Rauber Kopsch Band2. 014   

その1つは歯冠の部を占めていてエナメル質Substantia adamantina, Schmelz, Emailとよばれ,いま1つは歯の表面でエナメル質をかむつていない部分すなわち歯頚と歯根を被っているもので,セメント質Substantia ossea, ZemenちWurzetrindeとよばれる.まだあまり使われていない歯ではエナメル質の露出した表面に歯小皮Cuticula dentis, Schmelzoberhäutchenという石灰化していないが抵抗力のつよい薄い膜が着いている.

 セメント質は外側が歯根膜Periodontium, Wurzelhautで包まれている.これは脈管を含む結合組織の膜であって,歯根と歯槽壁のあいだにはいりこんでいて,歯槽壁の内面を被う骨膜となっている.したがってこれを歯槽骨膜Periosteum alveolare, Alveolarperiostともいう.

 歯の形態学的な区別morphologische Unterschiede.人間の歯は異型歯heterodontである.すなわち個々の歯が著しく異なった形を呈している.そこで切歯Dentes incisivi, Schneidezähne,犬歯Dentes canini, Eckzähne,小臼歯Dentes praemolares(2つの咬頭を咀嚼面にもつので双咬頭歯Dentes bicuspidatiともいう),Backenzähne,大臼歯Dentes molares(3つ以上の咬頭をもつので多咬頭歯Dentes multicuspidatiともいう),Mahlzäihneに分類される.

 これら各種の歯について,永久歯は上下それぞれ1側に切歯が2個,犬歯が1個,小臼歯が2個,大臼歯が3個である.乳歯は小臼歯を全く欠き,大臼歯が2個だけある.(乳歯では小臼歯とか大臼歯とかいわないで乳臼歯というのが普通である.(小川鼎三))

 よく概観する目的で,いわゆる歯式Zahnformelによって各種の歯の数を模式的に表わすのであって,その場合ふつうは全部の歯の半側だけ(左側だけ)を示すのである.横の棒より上は上顎の歯,下は下顎の歯を示すのである.

永久歯の歯式:

J2. C1. PS. M3

--------

J2. C1. PS. M3

乳歯の歯式:

J2. C1. M2

------

J2. C1. M2

a)永久歯Dentes permanentes (図12, 1428).

1. 切歯Incisivi, Schneidezähne(図12, 1416) 歯冠はのみに似た形をして,水平方向の鋭い切縁Schneidekanteをもっている.この鋭い縁のところが使用につれて上の切歯ではその後面,下の切歯では前面がそぎへらされている.そういう磨滅がおこる前は切歯の切縁は波状に刻まれているか,あるいは3つの尖りを示している.歯冠の前面すなわち唇面は軽い凸をなし,2本の縦走する浅い溝をもっている.これに反して後面すなわち舌側面はへこんでいて,上の切歯では内側縁と外側縁にそってそれぞれ1つの高まり(辺縁隆線Randleistのを示し,この2つの高まりが歯頚に向かってすすんで合して1つの高まり,すなわち歯冠結節(基底結節)Tuberculum dentisに移行している.歯根は長くて単一であり,円錐状で,左右の方向に押された形で,しばしば浅い縦の溝をもっている.歯頚は軽いくびれを示している.

 上の切歯はいずれも斜めに前方に向かっており,下の切歯は顎骨に鉛直の方向に立っている.なお上の歯の方が下の歯よりも幅がひろい.上顎では内側の切歯が外側のものより幅がひろく,下顎では外側の切歯が内側のものより幅が大きい.下の内側の切歯がすべての歯のなかで最も幅のせまいものである.

a)上の切歯obere Schneidendhne a)上の内側切歯(上顎の第1切歯あるいは中切歯)は常にその外側にある切歯(第2切歯あるいは側切歯)より大きい.歯冠の前面は4辺形であって,軽い凸をなし,ここに縦走する2本の浅い溝がある.下内側の隅は直角をなし,下外側の隅が円みをおびている.歯冠の後面はへこんでいて,3角形を呈し,その内側縁と外側縁に1つずつの高まり(辺縁隆線Randleistのがあって,これらが歯冠の頚部で相合して1つの低い高まり,すなわち基底結節Tuberculum dentisをなしている.接触面は3角形をなし,そのエナメル質の縁はV字形を呈している.歯根は円錐状で常に単一であり,4面をもっていて,根の先端は尖らず,むしろ鈍く終わっている.正常な形の顎をもつ人Orthognathenでも上の内側切歯の根は後方に傾いている(16~20°).また歯髄腔は歯じしんとよく似た形をしていて,切縁に向かったところで3つの小さい尖頭をもっている.歯根管の横断形は円に近い.

 右側の上の内側切歯を左側のそれと区別するには3つの目標がある:1. 弯曲の目標(弯曲徴)Krümmungsmerkmat,2. 角度の目標(隅角徴)Winkelmerkmal,3. 根の目標(歯根徴)Wurzelmerkmal.第1の弯曲の点はこの歯を切縁の方向からみたときに最もよく分るのであって,歯冠の前面が側方に向かって(すなわち歯列弓の曲りに応じて)低くなることである.第2の角度の点は歯冠の前面を前方からみると最もよく分るのであって,切縁が内側の接触面とつくる角度が鋭くて,この縁が外側の接触面となす角度が円みをおびているのである.

S.014   

最終更新日13/02/03

 

ページのトップへ戻る