈で鼡径部の皮膚とリンパ節に達している.

4. 外陰部動脈Arteriae pudendales externae(図673)

 これは2本あるのが普通であるが,この2本がいっしょになって出ていることもある.そのうちの1本は恥骨結合に向かって内側かつ上方にすすみ,腹壁の下内側部と外陰部のこれに接する部分で枝分れしている.もう1本は恥骨筋の上を越えて内側に筋膜下をすすみその筋膜を貫いて,男では陰嚢枝Rr. scrotalesとなって陰嚢に分布し,女では陰唇枝Rr. labialesとして大陰唇に分布する.この2本の枝ほたがいにつながり,また他側の同名枝とも結合している.

5. 大腿深動脈Arteria profunda femoris(図673675)

 これは大腿動脈とほぼ同じ太さで,たいてい鼡径靱帯より3~4cm下方で大腿動脈の外側壁において始まり,大腿部を養う主要血管となっている.

 初めは大腿動脈の外側にあるが,ついでその後を通って下方にすすみ,内転筋群と内側広筋とのあいだで深部に達する.大腿深動脈の終りの部は長内転筋と大内転筋の間にはいり,第3穿通動脈という終枝になっている.起始してまもなく大腿前方部の諸筋に小枝をあたえるほかに次のはなはだ大きい枝を出している.

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最終更新日13/02/03

 

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